◆◇◆FIRST LOVE-Another Story2-◆◇◆










それは夕食の時のことだった。


その日はエルロンド、エルラダン、エルロヒア、の家族以外に、
エレストールとグロールフィンデルもともに食事を摂っていた。



や双子が主にその日の出来事を話題にし、それにエルロンドたちが相槌を打ったり
エレストールから手痛いツッコミを受けたり(主に双子に)と、楽しい食事を過ごしていた。





そんな時、それはのふとした一言から始まった。




「…なんであたしは裂け谷にいるんですか?」





あたりに沈黙が訪れる。



「な、何を言っているんだ?」

エルロンドが搾り出すように言った一言。



そこにいた全員が同じ事を思っていた。




「ですから、アルウェンお姉さまだって今ロリアンにいらっしゃるでしょう?
 お兄様たちだって成人するまではロリアンにいらっしゃったし。
 でも、あたしはずっと裂け谷だからどうしてなんでしょう?ってことですよ。」




それを聞いて成る程、と納得した後、エルロンド、エレストール、グロールフィンデルが
冷や汗を掻き始めた。




「…まぁ、は生まれて間もないから覚えてなくても仕方が無いだろう…。」


エルロンドのこの言い方から察するにきっと良い思い出では無いだろう。


「…何があったんですか?」




少し警戒気味に尋ねる


ちなみに双子はとにかく笑いを堪えている。





「…多分聞いた後後悔しますよ?」


エレストールに忠告も今のにとっては不安よりも好奇心の方が上。





「…教えてください。」









しっかりと見据えて尋ねるに、エルロンドは大きくため息をついた。


そして、覚悟を決めたかのようにの生まれた約300年前を思い出し始めた。



















それはが生まれて10年、人間でいうとまだ1歳にも満たないころ、
エルフの都、ロスロリアンは歴代稀に見るくらい活気に溢れていた。



第3期になりエルフは子供に恵まれなかった。


エルフとは元々、人間に比べると子供の出生率が著しく低い。

それでなくても近年子供が生まれた、という話を聞いたのは
今から約1000以上前に闇の森のスランドゥイル王に子息が生まれたという噂だけ。



だからこそ、の誕生はロリアン全土をあげて大盛り上がりを見せていた。





ロリアンに住むエルフ達はが第一声に何と声を発するかとか、
立ち上がるのはいつとか、一番初めに覚える歌は何だ等の話題で持ちきり。



そんなエルフ達はもとより、の祖父母にあたるケレボルンやガラドリエルも
毎日とケレブリアンのベッドに赴いては愛しい孫の姿に目を細めている。






その際、ガラドリエルがさらりと言った一言にの父、エルロンドは凍りつく。



はエルラダン、エルロヒア、アルウェンと同様、ここロリアンで育てます。」







を抱き上げて鳥肌が立つくらい美しい笑顔でいう彼女は間違いなく最恐エルフだろう。







横ではケレボルンがニコニコと笑顔で頷いている。


ケレボルンの娘にあたり、の母でもあるケレブリアンもにっこり微笑んでいる。







その中でひとり絶句しているのはの父、エルロンド。


それもそのはず。




彼はを裂け谷で育てたいと思っていたからだ。


たしかにエルフを育てる環境としては裂け谷よりロスロリアンのほうがいいかもしれない。




だが、エルロンドとしては今まで子供の成長をしっかりとその目で見たことはない。


裂け谷の主をしている限りしかたがないことだが彼も父親。


子供、特に娘の成長を見届けたい。







しかし、それを笑顔で許さないガラドリエル。











今回もわざわざロリアンまでくるために執務を数日に渡る徹夜でこなし、
たった一晩で馬を飛ばし此処まで来たエルロンドにはある意味尊敬に値する。


護衛のためについてきたエレストールとグロールフィンデルは
主のこの変貌振りに驚くばかり。





だが、そんな苦労をしてまで娘に会いに来た彼にこの台詞はあまりに過酷だった。






「早めにの部屋の準備をさせましょう。」


長い間抱いていたをようやくエルロンドに渡し、部屋の準備のために部屋を出て行く。




ケレボルンも同様の額にキスを落とすとガラドリエルと共にその場を後にした。













その場に残されたのは、いつもマイペースなケレブリアンと放心状態のエルロンド。

そして、そのエルロンドの腕に抱かれて眠そうにうとうとしている








「まさか…いや、多少は予想はしていたが…」


「この子をロリアンで育てることが反対ですか?」


「…いや、頭ではここの清浄な環境で育てるのが望ましいということは分かっている。
 だが、感情としては…な。」



親指をくわえて眠り始めたに微笑む姿はどこか淋しそうだった。
















それからエルロンドがロリアンに滞在できる期間ギリギリまでと共にした。


出来れば裂け谷に連れて行き、を育てたいと思ったが
一度たりともガラドリエルとケレボルンにそのことを要求するということはなかった。







は、ここで成長し教育を受けるほうが幸せになれる。






そう自分に言い聞かせることによって自分を押さえつけた。



















そしてとうとうエルロンドが裂け谷に戻る日。


主の淋しそうな表情に、エレストールとグロールフィンデルは声を掛けることも出来ない。




入り口まで見送りに来たのはケレブリアンと、ケレボルンとガラドリエル、
そして護衛としてハルディアが来ていた。




「またに会いに来てください。」


「ああ。この子が立って歩くようになるまえに必ず。」




愛する妻とその腕に抱かれたに挨拶をすると、後ろ髪が引かれる思いで踵を返す。



そのまま歩みを進める。






そんな父の淋しそうな後姿がの大きな瞳に映る。


見送りも終わり皆が戻ろうとすると行き成りあたりに大きな泣き声が響く。









それはエルフの研ぎ澄まされた聴覚には辛いものがある。


…どうしたの?急に…」



普段ほとんど夜泣きもしない娘が行き成り泣き出し戸惑う。

背中をぽんぽん叩いたり、身体を揺らして宥めようとするが一向に泣き止む様子はない。




と、丁度そのときその声を聞きつけてかエルロンドたちが戻ってきた。


どうやらは父が離れていくのを赤子ながらに気づいたらしい。




戻ってくるエルロンドに思い切り手を伸ばし抱っこを要求する





だが、もしここでを抱き上げたら愛しいこの娘を放し難くなってしまう。







エルロンドは差し出し掛けた手を思わず躊躇する。




すると横からほとんど目立たない(失礼)ケレボルンがを抱き上げる。



、そなたの父上はまた会いに来てくれると言っておる。
 その日を心待ちにし、今は我慢するのだよ。」




















さて、ここでひとまず現在に戻る。




ここまでゆっくりとした口調で話していたエルロンド。


本人はそんなことを覚えているはずも無くなんだか
くすぐったいような居心地の悪さを感じる。



「それで、どうなったんですか?その後。」


話の本筋を尋ねるに、険しい表情のエルロンドとエレストール。

苦笑いのグロールフィンデル。

笑いを堪えている双子のエルラダンとエルロヒア。



彼らの反応から、がその後何をしたのかまったく見当がつかない。








そして、とうとうエルロンドがその思い口を開いた。











「…噛み付いたんだ。」






「…え?」








辺りが沈黙に包まれる。


それと同時に双子がとうとう堪え切れなくなったのか大爆笑し始めた。




「あ、あの…噛み付いたって…」


「しかも相手はケレボルン殿…。」



つまり、こういうことだ。




エルロンドと離れたくないは抱き上げられていたケレボルンの首筋に噛み付いたらしい。

その時、いつも笑顔のシンゴルの血縁者でもあるケレボルはの笑顔はで固まったとか。


そのため、の気持ちをその行動で汲み取ったケレボルンやガラドリエルは
裂け谷でを育てることを許したらしい。




「ちなみに、未だにそなたの歯型がケレボルン殿の首筋にうっすら残っておる。」




いくら記憶が無いくらい子供のころのこととはいえ、
きっと彼に噛み付いたエルフは後にも先にもだけだろう。







とりあえず、食事終了後
いつも笑顔でどこか影の薄い祖父に手紙を書こうと思ったとか。









ちなみに、今回の話でが噛み付いてまでエルロンドと離れたくないと意思表示をした後
どうにかして裂け谷で育てたいとエルロンドとエレストールとグロールフィンデルが
説得をしたということは伏せられていた。















das Ende



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2004/04/10





はい、すみませんでした!!色々と…

とりあえず、子供エルフであるヒロインがロリアンではなく裂け谷にいる理由。


ついでに、人間でいう1歳にも満たないヒロインが
なぜ噛み付くくらいの立派な歯があるの?と、いう質問は嫌いです。(ぇ


実はこれ、anothr1より先に作られていた話です…。
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