「…え?」

「だ〜か〜ら〜、子供ってどうやって生まれてくるの?」



いつも凛として決して揺らぐことのない顧問長。

だが、今このときばかりは時間が止まってしまったと思うくらい真っ白になっている。


「…な、なぜそれを質問するのですか…?」

「え?だって、今日はあたしの誕生日でしょ?
 だから、400年まえの今日、あたしはどうやって生まれてきたのかなって。」


純真無垢な瞳の

エレストールは悩むばかり。


彼もいつかはに性教育をしなければならないことは分かっていた。

だが、彼女は人間にしても7、8歳。

下世話な話で言えば初潮すら迎えていない小さな子供。


まだ説明をするには早すぎるだろう。


だが、ここで適当にあしらうことはエレストール自身が嫌だった。



「えっと…それは…」

珍しく語尾を濁している。

すると、横から面白いことがあると何故か何処からともなく沸いて出る双子の兄たちが現れた。


「何何〜?」

「どうしたの〜?」



の誕生祭前なので珍しく正装をしている二人。

この双子も正装をして黙っていればエルフでも1,2を争うくらい美形なのだ。

しかし、黙っていないのがこの双子。


いや、この双子はそれこそがもしかしたら一番の魅力なのかもしれない。




「あ、お兄様たち。
 お兄様たちなら分かりますか?」


“何を?”と左右対称に首を傾げる。


「400年まえの今日、あたしはどうやって生まれてきたんですか?」


予想外の質問に少し面を喰らってワンテンポ遅れてしまう。


だが、次の瞬間にはなぜエレストールが困った表情をしていたのか察しがついてにやりと笑った。



…本当にしりたい?」

「はいっ!!もちろんです!!」

「絶対後悔しちゃだめだよ…?」


妙に念を押す双子。

彼らの表情はなぜかこれから世にも恐ろしい怪談話でもするような顔。



は彼らの表情に思わず肩を竦める。


「いいかい、はね…」

「400年まえの今日、母上から生まれたんだよ。」









「「母上のお腹を切ってね…」」










双子のどこか影のある表情には冷や汗がながれる。

それ以上に彼らの言葉があまりに衝撃的で思わず自分の下腹部を押さえた。



「う、嘘ですよ!!だって、そんなことしたらエルフだって死んじゃいます!!」


「そんなことないよ。」

「別に急所を切るわけでもないし。」


「「ただ、死ぬほど痛いけどね〜!!」」




ここで注意しなければならないが、が生まれるときケレブリアンは別に帝王切開ではない。

だが、実際に事情があれば帝王切開だってするのだ。


つまり、双子のこの解釈はあながちハズレではない。



しかし、子供を生むということに幻想と夢を抱くちいさな女の子にとっては衝撃的だろう。


「う…嘘です…そんな…」

大きな瞳いっぱいに涙が溢れる。


頬を真っ赤にしてうるうるする瞳は可愛いが、当のにとってはたまったものではない。


のせいで…お母様が〜…」


とうとう本格的に泣き出してしまった。


すると黙っていないのが彼らの教育係のエレストール。

双子にどこから持ち出したのか分からないハリセンで二人の頭をはたく。



「貴方たちはどうしてそう姫を泣かせたがるんですか!!
 そんな話をしたら姫が泣くのは分かっているでしょう!!」


双子に怒鳴り散らすとすぐに涙でぐしゃぐしゃになっている
の顔をハンカチで優しく拭ってやる。


「で、でもさ〜、」

「結局嘘ではないでしょ?」


エルラダンとエルロヒアの言い訳も今の顧問長には受け入れられるわけがない。

ジロリ、と一睨みすると肩を竦めて苦笑いをする。



「何をしておる。」



ちょうどそこに現れたのは彼らの父親でありここ裂け谷の主エルロンド。


「あと少しでケレブリアンやアルウェンたちが来るのだぞ。
 …エルラダン、エルロヒア…をまた泣かせたのか?」


呆れ気味にため息をつくと未だにしゃくりあげている
優しく抱き上げて同じ目線にした。



「お、お父様…は生まれてきちゃいけなかったんです〜…」

の思いもよらないセリフにエルロンドは驚き、そして少なからず怒りを覚える。


「なぜそのようなことをいうのだ?」

「だ、だって…お母様はを生むときとても辛かったんでしょう?
 大好きなお母様がそんな辛い思いするのは嫌です〜…」



しゃくりあげながら言葉を繋ぐととうとうエルロンドの肩口に顔をうずめて泣き出した。


イマイチ事情が飲めないエルロンドだが、
その原因でもあろう双子に目線で合図を送ると彼らも事情を話した。


が自分はどうやって生まれてきたのかって聞くものだから…」

は母上のお腹を切って生まれてきたって。」



そこまで言うと彼らの父親もがなぜここまで泣き、さらにあんなことまで
言ったのか理解が出来た。



、少し顔を上げなさい。」


優しく髪をなでながら言うとはエルロンドと目を合わせる。


がどのようにして生まれてきたのか知りたいのか?」


「だから、それはお腹を切って…」


だが、エルロンドはを安心させるように小さく微笑んだ。


「いや、たしかにやむ終えない場合はそのような場合もあるが、
 ケレブリアンは決して切ってなどいない。」


父の言葉に瞳を大きく見開く

だが、すぐに安心したように微笑んだ。


しかしこうなるとさらに疑問は深まるばかり。



「じゃあはどのようにして生まれてきたのですか?」


また振り出しに戻る。

エルロンドが少し目線を動かすと顧問長が苦笑いをしていた。


そこでまたエルロンドはエレストールがなぜ少し困っていたのか理解できた。


「良いか、は今日この日から400年前に生まれた。」


ゆっくりとその日を思い出すように言葉を繋ぐ。




「どのようにして、というと。
 それははこの中つ国に生まれることが望まれたから、生まれてきたのだ。」


大人たちが聞いたら逆に首を傾げるであろうエルロンドの答え。


「望まれた、というのは誰が望んだんですか?
 ヴァラールですか?」

するとエルロンドは首を左右に振ると諭すように優しく言う。



「私やケレブリアン、エルラダン、エルロヒア、アルウェン。
 また、エレストールやグロールフィンデル、他皆がに会いたいと望んだから
 生まれてきたのだ。」


つまり、“はどのようにして生まれてきたのか?”という答えは

“望まれたから生まれた”というのが答えだとエルロンドは言う。




その答えにはさっきと打って変わって嬉しそうに微笑んだ。


エレストールやその光景をそばで見ていたグロールフィンデルもその微笑ましい光景に頬を緩める。




「じゃあもう一つ質問があります!!」


“どのようにして生まれたのか”という質問が出たらこの質問がなければおかしいだろう。





「赤ちゃんはどうやったら出来るのですか?」


またも子供の無垢な質問。


おそらく親としては子供に質問されたら困るものの一つだが、
エルロンドは驚く様子もない。



「それはだな、永遠を共にすると誓った時に出来るのだよ。
 永遠の不変の愛を誓い合ったときに。」




エルロンドの答えには少し頬を赤くして微笑んだ。



「じゃああたしたちはお父様とお母様の愛の形なんですね。」






両手を自分の頬に当てて照れている
肯定の意味のキスをする。




「さ、の納得したところで早く準備を進めよう。」



エレストールとグロールフィンデルは深々と一礼をして準備に向かう。

双子もおそらく何か仕掛けるのだろう、にやりと笑って準備に向かう。



は侍女たちに連れられてドレスに着替えに行った。




ロリアンからアルウェンやケレブリアンたちが来るまであと少し。



エルフから生まれたこの小さな姫の生誕と成長を祝う宴が始まろうとしている。





の透き通るような歌声が皆の耳に響くのはそう遅くないだろう。







das Ende


2004/06/24



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えっと…なぜこの話が入ったかといいますと、ヒロインの成長があまり書けなかったからです。
今まであまり日数が経っていないように見えますがすでに100年経っていたりします…。

まあエルフにとってはほんの短い期間でしょうけど…。

ちなみに、なぜヒロインが誕生日なのかといいますと、
書き始めた日が毒苺の誕生日だったからですw

つまり10日以上たってますね…


余談ですが、ヒロインのした質問。
毒苺の両親にしたことがあります。

ちなみに答えは双子たちが言った答えでした…。
(しかも本気で信じた)
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