どこからか鳥の鳴き声が聞こえる。

それは獲物を捕る為の威嚇の声ではなくて、まるで歌でも歌っているような囀り。


さらに生まれて約1500年目にしても初めて感じる香の香り。



レゴラスの身体が少しずつ覚醒し、五感も戻ってくる。


最後にゆっくりとその緑葉の瞳を開いた。



覚えの無い天蓋。

沢山の彫刻や美術品。


完全に覚醒し切れていない頭で必死に記憶をたどるとここが裂け谷であることを思い出した。


さらに、場所を思い出すとすべての記憶が蘇る。




そう、自分はグロールフィンデルに負けたのだ。



その考えが頭に浮かぶといきなり身体を起こした。


「っ…くっ……」

体中に激痛が走る。


起き上がるのはまだ無理と思い再び身体をシーツの海に横たえた。



ふと寝台のそばにある窓に目をやると光にあふれた美しい光景が目の前に広がる。

ここは闇の森と違い朝には光にあふれ、夜は星明りが輝く。


その光景に身体が癒されたような気がした。

だが、負けたという悔しさは消えない。


相手があのグロールフィンデルであっても正直どこかに自信があった。

毎日大蜘蛛やオーク共相手に戦ってきたのだ。


ここで武官長をしているグロールフィンデルにかすり傷一つくらいは負わせられると思った。



だが、現実は違った。


自分がまだまだ子供で未熟だということを思い知らされた。


そして、に対する思いもこの程度かと自分自身に怒りを覚えた。


一度自嘲的に笑うと大きくため息をついた。







すると細かな装飾を施された扉がゆっくりと開かれた。


「レゴラス王子…目覚められたんですね…」

姿を現したのは水を張った盆を持っている


その瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。



…」

「よかった…本当に……」


盆をサイドテーブルに置くと、は寝台に近づく。

一歩歩くごとに涙は次から次へとあふれレゴラスの隣に立つころには
すっかり泣きじゃくっていた。


「ごめんなさい……あたしの一言でこんな怪我……
 本当にごめんなさい…」

いつもは憂いに満ちたその顔は今は悲しみの表情しか見られない。



…泣かないで?
 これは僕自身が決めたことなんだよ?」

「でもっ!あたしがこんな馬鹿なことを言わなければ誰も怪我なんてしなかったし…
 グロールフィンデルにも悪いことをしたわ…」

「彼は?どうしました?」


レゴラスの問いには少し困った様子だった。


「あのあと、闇の森の使者の方々と少し口論があって…」

の言葉にレゴラスは驚き起き上がろうとした。

が、激痛が襲ったのと、に制されて再びベッドに戻る。



「でも、その時あたしが頭を下げて謝ったら納得してくださったわ。
 幸い命の危険がある傷は無いので…」

これだけ痛いのに命の危険が無いなんて、グロールフィンデルの力量には感服する。



「本当に…ごめんなさい……謝って許されることじゃないかもしれないですけど…」


深々と頭を下げる

その肩は小さく震えていて。



きっと闇の森の使者達に同じことをしたときも恐怖で震えていたのだろう。


…頭を上げて?
 君は何も悪くないよ」

レゴラスの言葉にはゆっくりと顔をあげた。


すると彼の表情には笑顔と、そして悔しさが見て取れた。


「僕は…情けないよ……
 あれだけ姫を愛していると大口叩いておいて、いざそれを証明しようとしたらこのザマ」


“あげくにに頭を下げさせるなんて…”と呟いた。


「こんな情けない僕だけど、やっぱりのことを愛しているよ」


体中包帯だらけのレゴラスはいつもと違い弱弱しく愛の告白をした。

「レゴラス王子……」

「たぶん、は信じられないんだろうね、僕のこの言葉が」


は沈黙で肯定を示した。



「僕はね、ずっと夢見ていたんだ」

「どういうことですか?」


するとレゴラスは少し顔をしかめながら起き上がった。

もすぐに起き上がる手伝いをすると後ろの沢山のクッションに背を預けた。


は僕と初めて会ったことを覚えている?」


いきなりの問いに戸惑いながらもは思い出すように答える。


「闇の森の使者として闇の森に赴いた時に、大蜘蛛に襲われて…
 助けていただいた時ですよね?」

すると、レゴラスはくすりと笑った。



はそうかもしれないね。
 でも、僕は違うんだよ」

それにはも驚いた。

「200年くらい前になるかな…エルラダンとエルロヒアがオーク狩りをしていて
 闇の森にはじめてきた時」


過去に二人はオーク狩りをしていて闇の森に迷い込んだことがあるらしい。

その時以来レゴラスとは親友だとも聞いていた。


「二人からいろんな話を聞いたんだ。
 裂け谷のこと、ロスロリアンのこと、家族のこと…
 でも、僕が一番興味を惹いたのは…、君の話を聞いている時だったんだよ」


鳥と歌い、陽射しと踊り、雨と眠る。

まさしく光にあふれたエルフ。


闇に閉ざされたレゴラスとは違う。


「初めは興味だけだった。幼いエルフは珍しいからね。
 でも、あの二人に話を聞くたびにどんどん惹かれて…恋を、していたんだと思う」


レゴラスはくすりと口元だけで笑う。

「まるで御伽噺に恋をする子供みたいだね」



レゴラスの愛の告白にの心はとても温かかった。

でも、同時にかき乱される。


「…あたしも…分かります…」

小さく呟くとレゴラスは不思議そうにこちらを見た。



「あたしも、御伽噺に憧れていました」



いつか王子様が迎えにきてくれる、そんなハッピーエンドの御伽噺。



「でも、あたしはもう自分の王子様を見つけてしまったんです」

俯き加減に首を傾げると、レゴラスの表情がすこし沈んだのが分かる。



「と、いうと…」

「……あたし、エレストールが好きなんです…」




の思わぬ告白。

だが、それはレゴラスにはつらい告白だった。



「彼は…あたしのことをそう思っていないかもしれないですけど…
 でも、あたしは彼が好きなの…
 だから……だから…」





貴方の想いに応えられません










「…そ…っか…」

クッションに預けた身体がずるりと下がる。


「うん…ちょっとは勘付いていたんだ。
 そうじゃないかなって。
 でも、改めて聞くと…やっぱつらいや…」

今はすっかりおろされている前髪を掻き揚げ窓の外から裂け谷の景色を眺める。




「……ごめんなさい…」


こんなに胸が痛むのは初めてだった。

レゴラスの想いはすごく嬉しいし、自分のためにこんなにボロボロになってまで
戦ってくれて凄く光栄だった。




でも、気持ちに嘘は付けない。






この部屋にいるのが居た堪れなくなる。

一度退室しようとするとレゴラスが声を掛けた。



だが、その声は以外にも少し弾んでいて。



「じゃあ、友達…じゃだめかな?」

「…友達……ですか?」

「うん、やっぱり僕はが好きだし、だからこれからも一緒にいたいと思うし。
 すぐに割り切るのは無理かもしれないけど、友達ならつらい時とか支えてあげたいから」



だめかな?、と首を傾げるレゴラスには不謹慎には可愛いと思ってしまった。


「ええ、よろこんで!」

にっこり笑顔で返すと手を差し出した。



「よろしくね!レゴラス!」

初めて敬称を付けないで呼んだ彼の名前。

レゴラスも笑顔でその手をとった。


「こちらこそ、


窓から優しい風が吹き込む。


「そういえばね、あたしエルフの友達って初めてなのよ」

くすくす笑うにレゴラスもつられて笑う。


「え?どうして?」

「裂け谷のエルフもロリアンもみんなあたしと友達になってって言っても、
 『エルロンド卿のご息嬢にそんなご無礼なこと!』って言うのよ」

ちなみに、一番最近の犠牲者はハルディアの一番下の弟、ルーミルだったりする。


それにはレゴラスも大爆笑。

部屋中に二人の笑い声が響き渡った。





「王子、目覚められたか」

その笑い声を聞きつけてかエルロンドのエレストールがノックもせず部屋に入ってきた。


「エルロンド卿、傷の手当感謝いたします」

「礼など言ってくれるな。元はといえば娘の我侭のせいなのだ」


そう言うとエルロンドはに向き直りいつもより厳しい口調で言った。


、そなたには3ヶ月の自室謹慎を申し渡す。
 このたびのことをしっかり反省せよ」

「…はい、失礼します」


レゴラスは何か言いたそうだったがそれを視線で制止、
軽く一礼すると部屋から退室した。


「それでだな、レゴラス王子…のことだが…」


妙に言葉を濁すエルロンド。

それに気づいたレゴラスは苦笑いをしながら言った。


「ええ、分かっています。もう僕は振られてしまったので。
 これからはいい友人としてお付き合いさせていただきたいと思います」

それでもよろしいですか?と尋ねると、エルロンドは少し困ったように笑った。



「さぁ、王子もう少しお休みを」

持ってきた飲み薬を飲ませ少し傷を見るとゆっくりと身体を横たえた。


彼が夢の小道に意識を飛ばしたのを見届けると
エルロンドとエレストールはゆっくりと退室する。




執務室へ向かう途中の廊下、エルロンドはため息を付いた。


「いかがなさいましたか?」

エレストールの問いにエルロンドは先ほどと同じ苦笑いの表情を見せる。


「いや、我が娘ながらもてるな、と」

まさかこの年で一国の王子に愛を囁かれるとは。


「姫はお美しいですよ。そしてこれからもっとその心配が増えると思いますが?」

エレストールの言葉を受け止めながらこれからさらに同じような心配を
しなければならないことに頭痛がしてきた。










das Ende


2004/10/12



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はい、終〜了★
え?中途半端ですか?

すみません…実はもっと続けようかと思ったのですが長いうえに
いちおうこれエリー夢なので…(ぇ

次は…できれは再びシルマリルエルフに出ていただこうと思っています!
トゥアゴン様とかエクセリオンも!

さぁどうなることやらw
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