連れて来られたのはイドリルの自室。
当然ながらとても広い作りになっていて白を基調にインテリアが整えられている。

「さ、座って」
そう言って部屋のちょうど真ん中辺りにある椅子を引かれる。
は言われるがままにその椅子に座り、イドリルも向かい側の椅子に座る。
座ってすぐにイドリルの侍女が間にあるテーブルに紅茶を並べた。

その紅茶にすぐ口を付けるイドリル。
どうやら彼女のお気に入りの紅茶らしくその香りに上機嫌だ。

だが、は緊張からすぐにカップに口を付ける気にはならなかった。

おそらく彼女に敵意はないものの、こんな状況で気軽にいられるエルフがいたら見て見たいものだ。

「あら、紅茶は嫌い?」
「あ、いえ…大好きです」
それなら召し上がって、とイドリルは手を差し伸べる。
このまま飲まないほうが失礼だと思ったはほんの少しだけ紅茶を飲んだ。

「あ、おいしい…」
思わず飛び出した言葉。
しかしすぐ我に返っては頬を赤くする。
「気に入っていただけてよかったわ」
だが、イドリルも紅茶を持ってきてくれた侍女もの感想に嬉しそうに微笑んだ。

侍女が退室した後再び沈黙が訪れる。
にとっては居心地が悪いもの。
なぜなら目の前のイドリルがにこにこしながらをじ〜っと見つめているから。

「あ…あの…イドリル様?」
「あぁ、気になさらないで。
 さ、紅茶を召し上がっていていいわ。
 あ、このクッキーも美味しいのよ」
そう言うとお茶請けのクッキーをに差し出す。

気にするなといわれてもその大きな青い瞳に見つめられては気にしないわけにはいかない。


「で?」
「は?」
しばらくのことを見つめていたイドリルがいきなり尋ねてきた。

はどうやってここまで来たの?」
なんとなく、聞かれるのではないかと思っていたが予想通りの質問。

「あ〜…えっと、正直なところあたしにもよく分からなくて…
 気がついたらここにいたんです…」
下手に隠し立てしてボロが出るよりなら本当のことを話したほうがいい。
それ以上に彼女は自分の血縁もある。
嘘はつきたくなかった。

「そうなの?まぁ…そうじゃなきゃここにいないわよね」
「え?」
「だってそうじゃない。
 ここは城壁がぐるっと囲んでいてさらにエクセリオンやグロールフィンデルが守っているのよ?
 忍び込むなんて無理な話よ」
じゃあ、なんでそんなことを聞くのだとは心の中でため息をついた。

「実はね、もし仮にがどうにかしてここに侵入したのであれば聞きたかったのよ」
「何をですか?」
「侵入経路」
は絶句した。

「だって入れるってことは出られるってことでしょ?」
「ま、まぁ…」
そういうとイドリルは辺りをきょろきょろ見回してにだけ聞こえるように声を潜めた。

「実はね、ここって退屈でしかたないのよ」
大きくため息をつくとテーブルに頬杖をついて不機嫌そうな表情をした。
「朝起きて侍女たちに髪を結ってもらって着替えをして朝食、勉強をして昼食、
 歌とお裁縫の練習をしてお茶をしてまた勉強、その後夕食。
 湯浴みをして日記を書いてお父様とお話をして就寝。
 こんな毎日よ?」
イドリルの一日のスケジュールのようだ。
考えてみたらと大して変わらないようだ。
の場合これに剣の稽古も入るがそんなに大差は無い。

しかしは退屈だと感じたことは無い。
勉強だって毎日新しい知識を得られるし、剣の稽古も楽しい。
歌やお裁縫の練習だって楽しいしお茶のときに侍女たちから聞く話だって面白い。
たまにエルラダンとエルロヒアが問題を起こしてくれるがそれはそれでいい思い出になる(かもしれない)

そう、は裂け谷にいて退屈だと思ったことがなかった。
その理由はこの空間によるのかもしれない。

「だってもこのゴンドリンを見て回ったでしょ?
 城下町まで壁に囲まれているのよ。
 息苦しくなるわ」
たしかに最後の憩い館は裂け谷の自然と一体になった開放的な造り。
でもゴンドリンは広いとは言え外敵から国を守るために白い壁で囲まれている。

「アレゼル叔母様じゃないけどって…ごめんなさい……これは失言ね」
口を手で押さえて言葉を濁す。

「でもね、外には危険がいっぱいって分かっていてもやっぱりここにいたら退屈なのね。
 それでがもし外からどうにかしてここまで来たのであれば逆に出る方法もわかるかなって」
「はぁ…」
もたまには裂け谷をでて人の子の街へ行きたいと言っていたので彼女の気持ちも分からないでもない。
だが、ゴンドリンからの脱出方法に関しては協力できない。



「まぁ、それはいいわ」
いいのか!?と心の中でツッコミを入れる

は好きな殿方はいらっしゃるのかしら?」
「えぇっ!?」
何故いきなりそんな話にまで飛ぶのか。
「その反応はいるのね?
 さ、わたくしに教えて?」
にやにやしながら嬉しそうに近づくイドリル。

「い、いますけど…ゴンドリンのエルフじゃないので…」
「あらそうなの?ここの侍女たちは大抵グロールフィンデルかエクセリオンなのよ?
 まぁ、あの二人はあの通り見目麗しいし優しいし、強いししかも金華家と泉家の宗主だからね。
 そうそう、マイグリンも年上の女性にモテるのよ。
 母性本能をくすぐるって」
そうなんだ、とちょっと孤立していたマイグリンを心配していたには嬉しい(?)報告。

「イドリル様は?」
ここでもしマイグリンが気になると言ってくれたらにとって面白いことになる。
歴史的に考えたらありえないのだが…。

「わたくしは…ねぇ?子供の頃はちょっとグロールフィンデルがいいなっておもったけど…
 それって年上に憧れる、くらいの気持ちだったのよ」
緩やかな弧を描いている金髪を指先でくるくるしながらクッキーを口にする。

「それに、お父様ってば…わたくしがちょっと誰かと噂になったらすぐ怒って…
 実際過去にグロールフィンデルは何日にも渡ってお父様に事情聴取されたらしいわよ」
どうやらどこの父親も娘に男の影があったら同じ行動に出るようだ。

「そういえば…あたしの時もレゴラスが来た時は大騒ぎだったわ…」
「え?え?誰?レゴラスって?」
目をキラキラさせて話の続きを聴きたそうにするイドリル。

「えっと…」
下手に裂け谷のグロールフィンデルの名前等を出したりすると混乱するのである程度掻い摘んで話した。

「すっごい〜!ってばもてるのね」
頬を高潮させて興奮するイドリル。
「そんなことないですよ…実際レゴラス以外みんなあたしのことを子供って思ってますから」
「でも別れ際に行き成りキス?(Seventh Story参照)
 ちょっと強引な人っていいと思わない?」
「え〜?あたしはもっと紳士的な男性のほうがいいです」

ここから盛り上がる女性特有のおしゃべり。
気がつけば侍女達も集まりだして自分の好みの男性、またはゴンドリンにいる男性チェックがはじまった。
(ここで知ったのは意外にマイグリンは人気があるということ)


どのくらいおしゃべりが続いただろうか。
初めに持ってきてもらった紅茶はもうすっかり空になり、新しいポットが運ばれてきていた。
「あっと、ごめんなさい。
 長く話し込んでしまって…」
「え?もう行っちゃうの?」
残念そうにするイドリルと彼女の侍女たち。
「えぇ、やっぱり仕事もしないと…
 ここに置いてもらってるので」
丁寧に礼をすると扉へ向かって歩き始めた。

「あ、そうそう。イドリル様」
くるり、と振り返るとイドリルに微笑み返す。

「今はまだ何もなくても…いつか、イドリル様には素敵な殿方が迎えに来ますよ。
 …きっと、辛いこともあると思いますが……ご自身を信じてください」

イドリルと人間のトゥオルが出会うのはまだ先のこと。
でも、彼らが出会わなければもここにいない。
人間とエルフの恋は決して光に溢れた幸福なものとはいえない。

?」
不思議そうな表情のイドリル。
でも、はそれ以上いうつもりはなかった。
「では、失礼します」
長衣の裾を持ち礼をするとはそのまま退室をした。



まっすぐ向かった先は執務室。
マイグリンがどこかそわそわしていた。
「ただいま戻りました…」
!…姫には何か失礼なことはなかったですか?」
「え?ええ…おそらく大丈夫だと思いますけど…」
そういうとマイグリンはほっと胸を撫で下ろしたようだ。

「あ、そうそう…マイグリン様って好きな女性とかっているんですか?」
「なっ!なっ!!えっ!?何を言っているんですか!!」
真っ赤になるマイグリン。
はちょっとだけときめいた。

たしかにちょっと母性本能をくすぐるひとかも…。

「いえ、気にしないでください。
 あと、マイグリン様ずっとそのままでいてくださいね」


そういうとは自分の机に着いて遅れながらも残った自分の仕事に取り掛かり始めた。

続く

2006/06/04


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1年以上ぶりの更新…。
すみません…放置しまくって。
久々で自分でも忘れてて…(最悪)

これからはちまちま更新していきます。
本当にすみませんでした。
ただ今回の話はイドリルを出したかっただけなんです。

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