一方、エルラダンとエルロヒアの部屋。


屋敷の本館から程遠くない処。

の部屋より2倍の広さのこの部屋を二人で自室にしていた。



もちろん二人別々の部屋でも良かったが、結局はいつもどちらか一方の部屋に行くため
そのまま成り行きで二人部屋になってしまっていた。



左右対称に家具が配置されており、現在はエルラダンのベッドに双子が座り込んでいる。


そして正面には椅子に座ったグロールフィンデル。






「一体なんではあんなに怒ったんだろう。」


「そうそう。今まで怒って泣くことはあったけど、殴るなんて事はなかったのに。」


さすがの双子もいささかショックだったようで、耳を下げて落ち込んでいる。



「それは今エレストールが姫に直接聞きに行っていますよ。
 大丈夫ですよ。きっと姫だって貴方達を打ったことを後悔しているでしょう。」


微笑んで慰めるのは双子の剣の師でもあり兄貴分の様な存在の武官長。




しかし、可愛い妹にあんな反応されてはそう簡単に立ち直ることは出来ない。


二人で同じ格好で同じように不貞腐れている。



そんな二人にグロールフィンデルはため息をつくしかなかった。








丁度その時。


少し重量感のある扉からノック音が聞こえる。





「エレストールです。姫をお連れしました。」


それを聞き双子はがばっと勢い良く起き上がり扉をじっと見つめる。



だが、二人は出迎えるつもりは無いようだ。

目でグロールフィンデルに合図すると彼は少し肩を竦めて
エレストールとが待っている扉まで歩みを進める。



ゆっくりと少しだけ開けると自分より背の低い顧問長の姿が目に付く。


そしてずっとさらに、目線を下げると少し俯いたの姿を確認できた。


とりあえずグロールフィンデルも一時部屋を出る。



「王子達は?」


「ああ、ちゃんといるよ。」


“ベッドで不貞腐れていたがな”と小さく耳打ちする。




そして跪いて今度はと目を合わせる。


「目が真っ赤ですね。」



指先で赤くなった目の下を優しく撫でる。


「王子達に謝罪をしにきたのでしょう?」



その問いにこくんと頷く。

その可愛らしい反応に微笑むとさらりと髪を梳かす。




「では、私達は公務に戻ります。姫、この扉の向こうにいる王子達にきちんと謝罪するのですよ。」


エレストールの言葉には弾かれたように彼を見上げる。


「一緒にいてくれるんじゃないの?」


「ですが、これは貴方達兄妹の問題です。私達は口出しすることは出来ません。」



グロールフィンデルの方を見上げるが彼も同じ考えのようで苦笑していた。




「…分かったわ……。」


少し困惑している瞳だったが、覚悟を決めたように大きく頷く。




それを確認すると二人は礼をして執務室へ向かった。










一人残された


すぐそばの扉の向こうには自分が傷つけてしまった大切な兄達がいる。




声が震えないように気をつけながらやっと呼びかけることが出来た。



「エルラダンお兄様、エルロヒアお兄様。です。お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


返事は無い。





沈黙がとても痛い。



きっといつまで待っていてもきっと返事は無いだろう。


そう思ったはその小さな手で少し重量感のある扉を開いた。





窓が開いているのだろう、ざあぁっと風がの髪をなぞる。


の部屋よりも広いその空間ではすこし張り詰めた空気が流れている。



少しだけ見回すとエルラダンとエルロヒアがそれぞれ剣の手入れをしたり書物に目を通したり、
全くを気にしていないかのような態度。

いつもニコニコして悪巧みをしている二人ではなく、その顔には全く表情が無い。



さっきまでベッドで二人して不貞寝していたとは全く想像が出来ない。





「あ…あの…。お兄様たち…先ほどはごめんなさい…。あたし…その……」


搾り出すように言った謝罪の言葉だが、双子はそれに何の反応も見せない。





困惑するしかできない


とてとてと先ほどグロールフィンデルが座っていた椅子に座り
剣の手入れをしているエルラダンに近づいていった。



「え、エルラダンお兄様…。ごめんなさい…。」



少し瞳に涙を浮かべて謝罪をするが、エルラダンは相変わらず剣の手入れを続けている。


その瞳は鋭い刃に注いでのことを映そうともしない。





今度はベッドに座り本を読んでいるエルロヒアに近づく。



「え、エルロヒアお兄様…。ごめんなさい…。」


どんどん目頭が熱くなり涙で前が見えなくなる。


だが、エルロヒアもまた文字ばかり目で追い、を見ようともしない。




そんな二人の間を行ったり来たりして謝る





それが何度目かになったとき、とうとう二人の間では泣き始めてしまった。



「…っ……くっ…ご、ごめんなさいっ……」


しゃくり上げながらも必死に謝罪するにやっと二人が反応する。









「…。エルロヒアの隣に座ってよ。」


手入れの終わった剣を鞘に戻しながらエルラダンが相変わらずの無表情で言う。



涙を拭うこともせず、言葉を発したエルラダンを見た後、指示された先のエルロヒアを見る。


エルロヒアもエルラダン同様無表情でをただ見ていた。





どんな反応であれやっと自分を見てくれたことに多少の安心感を覚え、
ゆっくりとエルロヒアの座っている彼のベッドに近づく。



の使っているベッドより少し高めに作られているため必然的によじ登る体勢になる。





少し時間が掛かりながらようやくよじ登りちょこんと座る。


そのころにはの涙は上ることに集中したためどうやら止まったようだ。





がエルロヒアの隣に座るのを確認すると、を挟むように反対側にエルラダンが座る。



エルラダンが座ると振動が伝わりその小さな身体は大きく揺れる。





双子に挟まれて同時に覗き込まれる。


いつも笑顔の二人は未だに無表情。



そんな二人に顔を覗きこまれは俯くしかできない。





硬く瞳を閉じて少しだけ肩を震わせる。









が、ふとの髪に本日何度目かになる浮遊感を感じる。


反射的に瞳を開けると、先ほどまで無表情だった双子が
いつも通りの笑顔になっていた。




「「僕らのあげた髪留め、着けさせてくれたら許してあげる。」」



見事なハモりで言う二人の手にはそれぞれ、ハートのモチーフの髪留めや
今さっきはずされた簪、そして櫛が握られていた。




は目を丸くして驚くがすぐに笑顔になり大きく頷いた。











「僕らも無視しちゃってごめんね。」

「でも、少しはに困ってもらいたかったんだ。」



左右で丁寧に髪を編みながら言う双子には少し苦笑いをする。



「さっきのは“少し”では無かったですよ…。」



「でも、僕らだってに打たれてショックだったんだよ〜。」


よよよ…とワザとらしくいじける二人にもう謝る気も起こらなくなっていた。





「それにしても、どうしてそこまで怒ったんだい?」



その問いには少し目を泳がせると、首から下げたエレストールの髪留めを取り出す。




「これ…今朝エレストールから貰ったんです。」


エレストールからのプレゼントということに驚きを隠せない双子。


しかし、それでがあそこまで怒った理由がいまいち分からない。




「…これで、エレストールがあたしの髪を結ってくれたんです。
 あたし…嬉しくて……」


頬どころか耳まで赤くして答えるを見て、双子は一つの答えに行き着いた。



「「もしかして、。エレストール好きなの!?」」



髪を編む手を止め覗き込む双子に圧倒されながらも、こくん、と頷いた。



その時の二人の表情は驚きと困惑、そして玩具を見つけた時の子供の顔をしていた。


「…そ、そっか……。」

「まさか、エレストールとは…ね…。」




“あはははは〜”と乾いた笑い声が響く。




「絶対内緒ですよ!!もし喋ったら今度はあたしがお二人を無視しますからね!!!!」



真っ赤になりながら叫ぶに双子は、嬉しさと何だか淋しい複雑な心境を噛み締めていた。
















一方、執務室へ向かっているグロールフィンデルとエレストール。


「結局姫は何であそこまで怒ったんだ?」



グロールフィンデルの質問にエレストールは不適な笑みを浮かべて答えた。



「秘密です。」





少しムッとする金華公だが、それ以上問いただしてもこの同僚は口を割らないだろうと判断し
それ以上は突っ込むことはしなかった。





「姫たちちゃんと仲直りできるといいな。」


「大丈夫でしょう。…まぁ、多少双子が姫を苛めると思いますが、
 これは打ったこととあわせて帳消しにしましょう。」



妙にご機嫌な顧問長に、グロールフィンデルは更に首を傾げた。



「さ、公務が滞ってしまいました。さっさと済ませますよ。」


そう言って足早に廊下を歩くエレストール。

グロールフィンデルは一人蚊帳の外のような淋しい気分で、顧問長の後を追った。














後日、アルウェンから貰った蝶の髪留めを直してもらっただが、
双子の兄達から貰ったハートの髪留めを嬉しそうに髪に飾っているの姿を多く目撃された。



そして、妙に不信な目線でエレストールを追う双子の姿も見られたとかどうとか…。




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das Ende


2004/03/29


うわ〜…詰め込みすぎた…。

なんだか意味不明でごめんなさい…。
双子との絡みが描きたかったんです。

とりあえず二人にはヒロインの気持ちを知っていてもらった方が
後々進めやすいかと…。
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