それからの闇の森のエルフ達の行動は早かった。



スランドゥイルが近くにいたエルフに一度頷くと彼らは準備は始める。



何の準備かというと、そう、宴である。


スランドゥイルの宴好きはエルフ内では結構有名だった。




慣れた様子で着々と準備がすすむと1時間後には岩屋中のエルフが参加できるくらい
盛大な宴の準備が完了した。


もちろんスランドゥイルは一番の上座。

その右隣には息子のレゴラス。


左隣には、続いてエレストール、グロールフィンデル。



スランドゥイルからそれぞれ紹介されたが
一番闇の森のエルフ達が驚いたのはグロールフィンデルについてだ。


中つ国のエルフで彼のことを知らないものはいないだろう。

有名なバルログバスター、ゴンドリンの英雄なのだから。



に対してもその真珠色の髪の美しさはここ、闇の森まで噂が届いていたらしく
その美しさに賛辞の言葉が述べられる。


だが、皆が皆歓迎しているわけではないようで…。







スランドゥイルの隣に座っているは、彼の酒の飲みっぷりに驚かされていた。


「あ、あの…スランドゥイル様…あまりに飲みすぎでは…」

「何を言っておる。まだワイン5本ばかりではないか。
 わしは一樽くらい軽いぞ」


青ざめる

エルロンドも一応酒は飲むがそこまで飲まない。

おそらく裂け谷で一番酒を飲むであろうグロールフィンデルだって然り。


は飲まぬのか?」


ずいっとワイングラスを突き出されるが、はぶんぶんと首を振る。


「あたしまだ成人前ですよ?」

するとそれに言葉を挟んだのは意外にもと反対側に座っていたレゴラス。


「でも、僕はもう姫くらいのときから飲んでいましたよ?」

そう言ってぐいっとワイングラスの中身を空にする。


ふと彼の横を見ると数本の空のワインの瓶。


似たもの親子ね…とはエレストールに耳打ちをする。



宴も中盤に差し掛かったころ、グロールフィンデルは沢山のエルフ達に酒を注がれて
すっかり出来上がっているようだ。


普段嗜み程度にしか飲まないエレストールの頬も高潮している。



「エレストール、大丈夫?」

「え、えぇ…大丈夫です…」


そう言っても頬も赤く、そんな潤んだ瞳ではいまいち説得力に欠ける。


「ここの酒は裂け谷のものと違ってとても強いので…」


自分で飲む量くらい調節できる彼が珍しく酔っているのはそのせいだろう。


「あたし、お水貰ってくるわね」


そう言って立ち上がると、不意に闇の森のエルフ達が数人こちらを見て
明らかに敵意の含んだ目を向けていることに気づいた。


彼らが話してる声はこの宴会の音の中では聞こえない。

だが、唇の動きくらい分かる。


明らかに罵った言葉。

それもエレストールに対して。


グロールフィンデルはエルフの英雄として名高い。

は確かにノルドールだが、どうやら母方の方に良く似ているため
どちらかというとシンダールのような特徴が多い。


だが、ノルドールの特徴をすべて受け継いだかのような容姿のエレストール。

たかだか容姿一つだが、仲間意識がとても強く、逆にノルドールを敵視している
彼らにとっては一番敵意を向けやすいのはエレストールなのだろう。








しかし、にそんな理屈が通じるわけが無い。


のために用意された果汁の入っているグラスを手に取ると
そのエルフ達に思い切り投げつけた。


果汁がそのエルフ達に掛かりグラスが床に落ちてガラスの破片と化した。



そのときの音で今まで音楽や笑い声が響いていたあたりは一気に静まり返る。


「な、何をする!?」

もちろん怒り出すエルフ達。

彼らは大の大人。


だが、彼らの怒鳴り声にひるむようなではない。


「それはこちらの台詞よ!!」


今にも彼らにかかっていきそうなをエレストールが抑える。


「姫!!何をしているのですか!?」

怒鳴るエレストールをは彼らに向けた鋭い目線のまま見上げる。


「彼らはエレストールのこと悪く言ったわ!!
 エレストールのことを悪く言うエルフ、あたし絶対に許さない!!」


大蜘蛛に襲われても勇敢に戦いを挑んだ勇ましい姫が、
今はその瞳に涙があふれていた。


「姫…」

エレストール自身、自分が彼らにそこまで歓迎されているとは思えなかったのは事実。

だが、そんな彼らを相手にしていては外交の仕事にはならないし、
第一彼自身がそこまで気にもしていなかった

だが、にはそれがどうしても許せなかった。


それがたとえ自分達の立場を危うくすることになろうとも。


「幾ら裂け谷の姫といえど、今はここの客人です。
 今のは無礼が過ぎるのでは?」


グラスをぶつけられたエルフの一人がゆっくり剣を抜きながらへ近づいてくる。

その剣の大きさ、体格から言うと武官なのだろう。



一度の肩が大きく震えるものの、絶対に謝罪なんてしないというその強い瞳。


エレストールが庇うようにの肩を抱くが、そのエルフの前に立ちはだかったのは
別の存在だった。


「悪いが、私の主の姫に剣を向けるのならば、私も剣を抜いてもいいだろう」

それは先ほどまでしっかり酔っていたグロールフィンデル。

今はそんな様子もなくその気迫はまさしく英雄の名に相応しい。



剣はおそらく隠し持っていたのだろう。

マントの後ろから普段使う剣より短い剣を取り出した。


さすがにバルログバスターと誉れ高い彼に戦いを挑もうとするエルフはそうそういない。



グロールフィンデルがしっかり剣を握りなおしたとき、それは一瞬にして収まることになる。




「両者剣を納めよ!!」


あたりに響き渡る厳しい声。


それはこの森の王スランドゥイル。


先ほどまで酒ばかり煽っていたとは思えないくらい鋭い眼光。


「まず、グロールフィンデルから聞こう。
 武器は皆預けるように言ったはずだが、何故そなたは持っておる」


するとグロールフィンデルは剣を下げるものの鞘に収めることなく言い放つ。


「確かにそう言われましたが、私は武官であり、
 姫をお守りするという義務があります。
 それにはどんなことがあろうと武器は必要です」


“ほぅ”と一度頷くと次はを見据えた。



「そなたはなぜそこまで怒りを覚えた」

それにはは珍しく声を荒げて答えた。


「理由!?そんなの決まってるわ!!
 自分の大切なひとが罵られて黙っていられる!?」


それにはスランドゥイルも反論があるようで。


「じゃが、ここにはそなたたちノルドールを好ましく思っていない者がいるということは
 知っておるのだろう?
 ……わしもふくめて」

「だけど…それは…」


が言葉を繋ごうとするがスランドゥイルがそれをさえぎる。


「戦争を知らぬ子供のそなたに一体何が分かる」


そう言い放たれたの肩が大きく震えた。


今までそんな言い方をされたことは無い。

どんなことがあろうと誰かに守られてきたのだ。


でも反論できないのが悔しいのか、そのまま黙り込んでうつむいてしまう。


「姫…もういいですから…」

エレストールが助け舟を出そうとする、が、
はすぐ顔を上げてまた闇の森の王を睨み返した。




「そんなこと知りたくも無いわ!!
 そんな…同じエルフなのに、相手を憎むことしかできないなんて…
 そんな気持ち知りたくも無い!!」


あたりのエルフ達皆驚いた瞳でを見る。


「何だと…?」

「だってそうじゃない!!
 誰かを恨みながら生きるなんてそんな悲しい事無いわ!!
 ましてエルフは永遠の命があって…それで誰かを恨んで生きるなんて…」


だんだん語尾も小さくなりゆっくりと閉じられた瞳からは涙がこぼれた。



普段、ほかのどんな言葉でも動かされないスランドゥイル。

彼ですら驚いて瞳を見開いているくらい。




あたりに沈黙が流れる。

誰もがその空気に居心地の悪さを感じたころ、今まで黙っていたレゴラスが口を開いた。

「たしかに、ノルドールとシンダールは少なからず因縁めいた蟠りがありますが、
 ここでさらに彼らの口にした言葉や姫の行動でによって因縁をさらに深いものに
 するのは、両者共に望むことではないでしょう?」


柔らかい歌でも歌っているかのような言葉。


「今ここでそのことを話し合っても解決はしないだろうし、
 無理に解決させても必ずいつかそれは壊れます」

レゴラスはのほうを見るとにっこりと笑いかけた。



「でしたら両者時間を掛けて理解していくのが得策ではないでしょうか?」


それはまるで風が奏でる葉の音のよう。


の心に広がっていた蟠りや悔しさ、怒りがゆっくりと収まるようだった。




レゴラスに対して軽く会釈をすると、先ほどグラスを投げつけたエルフ達に
謝罪の意味で頭を下げた。


それには彼らも驚き、またその後どう行動をするべきか分からず戸惑っている。

そんな彼らの背中を押したのはスランドゥイルだった。


「姫であり、子供である彼女が素直に頭を下げたにもかかわらず
 そなたたちは何も言うことは無いのか?」


それぞれ顔を見合わせた彼らはと、そしてエレストールにも謝罪を述べた。



「さぁ、では宴を再開しましょう!」


レゴラスの一言に再びあたりから音楽が鳴り響き、元の賑やかさを取り戻した。


「レゴラス王子!」

さっそくワイングラスに口をつけ始めたレゴラスの元にが駆け寄る。


「あ、あの…ありがとうございます…
 あのときあのように言っていただけなければあたし…」

するとレゴラスはにっこりと笑った。

「いいんですよ。
 父上の言う戦争を知らない子供は私もいっしょですからね」



その言葉には少し赤くなり急いで会釈をした。


席に戻ると先ほど険悪になったエルフとエレストールなんとワインを酌み交わしていたのだ。

ノルドールに比べて陽気なシンダール。


グロールフィンデルだって皆と再び酒を飲み始めている。



そんな様子に小さく笑うとは隣にいるスランドゥイルの方へ向く。


「あの…スランドゥイル様…先ほどは失礼しました…」


すると彼は今まで口をつけていたワイングラスを置いてを見据えた。


「ふむ……まだ幼いが…悪くは無いな…」

謁見の間と同じ、まじまじとの顔を見つめる。


「あ、あの…スランドゥイル様?」

「多少早いかも知れぬが…まあいいだろう。
 そなた、本気で謝罪を申す気はあるか?」


スランドゥイルのその物言いに少なからず疑問を覚えるがとりあえず頷いてみる。


「ならば、この宴の終わった後わしの部屋へ来るように」

「え?」

「もし、わしのことを満足させられたら、裂け谷、ロスロリアンとの交流の件
 考えても良かろう」

「本当ですか!?」


もう絶望的だと思っていたためは予想外のことに喜ぶ。


「でも、スランドゥイル様を満足させるって…一体…」


するとスランドゥイルはぐいっとワインを一気飲みすると
の耳元でささやく。


「女が男を満足させるのだ…夜伽しかなかろう?」

「よ…とぎ…?」

呆然とする


「だが、そこのお堅い顧問長や喧嘩っ早い英雄には秘密じゃ。
 そなたが良いと思うのなら、わしの部屋へくるんじゃ」


不適な笑みで答えると見事な金髪をかき上げ再び新たなワインの瓶をあけ始める。



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2004/08/15


えっと…まず、この話は闇の森を書く以上必要だったと思います。
スランドゥイル様はノルドールを敵視しているわけで(でもあれって不可抗力だった気が…
ほかの闇の森のエルフも恨んでいるひとはいるでしょう。

でも、おそらく一番のインパクトはスランドゥイル様の最後の台詞か?
ただよ酔っ払いの親父になりさが…ゲフッゲフンッ!!

実は今回の話後に続く上で多少なりともかかわりがあるので、
ちょっと長めに作りましたw


さって次はスラ様のセクハラっぷりをかきたいとおも…(以下略
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