宴も終了し闇の森に静寂が訪れた。


と、いうのも皆すっかり酔いつぶれ眠りこけてしまったからであるが。



「姫、では私はこの馬鹿を部屋まで送ってきますね」

エレストールが迷惑そうに立ち上がる。

その肩には馬鹿、もといすっかり酔いが回ったグロールフィンデル。


ぎりぎり自分の足で立ち上がれるくらいで意味もなくケラケラ笑っている。



「グロールフィンデル…大丈夫?」

「らいじょうぶですよ〜……
 トゥアゴン様じゃあるまいし……」


全然大丈夫じゃない模様。

見事な金の頭をぺしっとはたくエレストール。



「私は東側の客室にいますので何かあったらすぐに来てください」

「うん、分かったわ。
 あたしはもう休むね…お休み」


エレストールは小さく会釈をすると自分より長身のグロールフィンデルを
引きずるようにその場を後にした。





「さて…と…」

大きく深呼吸するとはあたりを見回す。

皆自室へ戻ったか、その場で熟睡したか。


出来るだけ人目が避けられる廊下を歩きながら目指す先はに宛がわれた客室ではなく、
スランドゥイルの私室。


岩屋の中でも一番奥で、その部屋がある通りにはほかの部屋は全く無い。




改めてあたりを見回す。

誰にもつけられていない。

もし誰か、最悪エレストールに見つかったら叱られることは必死。


再び深呼吸すると少し小走りで目的の部屋の前まで向かう。




金の細工が施された両開きの扉。

その扉に数回ノックする。


「スランドゥイル様、です。
 いらっしゃいますか?」


なかなか返事が無い。

いないのかな、と思うと当時にその扉の片側だけ開いた。


そこには見事な金髪をぬらしたスランドゥイル。



「あ、もしかして湯浴みの最中でしたか?」

「いや、今終わったところだ」


薄布で軽く拭きながらを中へ促す。



中はあたりまえだが広いつくり。

天蓋つきのキングサイズベッド。

沢山の貴金属や彫刻、絵画。


また、使い込まれた剣や弓もある。



が居心地の悪そうにあたりを見回していると、スランドゥイルはテーブルの上に
乗せられたワインのコルクを抜きそれをグラスにそそぐ。


「…スランドゥイル様…また飲むんですか?」

宴ではおそらく一番飲んでいたであろう、さらにグロールフィンデルと飲み比べまでしていた
(勝敗は火を見るより明らか)


「何を言っておる。
 湯上りにいっぱい飲むのはあたりまえじゃ」


そう言うとその赤い液体を一気にのどに通す。



「…スランドゥイル様…今夜お付き合いしたら本当に国交に応じていただけるんですよね?」

「……満足させることが出来たら、じゃ。
 安心せい、わしは約束は守る」


不適に笑うスランドゥイル。

その髪から数滴しずくが落ちる。


「…絶対ですよ?
 今日のことエレストールにばれたら怒られるんですから」

のおどけた言い草にスランドゥイルはワイングラスを置いてこちらを見直す。


「そんなことが心配なのか?
 もっと心配するべきことがあるのではないか?」

その様子には首を傾げる。



そんなの肩を抱きベッドまで連れて行くとそのまま座らせる。

「最後までは無理だろうが、まぁ、奉仕くらいはできるだろう。
 途中でダウンしないように気をつけることじゃ」


するとは意外にも笑顔で返す。


「きっと大丈夫ですよ!
 夜明けなんてすぐあっというまですよ」

少しは怯えると思ったのだろう、スランドゥイル自身が驚いてしまう。



「たいした余裕じゃ。
 さすがあの女の孫、といったところか」

お喋りはここまで、と言わんばかりに柱に留められていた天蓋の紐を解く。

するとそこはとスランドゥイルだけの空間。


髪を拭くために掛けていた薄布を放るとゆっくりとに近づく。


その小さな体をベッドに横たえ上から覆いかぶさるように近づく。


だが、の表情は相変わらず余裕。

まさか経験済みか、とスランドゥイルは最近の子供の速さに驚く。


するとがふと口を開いた。



「あの〜…スランドゥイル様…」

「なんじゃ?やはり怖いか?」


不適な笑みを浮かべるスランドゥイル。

だが、当のは恐れている、と言うより不思議そうな表情。


「いえ、怖くは無いですが…こんな体勢じゃ話しにくいような気が…」


すると今度はスランドゥイルが疑問に思う番。



「話…?何を話すことがある。
 愛を囁けとでもいうのか?」

「いえ…あ、でもラブストーリーは聞きたいですね」


にっこりと笑顔の

ここでスランドゥイルは話がかみ合っていないことに気づく。


「…そなたに一つ聞く。
 今夜ここに来た理由は?」

「え?だからスランドゥイル様の部屋で一晩夜伽をして満足していただけたら
 国交を復活してくださるんですよね?」


どうやらここまでは理解している模様。

と、なると問題は一点に絞られる。


「…そなた…夜伽の意味分かっておるのか?」


するとは一瞬ぎくっとした表情をしたがすぐにすまし顔をする。







「…夜を掛けて御伽噺をするんじゃないですか?」










さしずめ天使が通ったような沈黙が流れる。


「…………」


の上に覆いかぶさったままとまるスランドゥイル。

「え?もしかして違うんですか!?」


彼の反応に焦る


すると彼はの横に顔を埋めると肩を震わせていた。


「スランドゥイル様?」

起き上がり彼の顔を覗き込むと、




「本当に面白い娘じゃ!!」


どうやら大爆笑をしていたもよう。


その見事な金髪を揺らしながらいつまでも笑い続けるスランドゥイル。


「え?あ、あの…」

「ああ、すまんな。あのエルロンドの娘の割りにあまりに面白くて」


そのサファイアの瞳の目じりには笑いすぎで小さく涙が光っている。



「別に本当に盗って食おうとしていたわけではない。
 むしろ色仕掛けを使ったり、無様に泣き喚いたらさっさと帰らせたくらいだ」


“わしには妻もいたし息子だっている”と基本的に『そういう』目的は無いようで。


つまり彼はの反応を試していたのだ。

裂け谷の姫としてどんな態度をとるか。


だが、結果はスランドゥイルの予想をはるかに凌駕していた。



「あ、あの…それで結局は…?」

すこし気まずそうに尋ねるとスランドゥイルはお得意の企み笑顔で答えた。


「そうじゃな、一晩掛けて沢山の御伽噺をしよう。
 それでわしを満足させるよう善処せよ」



そう言うとスランドゥイルは先ほど開けたワインをベッドまで持ってきての隣に座る。


「さて、どんな話をするか…」

「じゃあこんな話はいかがです?
 前に書庫で見つけた本で『騎士が悪い魔法使いに捕まったお姫様を助ける話』です」



それはよくある御伽噺や民話、時には歴史のこぼれ話。

他愛も無い物語を語り合っているうちにお互いがどんな存在であるかを理解できた気がした。





二人の部屋の明かりはついたまま、闇の森の長い夜は更けてゆく。



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2004/08/22


…石投げられそうですね……
まさか表で本当に夜伽なんて出来ないし、ましてヒロインは人間でいうと小学生…

さすがにまずすぎるだろうな…。

ところで『夜伽』の意味ですが、もちろん共に寝て相手をするという意味もありますが、
一晩看病をするという意味でも使えます。

つまり、『そういう』意味だけではないんですね。

でも、私は子供のころはヒロインと同じ勘違いをしていました…

人間って年をとると汚れるんですね…(遠い目


さて、そろそろ終盤です。
次は、王子様でも出そうかと考え中w
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