さて、翌日。

ほぼ徹夜で宴を繰り広げ、朝日が昇り始めた直後辺りに出立の時が来た。


人間だったら疲れた身体で辛いところだが、ここはエルフ。

万全、とまではいえないが普通に旅をするには問題ないだろう。



「1ヶ月本当にありがとうございました」


岩屋の門の辺りまで送りに来てくれたスランドゥイルに礼を述べる。

隣りではグロールフィンデルとエレストールが丁寧に頭を下げている。


「いや、わしもなかなか楽しめた。
 あの真面目くさったエルロンドの娘の割になかなか笑えたぞ」

「笑えた、は余計です!」



楽しく談笑していると近くでエレストールとグロールフィンデルもそれぞれこの1ヶ月で
親しくなった者たちと二、三言言葉を交わしている。





「そうそう、
 そなたはこれをもってゆけ」

そう言って手渡されたのは2通の書状。


「…これ…は?」


「赤いインクでサインされているのはエルロンドに、
 青いインクでサインされているのはケレボルンにでも持ってゆけ」

「…これって……もしかして…」


一瞬の心が喉の辺りまで持ち上がる。


「エルロンドに今度は美味い酒でも持って来いと伝えておくと良い」


今度、つまりまたここに来ることを許されたのだ。

「……国交を行っていただけるのですか…?」


恐る恐る尋ねてみる。

するとスランドゥイルは髪を掻き揚げながらゆっくりとの耳元に向かった。


「そなたの夜伽、なかなか楽しめたぞ」

その言葉にの頬は嬉しさのあまり高潮する。


「あ、ありがとうございますっ!」


嬉しそうにエレストールとグロールフィンデルと目を合わせ少し興奮気味に笑いあった。



「本当は、」

ふと、スランドゥイルが言葉を挟む。



「そなたをわしの娘に出来れば一番良いのだがな」


屈んでの前に顔を近づけると、初めて会った時のように顎をぐいっと上に向かせた。

「お、王!?な、何を一体…」


グロールフィンデルとエレストールは大慌てだ。

だが、そんなことお構いなしのスランドゥイル。


「わしは真面目に娘が欲しいからの。
 どうだ?闇の森の姫になってはみぬか?」


彼はおどけているようだが、普段からあまり冗談は言わない。

端からは冗談に聞こえても本人はたいてい本気なのだ。


「どうだ?


グロールフィンデルとエレストールだけではない。

周りにいるほかのエルフたちも皆しん、としての返事を待つ。


当のはまっすぐスランドゥイルを見据えると小さく笑ってはっきりと答えた。


「いいえ、それは無理です」

「…なぜだ?」


多少なりとも予想をしていたが、
こうもはっきり言われるとスランドゥイルだって調子が狂う。




「だって、あたしのお父様は裂け谷のエルロンドだけですもの」


にっこりという効果音が聞こえそうなくらい理想的な笑顔。

そこまではっきり言われるとスランドゥイルだってそれ以上何もいえない。









「いや〜、さすが僕らの妹だね」

「うんうん。一瞬ひやっとしたけど大丈夫だったね」

静まり返っていた空間からいきなり聞こえた二つの明るい声。


その声に皆驚きの表情を見せた。



「……エルラダンお兄様…エルロヒアお兄様…」

そう、笑いながら姿を現したのはの双子の兄エルラダンとエルロヒア。

相変わらず鏡のようにそっくりな二人。


「「やあ、僕らの可愛い妹姫」」

同時にそう言うとぎゅっとをきつく抱きしめた。


「ち、ちょっとお兄様たち!どうしてここに?」

抱きしめられてもみくちゃにされながら必死に言葉を紡ぐ。



「あれ?知らなかった?」

エルラダンとエルロヒアはお互い顔を見合わせるとにっこりと笑いながら答えた。


「「僕らよくこの闇の森に来てるんだよ」」




「なんですって〜〜〜!!!???」

これに一番の反応を示したのはエレストール。


「い、一体どういうとこですか!?」

いつもの厳しい顧問長の表情で双子を問い詰めるエレストール。


「え、えっと…以前オーク狩りをしている最中にここに迷い込んで…」

「で、それ以来旅の途中で休ませてもらったりするためにここに来てるんだ…」


それにエレストールは今度は顔面蒼白になった。


国交の復活を求めている際に主の息子がこんなことで世話になっていたのだ。

「お、王…申し訳ありません…こんなご無礼があったとは…」


エレストールが即座に頭を下げる。


「全くだ」

むすっとした表情のスランドゥイル。



「こやつらは本当に上級王の血を継ぐエルフとは到底思えん馬鹿息子だな」


いたたまれないエレストール。


双子は“酷いな〜”と苦笑いを浮かべた。


「と、言っても父上だって二人が来るのは結構楽しみなのでしょう?」

くすくすと笑いながら門をくぐって出てきたのはここの王子レゴラス。


「やあ、レゴラス!」

「久しぶりだね!」

双子はまるで親友にでも会うかのように笑顔で駆け出すと肩を叩き合って再開を喜び合った。


「最近来ないから心配していたんですよ、エルラダン、エルロヒア」

「いや〜、ちょっとオーク狩りが白熱しちゃってね」

「ついついミスロンドまで行っちゃったよ」


“あはははは〜”と笑い飛ばす二人。


それにはエレストールもエルフのくせに頭痛を覚えるしかない。


「だいたいさ〜、エレストールだって悪いんだよ」

「僕らに黙ってたちと一緒にロリアンに行ってるんだから!」

「「僕らだってアルウェンに会いたかったのに!!」」






「黙りなさい!!」




とうとう切れたエレストール。

双子は地面に直接正座させられ闇の森のエルフたちがいるまえでくどくどと説教を始めた。



「いつもこんな感じなのか?」

横にいたスランドゥイルが呆れ気味にに尋ねる。

「ええ…大体は……」




その後、エレストールによる説教はグロールフィンデルがどうにか宥めて収まった。








「とにかく、我々は一時裂け谷へ戻ります。
 王子達!貴方達もです!」

それには双子も不満たらたらのようでブーイングが出るが、
それはレゴラスの一言で抑えられる。



「まぁまぁ、僕とあと数人の武官達も森の外れまで護衛をしますので
 安心してエルラダンとエルロヒアはゆっくりしていて結構ですよ」


“それならお言葉に甘えて”とうきうきな双子。


が、そんな二人をさておき、レゴラスはまっすぐの元へ。


レゴラスは成人してまだ500年。

成長したといっても身長的にはエレストールより少し低いくらい。

ちょうど彼の胸くらいにの頭がくるくらいの身長差。



姫」

「はい、なんでしょう?」

「昨夜、僕が裂け谷に遊びに行ってもよいと仰ってくださいましたね?」

「ええ、もちろんです。いつだって大歓迎ですわ!」


が笑っていうとレゴラスもにっこりと笑った。

ただ、その笑顔は今までが見たものではなく、
どこか陰のある笑顔で。


「…レゴラス王子?」

「僕、良いことを思いついたんですよ。
 あなたが父上の娘になる最善の方法」

「な、何を仰っているのですか?私には父上はもういます…」

「えぇ、分かっていますよ。だから…」


そう言うと、さきほどのスランドゥイルのようにの顎をくいっと上に上げる。


「レゴラス王…じ…?」


そこまで言うとそれ以上言葉を繋げなかった、いや、繋ぐことが出来なくなった。


の小さなピンク色の唇はべつの唇で塞がれたから。

レゴラスの金糸の髪との真珠色の髪が風の筋をなぞる。


光景としては本当に美しい。

この闇に覆われた森で光が現れたようで。







だが、その光は高い声の悲鳴と大きな乾いた音によって失ってしまった。



「何するのよ!?」

「いたいな〜、ってば」


さりげなく呼び捨てのレゴラスは、たたかれた頬を押さえている。


「最っ低!何するんですか!?」

「何って…キスだよ?」


にっこりと悪びれた様子の無いレゴラス。

「な、な、な、な…なんでこんな…」

「何でって…ぜひ姫をここ闇の森の姫に迎えたいと思ったからですよ」


そういうと跪いての右手を持ち上げる。


「この人差し指にいつか僕が渡す金の指輪をはめてもらえることを心から望んでいるよ」

今度はその人差し指に唇を落とそうとするが、その手はするりと消え去った。


消えたと言うよりはの体は上空へ。

理由はの体はグロールフィンデルによって肩に担がれていたから。


「王子、我らの姫にふしだらなまねはやめていただきたいと仰ったはずでは?」

後ろから現れたのはエレストール。



双子に説教する時と同じ表情だ。

いや、それ以上かもしれない。

さすが裂け谷の影の支配者と言われるだけある。


だが、それに動じないのがレゴラス。


「ふしだら…?でしょうか?
 僕はただ姫に愛を説いただけですが?」

「一方的に愛を説いて行動にでてもそれは世間的にはふしだら、と呼ばれるでしょう?」


二人の間には明らかに火花が散っている。



そして火に油を注ぐのはスランドゥイルの役目。


「なるほど、がレゴラスの元へ嫁いで来たら自動的にわしの娘になるな。
 それは名案だ」


『全然名案じゃありません!!』

この場にいる裂け谷エルフが同時に叫んだ。


「レゴラス王子!!こんなことをいきなりなさるなんて最低です!!」

グロールフィンデルに担がれながら顔を真っ赤にして怒鳴り散らす


「では、了解をとったらよかった?」

「言い分けないでしょう!!」


にこにこ笑っているレゴラスと一人怒りを露わにする

どちらに分があるかというと一目瞭然。


すっとグロールフィンデルの肩にいるに手を差し伸べる。

もちろんは警戒し、グロールフィンデルも近づけさせないようにする。


それにも動じないのはこの王子。


「今度、裂け谷へ行く際、ゆっくりとお話しましょう」


そう言うと自分の馬を取りにその場を後にした。



なんだか嵐が過ぎ去った気分だ。


「ラダン…」

「何だい?ロヒア」

「僕らも裂け谷に帰るよ。
 レゴラスからを守らないと…」

「もっちろん」



珍しく真面目な双子。


「グロールフィンデル…王子が裂け谷に来た際は武官や文官達総出で姫を死守しましょう。
 もちろん卿にもこのことを報告しなければ…」

「あたりまえだ。イドリル姫をマイグリンから守り抜いたんだ…
 その腕前見せてやる」


裂け谷双璧コンビも本気のようで。




「まぁ、しばらくわしの息子が世話になるだろうが、
 今までその双子の世話をしたやった変わりだと思っておれ」


声高らかに笑うスランドゥイル。

今一番余裕があるのは彼だろう。











皆準備も完了。

闇の森の武官の数人とレゴラスが護衛についている。



「では、また来るといい。
 連絡さえ入れれば森の外れまで迎えに行こう」


何がともあれスランドゥイルの言葉に丁寧に礼を言うとたちはこの闇の森を発った。


森のはずれまでの道中、大蜘蛛やオークどころか鳥1匹とも出会わなかった。

理由はレゴラスからを守ろうとする双子や双璧の剣幕かどうかは定かではない。














行きとは違い帰りはとても安全だった。


館に帰ってくる早々エルロンドによるへの執拗な抱擁がなされた。

どうやら本当に寂しかったのであろう、たちの昔のアルバムや成長の記録を記した
日記まで読み返していたようだ。


「そうそう、お父様。
 あたしスランドゥイル王から書状を受け取ってきました」

一瞬エルロンドの表情が曇った気がする。


彼は大きくため息を付くとゆっくりとした手つきで書状を開けた。


そして中を読んでいくうちにみるみる驚きと喜びの表情になる。

「え、エレストール!そなたはよくやった!
 まさか数百年断固して反対し続けた闇の森との国交を取り次ぐなんて」

「あ、いえ。卿、私ではありません。
 私は普通に外交していただけで…おそらく姫が取り次いだのかと…」


するとエルロンドはを見据える。

その瞳はスランドゥイルを丸め込んだ方法を知りたいと物語っている。



「あ…えっと…内緒です……」

目が泳ぐ

「何故だ?なにかまずいことがあるのか?」

「まずいことというか…怒られそうです…」


ちらりとエレストールを見上げる


“ふむ”とうなるとエルロンドはエレストールを見据えて一度深く頷いた。


「分かりました、姫。今回は何があろうと怒りません。
 ですから闇の森で国交の取次ぎのためになにをしたか教えてください」


皆に見据えられてはも居心地が悪い。


そしてその方法を話すことを決めた。








そう、『夜伽』であると。










このあとはしばらく裂け谷は動乱に包まれた。


が『夜伽』の意味を履き違えて覚えていたと言うことが分かるときまで。



das Ende


おまけ


ここはロスロリアン。

「スランドゥイル様から国交の取次ぎ完了しました」

「ほ、本当か?」

驚きのケレボルン。

「ええ…まぁ、嫌なこともあったりしましたが…」



むすっとした

「ど、どうした?まさかスランドゥイルにいじめられたか?
 余もドリアスにいたころスランドゥイルに苛められて…」


年下に苛められたのか…ケレボルン…。


「いえ…違います。スランドゥイル様は良くして下さいました…
 ただ…」

「レゴラス王子ですか?」


横から口を挟むのはガラドリエル。


も比較的年の近い者から愛を囁かれて動揺してるようですね」



“ほほほほほ”と笑うガラドリエル。


「どうしてそれを…」

そこまで言いかけたとき、はガラドリエルの水鏡を思い出した。

それだけで頬が赤くなるのを感じずにはいられなかった。






おしまい


2004/09/21



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はい、闇の森編終了です。

レゴラスについてはこれから出番増えます。

しかし、グロールフィンデル出番無いな…
ヒロイン担ぎ上げたということで許してください(汗


双子を出した理由は彼らとレゴラスはマブダチ(死語)という設定を作りたかったので。


さて、この話がアップされるまで1ヶ月近く放置してしまい申し訳ありません…
無意味にときメモGSにはまりずっとプレイしてたので…
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