○●○晴れたある日の午後○●○





ここは裂け谷最後の憩い館の執務室。

館の主エルロンド、顧問長エレストール、武官長グロールフィンデルは
溜まりに溜まった書類処理に追われていた。


もう何時間経っただろうか。

事務関係の集中力が武術関係の集中力より著しく劣るグロールフィンデルは
すでにへばり気味。


そろそろエレストールの怒鳴り声が聞こえてきそうなころ、
執務室の扉を数回ノックする音と高い声が聞こえた。


です、ちょっといいですか?」


その声に嬉しそうな表情のエルロンド。

彼だってグロールフィンデルほどではないが仕事に飽き飽きしてた。


いそいそとその扉を開ける。

すると開くと同時に甘い香りが執務室中に立ち込めた。



「執務中失礼します。少し休憩にしませんか?」

目線を少しおろすとの両手には細かい細工の施されたトレイがあり
その上にはティーポットとカップ、そして焼きたての菓子が乗せられていた。


「あぁ、そうしたいが……」

言葉を濁しちらりとエレストールのほうを見ると、
彼は一度ため息をつき少し困ったように笑った。

「仕方ありませんね、少し休憩にしましょう」

何だかんだでに甘いエレストール。




だがそれに一番喜んだのはもちろんグロールフィンデル。

の両手を塞いでいるトレイを変わりに持ち
それを書類をさっさと横に寄せた机に乗せる。


「今日の焼き菓子は一段とおいしそうですね」

「あなたのその派手な頭は本当に食い気しかないんですね」


グロールフィンデルとエレストールの一連のやりとりにはくすりと笑った。


「実はね、今日のお菓子あたしが作ったの」

侍女達と一緒にね、と付け足すははにかんだ。


確かによく見ると所々形が崩れているところがあるが、
初めてでこれだけ作れたら上出来だろう。

3人は少し笑うと心してその菓子を口に運んだ。


甘く優しい味が口いっぱいに広がる。


「おいしいですね」

初めに声を発したのはエレストール。

「ええ、本当に。姫にはこんな才能もあったんですね」

グロールフィンデルも絶賛する。

ふと、エルロンドを見ると彼も嬉しそうに笑っている。


おいしい、という他に、ついこの間まで赤子だと思っていた娘が
菓子を作れるようになるまで成長してくれて嬉しいといった顔だ。


皆の反応にも嬉しくなる。

「嬉しいな、がんばって作ってよかった」

そしてはちらりと、エレストールを見て言った。



「あたしって絶対良いお嫁さんになると思わない?」




その言葉に固まったのはエルロンド。





が嫁に!?

こんなに小さいうちから…

まさかレゴラス王子のところか!?



一人混乱するエルロンド。

そしてゆっくりと口を開く。


は金輪際料理をすることを禁ずる。
 厨房に入ることも許さんぞ」


目が据わっているエルロンド。


「さ、エレストールもグロールフィンデルも仕事を始めるぞ」

勝手に完結してしまった父に、だって文句がある。


「お父様!どうしてですか!?さっきまでおいしいって仰ったじゃないですか!」

「料理は侍女達や料理長達に任せたらよい!」

「良いじゃないですか!どうせ将来必要になるんですから!」

「将来!?将来とな!?まだいらん!!」


どうやら始まったらしい親子喧嘩。



それを遠目で見ている裂け谷双璧。


「あれって、単純に姫を嫁に出したくないっていう卿の我侭だよな…」

「ええ、誰もすぐに嫁に行くとは仰っていないのに…」



主の不必要な親ばかにため息を付くと
二人は早々に執務に戻った。





das Ende

2004/12/12



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