●○●HONEY●○●






、100歳。


人間で言えば長老と言われるような年齢だが、
不死といわれるエルフでは2,3歳の子供。



そんな彼女は今目の前のパンケーキに目を奪われている。



良く晴れ渡った青空。

キラキラ輝く朝日。

辺りから鳥のさえずりも聞こえる。



さらに、の席は大好きな父、エルロンドのお膝。


その朝日に負けないくらい輝いた笑顔で、エルロンドによって一口大に小分けされた
パンケーキを見つめている。


「おとーさま、はやく、はやく!」

舌足らずな口調で最近ようやく言葉を口にし始めた
パンケーキを待ちきれないのかエルロンドに催促をした。


「はいはい、待ちなさい。
 ああ、グロールフィンデル。そこの蜂蜜を取ってくれ」


エルロンドの目線の先には透明な器に入った黄金色の液体。

グロールフィンデルは笑顔で返事をするとそれをエルロンドの傍に置いた。



器の中に入っているスプーンを掬い上げるとその液体はとろりと流れる。

それをパンケーキに掛けるとエルロンドはフォークに刺しの口元へ運んだ。


「おとーさま、その金色なに?」


“金色”といわれて何のことか一瞬分からなかったが、の目線が
蜂蜜の器を指していることでエルロンドもすぐに理解した。


「これは蜂蜜だよ」

「はちみちゅ?」


首を横に傾け不思議そうな


その反応に微笑んだエレストールがすっと木々の方を指差した。



「姫、あそこの木に何かぶら下がっているのが見えますか?」


エレストールが指差したのははるか200メートル先の木で
普通の人間ならそこまで認識するのは難しい。

だが、も純潔ではないとはいえエルフ。


「ぶんぶんがいるところ?」


“ぶんぶん”がハチのことを指している事は明白なのでエレストールは笑顔で頷いた。


「ええ、あのハチたちが花から集めたものがこの蜂蜜なのですよ」


「お〜〜〜〜」

口を縦に大きく開いて感動を示す


「さ、せっかくハチ達がのために集めた蜂蜜だ。
 美味しく食べないといけないだろう?」

エルロンドがまたの口元にパンケーキを近づけた。

それをぱくっと食べる。




「あまーい!」

頬を高潮させて目を輝かせる


どうやらかなり気に入ったようで自分でフォークを掴むと
自らパンケーキを口に運び始めた。


口元に蜂蜜をつけてあまり綺麗とはいえないが、美味しそうに食べる姫に
エルロンド、エレストール、グロールフィンデルは微笑んだ。



「そういえば、卿。
 昨夜の書類でひとつ気になった点があるのですが…」

食事の席で仕事を持ち込むのはエレストールも気が引けるのか少し控えめに尋ねる。


だが、エルロンドもどうやらその書類が気になっていたようで
咎めることなく仕事の話をし始めた。


グロールフィンデルは砕いたビスケットを鳥たちに与えていた、が
ふとの方をみて驚愕した。


「あぁっ!姫!!」


そのグロールフィンデルの声で仕事の話をしていたにも関わらず
を見たエルロンドとエレストール。



彼らが見たもの。






それはパンケーキの蜂蜜だけでは飽き足らず、透明な器に入った蜂蜜を
すっかり舐めきってしまっていた

器にはかなりの量の蜂蜜が入っていたはず。

だが、それはすっかり空になりが小さな手をベタベタにして抱えていた。


「おいし〜」


にぱっと笑うの口は蜂蜜でベタベタ。



彼ら3人は早めににテーブルマナーを教えないといけないと心に決めた。











   **************************************





その日のお昼ごろ。


グロールフィンデルが見回りをしているとき、ある木の根元でを見つけた。


当のはなぜかその木の上をずっと見続けていたのだ。



「姫、どうしました?」

アスファロスから降りて跪き笑顔で問うグロールフィンデル。


「ぐろーる!」

ぎゅーっと彼に抱きつく


どうやら裂け谷のこの金髪の英雄が大好きなようだ。


嬉しそうにを抱きしめゆっくりと抱き上げる。

するとはすっと木の上の方を指差した。


「あれ!あれ!はちみちゅ!!」


の指差した先には半球型の蜂の巣。

朝食の席でエレストールが指差した蜂の巣だった。


「そうですよ、あの中には蜂蜜が詰まっているんですよ」



グロールフィンデルの言葉にの頭の中にはあの半球型の中には
ぎっしりと蜂蜜が詰まっている想像が。


そしてそれの木にぶら下がっている部分に口をつけて吸い上げる自分を想像して
“きゃ〜〜”と嬉しそうに声を上げた。


「ぐろーる!はちみちゅたべたい!!」

それにはグロールフィンデルも苦笑いをした。


「でも、姫が今朝全て食べてしまいましたからね…。
 しばらく摂りに行かないらしいので、ちょっとの間我慢しましょうね?」


だが、誰に似たのか分からないが意外に頑固な


その返答に不満を覚えると再び蜂の巣を指差した。


「ぐろーる!あれ、とって!!」


それには目を丸くしたグロールフィンデル。


の指差した蜂の巣は結構大きく、近くには数匹のハチが飛んでせっせと働いている。

そんな蜂の巣を突付いたりしただけでどうなるかは安易に想像がつく。



たまに好奇心旺盛な双子が度胸試しに蜂の巣を突付いて遊んでいるらしいが、
そんな危険な遊び許されるわけも無くエルロンドとエレストールにこっぴどく叱られていた。


「姫…いくらなんでも無理です…」


苦笑いをしてにいうが、当の姫はぷにぷにのほっぺたをぷくぅっと膨らませて
文句タラタラな表情。

「ぐろーる!はちみちゅ!」


ぺちぺちとグロールフィンデルの肩を叩いて駄々をこね始めた。

大して痛くはないが、状況的には大きく痛い。


「姫…すみません……」


ほぼ確実に無理だと分かるとの大きな目にはうりゅうりゅと涙が溢れる。


の…はちみちゅ……」


これは大泣きのパターン。


グロールフィンデルはヤバい、と焦った。


の泣き声は裂け谷中に響き渡るくらい大きい。


優れた聴力をもつエルフには辛すぎる。



大声を上げて泣きそうになる一歩手前でふと誰かに声を掛けられた。


、グロールフィンデル。
 何をしている」

ふと振り向くとエルロンドとエレストール。


「グロールフィンデル、貴方は何をしているんですか?
 見回りの途中でしょう」

じろっと睨んだエレストール。


普段なら冷や汗モノだが今は助かった、と安堵する。


「いや、実はここで姫に会って…それで…」

目線をちらり、と移すとは再び蜂の巣を指差した。


「おとーさまー、えれすとーる。
 はちみちゅとって!」


その言葉で大方の想像がついた。

…それはできないんだよ」


グロールフィンデルからを受け取りながら言うエルロンド。

当のは大好きな父の抱っこにいつもなら喜ぶはずが
今はあからさまに嫌な表情。



のはちみちゅ〜〜〜!」


じたばたと暴れ始めた


だが、エルロンドはグロールフィンデルのように慌てることは無い。


「いいか、
 あの蜂の巣には確かに沢山の蜂蜜が詰まっている。
 だが、あれをむやみに採ってはいけないんだよ」


「ど〜して?」

こてっと首を傾げる。


「あの巣の中には蜂蜜のほかに沢山のハチの子供たちがいるんだよ。
 そしてその蜂蜜を餌に大きく成長しようとしているんだよ」


ハチの生態について説明をしてもイマイチは想像ができない様子。


「だからあの蜂の巣はそのハチの子供たちの家なんだよ。
 はもしあの館が無くなったら、どう思う?」


ハチの生態は理解できないがもし最後の憩い館が無くなったら、それはも理解できた。


「いや〜いや〜。なくなっちゃだめ!!」

首をぶんぶんと振りちょっと泣きそうな表情。

「そうだろう。あの蜂の巣はハチたちの館なんだよ。
 それを無闇に採ったら、ハチたちだってのように悲しむんだよ」

「あれはブンブンたちのお家なの?」

教育係でもあるエレストールに尋ねると彼も笑顔で大きく頷いた。


「ブンブンたちのお家…とっちゃだめだね…。
 …はちみちゅたべない…」


ちょっと諦め切れない様子はあるものの我慢を覚えた

そんな娘に微笑むとエルロンドはその額にキスをした。


はいい子だな。
 ご褒美に苺のパイをあげよう」

「ぱい!たべる!!」


蜂蜜の時に負けないくらい輝いた表情を見せる。


「じゃあ、館へ戻りましょう」

エレストールに促されて彼らはせっせと働くハチたちに別れを告げた。


(グロールフィンデルは一緒にパイを頂こうとしたが、まだ見回りの途中でしょう
 とエレストールに追い返された)











   ***************************************






夜、あたりから梟の鳴き声が聞こえてくる。


淡い月明かりがあたりを照らしている。



そんな時間帯グロールフィンデルは静かに執務室へと入った。


「悪いな、遅れた」

「姫の遊び相手をしていたんでしょう?
 かまいませんよ、もう仕事は終りました」


今まで書類に向けられていた目線を少しだけグロールフィンデルに移すと
その広い背中には小さな姫がすやすやと眠っていた。

「おんぶをせがまれてしまってね。
 気がついたらそのまま眠ってしまわれたんだよ」


苦笑いをしながらも背中に子供特有の高めの体温を感じ少し幸せに思う。

「しかし、今日の姫には困ったよ」

が起きないように声を潜めて会話をする二人。


「姫は甘いものがお好きなようですからね。
 今日の苺のパイも美味しそうに召し上がっていましたよ」

その苺のパイ、見回りから戻ってきたグロールフィンデルには残っていなかった。



「ですが、しばらく姫に蜂蜜は必要ないかもしれませんね」

「え?どうしてだ?」


すると羽ペンの先でグロールフィンデルを指す。

その先端を目で追いながら向かった先はグロールフィンデルの背中で寝ていた


小さな姫はすっかり覚醒していた模様。

だが、そんなにグロールフィンデルは今日一番驚いた。



なんと、はグロールフィンデルの名前の由来でもある彼の髪を
口に入れてしゃぶっていたのだから。


見事なまでの金髪はところどころよだれで光っていた。


「はちみちゅ〜」


どうやら彼の髪の毛が蜂蜜の色に似ているせいか味見(?)をしているらしい。

「あぁっ!姫っ!!あぁ〜よだれだらけじゃないか!!
 エレストール!!助けろ!!」


無様な英雄にため息をつくとグロールフィンデルの背中にしがみついている
をゆっくりと引き離し抱き上げた。

「姫、こんなやつの髪の毛を口にしたら馬鹿が移りますよ」


“こんなやつ”と“馬鹿”の発言はこのさい目を瞑ろう。



こんな食い意地の張った、口元が緩い姫。


彼女が将来闇の森の王と王子、さらに上古エルフたちまで魅了することになるとは
このときは誰も予想が出来なかった。





das Ende


2005/03/13

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ハチの生態なんて…知らん!!

10歳の時、スズメバチに刺されたこの恨みいつか晴らしてやる…(怨念)
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