◆◇◆FIRST LOVE-Another Story4-◆◇◆








いつもと変わらず平和な裂け谷。


今日はとても天気が良いのでいつもは薄暗い書庫で行われるエレストールとの勉強も
テラスに出しているお茶会用のテーブルで行われていた。


白いテーブルの上に並べられている勉強用の本や羊皮紙に羽ペンとインク。

さらに、いつもは木の上にいる珍しい野鳥が数羽それらの上に降り立ち
の勉強を観察している。


いつもは勉強に集中するも友達と言える彼らが遊びに来ていては
ついつい羽ペンの羽の部分で彼らと戯れてしまう。



「おや、彼らがいては姫の勉強になりませんね。」

それを見かねたエレストールが困ったように言ったが、
その表情からは不機嫌な様子は皆無だった。


暖かい日の光に囲まれながらゆったりと勉強をする。


特に普段と変わらないが、それをとても幸福に感じる。



が、エルフが住んでいる割に色々騒ぎが耐えないここ裂け谷では
その陽気もいきなり台風が上陸し一瞬にして吹き飛ばすことがしばしばある。


その気配に一番敏感なのは顧問長兼の教育係のエレストール。


「126年、ドルソニオンの西端にゴンドリンが完成し…」


歴史の勉強中、年表を読み上げるエレストールは急に言葉を止めた。



「どうしたの?エレストール。」

不思議そうに尋ねる

「…いえ、少し寒気が…」


普段から白い顔をさらに青白くしてエレストールは少し震える。




「まさか風邪?」

「いえ、違いますよ。…ただ、嫌な予感がします…。」


そう、彼のこの嫌な予感は後に的中することになる。








それから約1週間後のある日。


はグロールフィンデルから剣の稽古を受けていたときのこと。


何処からか陽気な歌声が聞こえてきた。


「ねぇ、今歌声が聞こえてこなかった?」

「え?歌声ですか?」


コクコクと頷くにグロールフィンデルも耳を澄ましてみる。


確かに聞こえる。


しかもそれは1人や2人ではなくもっと大勢。


「…まさか…この歌声って…」



グロールフィンデルは背中に嫌な汗を掻く。

だが、は対照的に満面の笑みを浮かべる。




「ギルドールじゃない!?」


そう、が嬉しそうに話したギルドールとは流浪のエルフ、ギルドール=イングロリオンのこと。

ノルドールにしては珍しい緩やかな波を描く銀髪の持ち主。


涼しげな面持ちでまるで風の様につかみ所がない風貌だが、性格は全く逆。


裂け谷の双子以上の嵐を巻き起こし、後には沢山の騒動を残してどこかへ去ってしまう。



そのためその後片付けをさせられるグロールフィンデルとエレストールは冷や汗を掻き、
一方や双子はギルドールから聞ける沢山の楽しい話を心待ちにしているのだ。



「ねぇ、ギルドールが来るわ!!」


嬉しそうにグロールフィンデルを見上げる

「…ええ……そうですね…。」



明らかに頬が引き攣るグロールフィンデル。

だが、その歌声の大きさから考えてこの最後の憩い館まで約4,5時間は掛かるだろう。

今のうちにギルドールに見つかってまずいことを隠しても十分だろう。


「姫、今日はもう稽古は終わりにしましょう。」

グロールフィンデルは対ギルドールのために色々作戦を立てるために早めに稽古を切り上げる、が、



それはの無邪気な一言で見事に玉砕した。


「本当!?じゃあ今からアスファロスでギルドールたちを迎えにいこうよ!!」

「えっ!?」



さらに頬が引き攣るグロールフィンデル。

だが、当のはさっさと厩に足を運び遠くから彼を呼んでいる。


こうなってしまうとどんなことを言っても仕方が無い。



グロールフィンデルは項垂れながらその金髪を揺らし
自分の意思とは逆にこちらに向かっている放浪エルフを迎えにいく羽目になった。












   **************************************











アスファロスを走らせて約2時間ほど。


先ほどから聞こえてきている歌声はどんどん大きくなりだんだん近づいていることが分かる。


大きいと言ってもそれはエルフ、さらに聴力が飛びぬけて良い者にしか聞こえないくらいで、
人間なんかではとうてい聞き取れない。




「まだかしら…?」

アスファロスの上でグロールフィンデルに支えられながら辺りを見回す。

もうほんとうに近くのはず。


待ちわびていると、対照的に出来れば会いたくないと思うグロールフィンデル。




すると、アスファロスが小さく嘶いた。


そしてある一点を見ている。



たちもつられてその方向を見ていると、聞こえてくるのは笑い声と歌声と
ほとんど聞き取るのは難しいがエルフらしい足音。






「…前は裂け谷に来たのはいつだったかな?」

「150年前くらいでしたよね。」

「なんだ。まだそのくらい?は元気かな。
 双子はどんな悪戯をしてるかな。」

「でも、今回はあまり顧問長と武官長を怒らせないでくださいね。
 しばらく裂け谷にいけなくなっては色々困るでしょう。」

「善処しよう。
 いや〜、あそこの顧問長と武官長はおもしろいからな。」



“あはははは〜”と響く笑い声にグロールフィンデルは本気で剣を抜きたくなった。

すると急に腕の中にいたがするりと抜け出し、
軽やかにアスファロスから降りその声の方向に走って行ってしまった。




「姫!!お待ちください!!」

グロールフィンデルの止める声も聞こえない。



はそのまま草木を超えて走り続けると見覚えのある銀髪と
笑顔が絶えない数人のエルフたち。



「ギルドール!!」

「おや、もしかしてかい?」


頬を上気させて駆け寄るにギルドールは笑顔で手を差し伸べる。


は走っている勢いを止めることなくその腕に勢い良く飛び込んだ。



「久しぶりね!!ギルドール!!」

「そうだね。150年くらい振りかな。
 は元気だったかい?」

「ええ、もちろんよ。」



ぎゅっときつく抱き合うとお互いの顔を見るためにようやく身体を離した。



、大きくなったね。それに綺麗になった。」


跪いてマジマジとを見ると、後ろから少し呆れた声が聞こえる。


「久しぶりだな…ギルドール…。」


「やぁ、グロールフィンデル。久しぶりだね。
 相変わらず見事な金髪だな。」


ぽんぽんと自分より背の高い男の肩を叩く。

だが、グロールフィンデルは相変わらず警戒した表情。




いきなりグロールフィンデルはギルドールと肩を組み誰にも聞こえないよう声を潜めて話し始める。



「…何しに来た…」

「何って…もちろん裂け谷の皆に会いに。」


にっこりと悪びれた様子も無い。


「会いに来るだけならいい。
 だがお前は騒動まで連れてきてそのまま消えうせるからな。」

「ひどいな〜。僕がいつそんなことしたの〜?」


「…前回裂け谷に来たとき…私がエレストールと徹夜で執務をこなしている時、
 お前は確か夫婦の営みをしていると、谷中に言いふらしていたな。」


グロールフィンデルのあまりに怒りを含んだ表情にさすがのギルドールも冷や汗をかく。

今のグロールフィンデルなら同族殺しだってやりかねない。


「お陰で谷中の乙女達に遠くから期待の瞳で見られ続けたんだ…。」



普段からもしかしたら…と噂されていただけにこの手の話は乙女達に絶大な効果をもたらしたらしい。


これにはさすがのエレストールも困り果てた。



「更に!!それだけじゃないだろう…。」

肩を組んでいる腕が急に重くなったような気がするのは気のせいじゃないだろう。

ギルドールは逃げ出したくなるがその腕はさらにきつくなるばかり。



「お前…前に谷に来たときに姫になんて言ったか覚えてるか?」

グロールフィンデルの言葉にギルドールはちらりとを見る。



に?なんて言ったっけ?」


本気で覚えてないようなギルドール。

グロールフィンデルはその様子に怒りを覚え今すぐにでも剣を抜きそうだった。




「姫に…本当の父は自分だとか言ったよな?」

その言葉に“あ!”と思い出したようだ。


「た、確かに言ったけど…あれは冗談だって!!」

「ああ、たしかに笑って済まされたら冗談で済んだんだが…姫はずっとそれを本気で信じていたんだ。
 お陰でずっと泣き通しで部屋から一歩も出なかったし。」



グロールフィンデルは当時のを思い出し、当時の苦労がふつふつと浮かび上がってくる。


エルロンドたちが必死に説得をしてが納得したのは
その騒ぎを聞きつけてロスロリアンから来たケレブリアンが説得してからだった。




それらは思い出しても疲れてくる。

そして、グロールフィンデルはギルドールを睨みつけて言い放った。


「いいか!!今回騒ぎを起こしたら、私の剣の錆にしてくれよう!!
 心しておけ!!」



普段はお気楽武官長からは想像もできないくらいの剣幕。


これにはさすがのギルドールも大人しく首を縦に振るしかなかった。



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