さて、裂け谷についてからグロールフィンデルと同じ表情をしたエレストール。


「…今度はどんな騒ぎを起こすつもりですか?」

「ひどいな〜。会って第一声がそれかい?
 大丈夫だよ…今回はグロールフィンデルにきつく言われてるから…」


苦笑いのギルドール。

エレストールは少し警戒しながら見ていたが一度ため息をつくと歓迎の意を表した。



「「ねぇねぇ!!ギルドール来てるんだって!?」」



そこに現れたのは嬉しそうな双子のエルラダンとエルロヒア。


「やぁ!!エルラダン、エルロヒア。相変わらずそっくりだ。
 まったく見分けがつかないよ。」


すると二人はお互いの顔を見合わせるとにっこりと笑いあった。


「久しぶりだね!!」

「本当!!今度はどんなおもしろいことするの?」



おもしろいこと、つまりギルドールの起こす騒ぎのこと。

周りは良い迷惑だが双子はそんなギルドールを尊敬していた。



「そうだな〜…今回は…」


そこまで言いかけると顧問長からキツイ一撃を喰らう。



「…大人しくしていようかな……」


乱れが銀髪を整えながら苦笑いをした。











さて、一部で不安を残しながらもその夜はギルドール一行を歓迎する宴が繰り広げられた。


久々に会う谷のエルフたちに皆楽しそうに談笑している。



は彼らの歓迎ということで軽快な歌や踊りを披露する。

それにリンディアたちも賛同し過去に類を見ないくらいの盛り上がりをみせていた。




「ねぇねぇ、ギルドール。外の話を聞かせて!!」


踊りはひとまずお休み、というようには飲み物を片手にギルドールの隣に座る。


は本当に外の話が好きだね。」

「もっちろん。だって殆ど出たことがないんだもの。
 人間にだってドゥネダインくらいしか見たことないし…。」



確かに、とギルドールは納得すると今までの放浪の旅で見たり聞いたり、また体験した
出来事を事細かに話し始めた。


初めは聞いていたのはだけだが、だんだんギャラリーも増え
谷中のエルフがその話に耳を傾けていた。




「いいな〜。あたしも谷の外に出ていろんな人たちと会って見たいわ。」

だったら一緒に行くって言っても大歓迎だよ。」



ギルドールもOKを出したということで、は期待の瞳をエルロンドに向ける。



だが、もちろん返事はNO。


その反応には少し頬を膨らませて抗議する。



「いいでしょ〜。お父様。ほんの2、3日でいいんです。」


しかしエルロンドの答えも変わらない。

意外と頑固なこの二人。


やはり親子だ、というようにギルドールたちは笑っていた。





「仕方ありませんね。姫、今度野外学習として私と谷の外に行きますか?」

横から口を出したのはの教育係のエレストール。


「本当!?」

「ええ。長くは無理ですが、一番近くの人間の村に行ってみますか?」



エレストールの提案には今にも飛び上がりそうな様子で喜んだ。


「ありがとう!!エレストール!!」


思わずぎゅっと抱きつく

エレストールも驚くがすぐに微笑み抱き返した。



しかし、エルロンドはそれを簡単には了承しない。



「いくらエレストールと共にといっても結界の外に出るのは許さないぞ。」


だが、それについてはエレストールも考えがあるようで。



「大丈夫です。姫の出る1週間前から武官たち総出で徹夜のオーク狩りをさせますから。」


それを聞いてグロールフィンデルをはじめとする武官達が一瞬緊張が走る。

「え、エレストール…冗談だろ?」


武官たちを代表して尋ねるのは武官長のグロールフィンデル。


だが、エレストールはエルフらしい美しい笑顔で答えた。



「本気です。姫がオークどもに襲われたらどうするんですか。」





全ての事柄に決定権を持つ顧問長の笑顔。

かつての英雄と謳われるグロールフィンデルすら
その笑顔の前では大人しく首を縦に振るしか出来ない。


「と、いうことで、姫は準備が出来るまで心待ちにしていてくださいね。」



どうやら本当に外に出るという夢が実現しそうということで本気で喜ぶ


そんなを見てエレストールも嬉しそうに微笑んでいた。




これはいつもの裂け谷の光景。


が、久々にここにきたギルドールにとっては異質な光景。



「なぁ、グロールフィンデル。」

「何だ?」

「エレストールってに随分甘いんだね。」


それにはグロールフィンデルも肩を竦めて答えた。




「ああ、いつもあんな感じだよ。
 姫にとってもエレストールは大切な存在らしいからな。」


そこまで言うとグロールフィンデルは他の武官に呼ばれその場を後にした。


そして、そこに残されたギルドールは面白いおもちゃを見つけたような表情をして笑っていた。














   *****************************************









ギルドールたちが裂け谷に来てからすでに2週間。


今日この日まで特別大事も起こさず比較的平和な日々が続いていた。





その理由はギルドールの興味が他へと向いているからである。


それはの動向とエレストールの動向。



まず、から。


彼女は以前ギルドールが裂け谷に来たときより確かに成長していた。

それは外見的なこともさることながら、内面的にも。


以前のように双子にからかわれて泣いていた頃からは考えられないくらいの成長振り。



さらに、顧問長のエレストール。


影では氷の顧問長と恐れられるくらいの堅物。

そんな彼もにはとても甘い。


自分との態度の違いにちょっと不満を覚えるギルドール。




この二人はいつも決まった時間に楽しそうに勉強をしている。


以前ギルドールが裂け谷に来たときのはどうやってエレストールから
逃げ出すかを考えているような感じだったが、今ではこの変わりよう。



全ての事柄をトータルした彼は一つの答えに行き着いた。





その答えが果たして的を射ているのか外しているのか。

彼はスキップをしながらの元へ急いだ。


もしこれが本当に正しいのなら最高に面白いことになるのだから尚更だ。



すると丁度廊下で立ち話をしているとエレストール。


柱の影に隠れて聞き耳を立てるギルドール。




「姫、先日見たいと仰っていた本が見つかりましたよ。」

「そう、これが読みたかったの。ありがとう!エレストール。」


二人はそのあと2、3言話すとエレストールは執務室と足を勧めた。

は借りた本を大切そうに胸に抱えると
ギルドールが隠れている柱の方へ軽快な足取りで向かう。



「やぁ、。」


「えっ!?ギルドール?どうしたの?」


急に柱から出てきた銀髪のエルフには少なからず驚く。



「いや〜。実はちょっと聞きたいことがあるんだ。」

「聞きたいこと?何?」


少しだけ小首を傾げて尋ねる。


そんなに頬を緩めながらもギルドールは最近気になっていることを単刀直入に尋ねた。




ってさ、もしかしてエレストールのこと好きなの?」

「えぇっ!?」


必要以上のの驚き。

思わず声も裏返ってしまった。



「な、何を言っているの?そんなわけ無いじゃない」

冷や汗を掻きながら否定する


そんな様子で否定されても説得力に欠ける。


「でも、ってエレストールといる時すっごく嬉しそうだし。
 少なくても僕らがいなかった150年の間に何かあったのは確かでしょ?」



確かに、ギルドールの言っている事は的を射ている。

だが、この男に一言でもエレストールに対する想いを言ったなら
次の日には谷中、1週間後には中つ国中のエルフが知ることになるだろう。



「ち、違うわよ!!あたしはエレストールのことなんて何も…」

「嘘をつかなくても良いよ。
 彼のこと、好きなんだろ?」


ニヤニヤ笑うギルドール。

そんな彼にはついムキになって叫んでしまった。



「違うもん!!あたしエレストール嫌いだもん!!」


大きな声で否定したためギルドールもついついからかうのを止めてしまう。


「だって、いつも口うるさいし、自由に出来ないし…」


心にも無いことを次から次へと口から漏れてします。


でも、自尊心からそれをやめることができない。



…後ろ……」

ずっと黙って聞いていたギルドールが汗を掻きながらの後ろを指差す。




もそれに習いゆっくりと後ろを向くと、



「エレストール……」


「先ほどの本の続きが見つかったので早めに渡しておこうと思ったのですが…」



そこまで言うとエレストールは無表情のままその場を後にしてしまった。



“あちゃ〜”あたまを抑えるギルドール。


ちょっとやりすぎたかな、と反省する。


ちらりと横目でを見ると、まるで世界が終わったかのような絶望の表情。



「あ、あたし…なんてことを……」

小さく震えながら眉根を寄せる。


その大きな瞳からは次から次へと涙が溢れ出した。



……」


ギルドールは慰めようとの肩を抱こうとしたが、
その手は自身によって払われる。


悲しみと怒りを携えた瞳でギルドールを睨みつけるとそのまま走り去ってしまった。




「まずったな〜…」

もしかしたら今までの悪戯の中で一番性質が悪いことをしたのかもしれない。




すると後ろから別の人物の気配を察知する。

それは見事な金髪の武官長、グロールフィンデル。


「あ、もしかして見てた?
 いや〜まずい事をしちゃったよ」

あはは〜と、笑いながらいうギルドール。


グロールフィンデルもなんだかんだ言って怒って相手にしてくれると思っていたのだ。


だが、反応は予想外のものだ。



「今度ばかりは本当に呆れたな」

罵声を浴びせるわけでもない、冷ややかな目線。



「姫の気持ちをからかって何が楽しいんだ?
 相手を大切に想うというのはそんなに面白いことか?」


ギルドールだってからかうつもりで言ったわけではない。


いや、多少はそう想ったが、それからの気持ちを色々聞きたいと思っていたのだ。

だが、それはたちとギルドールの性格の差の問題。



「そんなつもりは無かったんだが…」

今回ばかりは本当に反省しているようなギルドール。


「いいか、ギルドール。
 もし姫とエレストールの関係が壊れたら、二度と裂け谷に来れないようにしてやるからな」




そう言うと長衣のすそを翻しギルドールの前から颯爽と立ち去った。



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