両手の剣を軽く回し改めて構える。

グロールフィンデルは少し心配そうな表情だったが、が一度大きく頷くと
吹っ切れたように剣を構えなおした。



合図を出す武官も少し躊躇するがグロールフィンデルに合図を出されると
始まりの合図を出さずにいられなかった。



その合図と同時に飛び出すレゴラス。

だが、今度は先ほどと違った。


一瞬金の残像があったと思ったらその姿は消えていた。

だが、代わりに背後からとてつもない衝撃が走る。


背中からわき腹あたりにグロールフィンデルの大剣がぶつかる。

本気で殺そうとはしていないため刃はたてられていない。


だが、急所の一つでもあるわき腹への攻撃だ、一瞬内臓がよじれるような感覚に囚われる。


しかし、いつまでもうずくまっているわけにはいかない。

すぐ次の攻撃がレゴラスに向かってきた。


それは間一髪のところでかわせたが、グロールフィンデルはそれすら読んでいたのだろう。

避けた先に回り剣の鞘でレゴラスの腹部を打ちつけた。





レゴラスだって必死に応戦しようとする。

しかし、グロールフィンデルに傷一つ負わせることはできない。



息も上がり、口の端から血が流れるレゴラス。

一方グロールフィンデルは試合前の時の格好と変わらない一糸乱れぬ姿。


こんな光景、誰もが胸を痛めてみていた。



「姫、もうやめさせてください…こんな…」

悲痛な表情のエレストール。


だが、は首を立てに振ろうとはせず、じっと戦う二人を見ていた。


「姫っ!」

「……エレストール…」


ようやく口を開いた

だが、その声は沈んでいた。


「あたしね、怒ってるんだよ…」

「怒っているとは何をですか?」


するとはエレストールに向き直り目を伏せた。

その表情は明らかに悲しみを帯びていて。



「あの時のキス…」

その言葉でエレストールはようやく気づいたようで。


「レゴラス王子はあたしと彼が結ばれたら晴れて
 あたしはスランドゥイル王の娘になれると言ったわ」


エレストールは口を挟まずだまっての言葉を聴いていた。



「それって…さ、別にあたしを大して愛していないのにキスをしたって感じじゃない?
 …そんなの……あたし…惨め以外の何物でもないじゃない…」


口のはしをきゅっと閉め、初めて見せた傷ついたの表情。



気丈に振舞っていてもまだ成人にも満たない子供。

そんな子供なりに恋だってしていて。

しかもあんな光景を秘かに想いを寄せているエレストールに見られたのだ。


レゴラスの行為はそんなを傷つけるには十分なものだった。




「…どうせ、レゴラス王子は今に降参するわ。
 ……グロールフィンデルに傷一つつけられるわけ無いもの…」


それに、と改めて必死に戦っているレゴラスを見た。



「あたしのことだって、そこまで愛してるわけ無いわ」



“そうよ、愛しているわけが無い…”そう心の中で言い聞かせた。






ほぼ一方的にやられているレゴラス。

体のいたるところに傷や痣が出来ている。


もう剣を握ることすらつらいはず。



「…レゴラス王子……」

今まで無言のまま剣を振るっていたグロールフィンデルが初めて言葉を発した。


だが、それは目の前にいるレゴラスにしか聞こえない。



「もう止めてください…立つのも辛いでしょう」

「……そうはいきません…貴方に傷一つ付けられないと姫どころか
 闇の森の王子としても従者に顔向けが出来ません…」


自嘲気味に笑う彼だが、もうそんな余裕すらないはず。


「僕も…一つだけ聞いていいですか?」

今度はレゴラスが言葉を紡ぐ。


「なんでしょう?」




周りから見たらただ二人が見つめあいながら黙っているように見える。



「……なぜあなたは今回の姫の申し出を了解したのですか?」

グロールフィンデルはレゴラスの言っている意味が少し理解しかねた。


「どういうことですか?」

「僕へ出されたこの条件、どうやら姫が自室から出てくる時から決まっていたようです。
 外交のことを考えたらあなたは姫を止める立場。
 それにも関わらず了解した訳を」


端から見るとただのの我侭にとられるこの決闘。

無駄な戦いなんて好まない、さらに相手は闇の森の王子でもあるレゴラス。


そんな相手にグロールフィンデルがなんの文句も無く剣を向けるとは到底思えない。


するとグロールフィンデルは何かを懐かしむように遠くを見つめた。



「……私が再びこの中つ国に生を受ける前のことはご存知ですか?」

「……まぁ…史実程度なら…」


一応エルフとしてあの悲しき事件は学ばなければならない。

だが、闇の森には裂け谷ほどあのときの事件の出来事は残されていない。


「…ゴンドリンの没落の原因、モルゴスの攻撃が主ではありますが、直接的な原因は
 内部の裏切りです」

苦々しく口にするこの言葉。

彼は普段あまりゴンドリンのことは話したがらない。

あまりに悲しく、また怒りに満ちているから。

それは生まれ変わった今も変わらない。


「裏切ったエルフはゴンドリンの姫に禁断の恋をしていました。
 彼女を手に入れるためモルゴスにゴンドリンを売ったのです」


剣の柄をにぎるグロールフィンデルの手の骨が軋む。



「…貴方を疑っているわけではありません」

ただ、と釘をさすと真っ直ぐと剣の切っ先を傷だらけのレゴラスに向けた。



「どんな些細なことであろうとこの裂け谷を危険にさらす可能性があるのであれば
 私は回りから卑怯者や愚者と罵られてもそれを排除しなければなりません」

その目は間違いなくすべてを見てきたものの瞳。


英雄とかそういうのではなく、体が引き裂かれたほうがはるかにましだと思えるくらいの
苦しみを味わったことのある悲しいくらい強い存在。


そんな二人の会話は周りには聞こえない。

ただ、読唇術ができるエルロンドとエレストールだけが理解していた。




「さぁ、レゴラス王子、お立ち下さい。
 貴方が我が主の姫をどれほど想っているのか、それは姫にとって重荷にならないか、
 確かめさせていただきます」

剣を改めて握りなおす。

すべてを聞くことが出来どこかで彼に対して恐怖を感じたレゴラスも
体を奮わせ剣を握った。



二人同時に駆け出す。


あたりに響く剣の音。

相変わらず一方的なグロールフィンデルの攻撃。


だが、レゴラスも何か吹っ切れたのは先ほどより体の動きがよくなったように見える。




始めたころは太陽は真上にあったが今はすでに西へ沈み
アルウェンの美しさを形容する夕星の空が広がっている。


だが、二人はまだ剣を振るっていた。



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2004/10/03


今回はこの戦いをけしかけたヒロインの気持ちと、
その我侭に付き合ったグロールフィンデルの気持ち。


ゴンドリンの没落、シルマリルを何度読んでもこの話は悲しいです。

裏切り者、つまりマイグリンですが一概に彼を悪者にはどうしても思えません。


ほとんど監禁状態での幼少期、そんな彼が目の前で母を亡くし父は処刑。
その後父を処刑した者へ使えて初めて意識した異性が禁忌である従姉妹。

その上その従姉妹は幸せになれるわけが無い(と思われている)人間に恋焦がれて。

誰だって普通の状態ではいられないと思います。


妙に愛しく思えるエルフの一人です。

余談ですが、マイグリンは毒苺の中では受けです。
エクセリオン&グロールフィンデル×マイグリンや
トゥアゴン×マイグリンとかマイグリン総受けとか如何でしょう?
同士かなり求む!
(てか、このサイトでそういう話するなよ…
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