あたりに松明が灯された。


すっかり陽も落ちあたりには輝かんばかりの星と、
なぜか胸を締め付けるような切ない光を放つ満月。


空を眺めるには打って付けのこの夜もこの裂け谷では
誰一人として空を見上げては無いかった。


皆が目を向けているのはとても背の高い鍛え抜かれた身体を持つエルフと
成人したばかりの若いエルフ。


時間が経過するたびに増えるレゴラスの傷。

息はすっかり上がり肺が焼けるように痛い。


一方グロールフィンデルは相変わらず涼しい表情。

だが、その海のように蒼い瞳には先ほどに比べ多少の疲労は見て取れた。



レゴラスは歯を食いしばると剣を地面に付きたてそれを支えに立ち上がる。


グロールフィンデルはレゴラスが構えている時以外は攻撃しない。

立ち上がり剣を持ち直してから行動に出る。


お互いがお互い引けないこの状態。


一人、胸を痛めながらこの戦いを見ていた

その瞳には困惑の色が見えていた。



どうしてレゴラスはあんなぼろぼろになって戦うのだろう。

相手は英雄と謳われ中つ国最強と思われるエルフ。

レゴラスが敵う分けない。


それなのに…


不安に押しつぶされそうな胸を押さえるかのように両手を胸で重ねる。

そんなの様子にエレストールは気づいていたが、
なんと声を掛けるべきか彼にはわからなかった。


の気持ちもレゴラスの気持ちも分かるし、グロールフィンデルの気持ちも分かる。

エレストールは自分の無力さに腹が立った。



皆が早くこの戦いが終わってほしい、そう思ったときグロールフィンデルの肘が
思い切りレゴラスの鳩尾に入った。


一気に崩れ落ちたレゴラスは堰と同時に少量の喀血をする。


「レゴラス王子!」

は一瞬にして青ざめ悲鳴を上げる。


回りも一瞬にしてざわめいた。

だが、レゴラスは戦いをやめようとはしない。

血を袖で拭い再び立ち上がろうとした。



それにはさすがにも黙ってはいなかった。


「もうおやめください!
 グロールフィンデルに勝てるわけありません!
 あたしがワザと言ったことくらい分かっているのでしょう?」

鍛錬場中に響き渡るの悲痛な声。

その声はどこか涙が含まれていて。


「お願いですから…もう立たないで……」


その瞳から涙が流れた。

自分の言った愚かな条件と、レゴラスの体中の傷。

そのほか沢山の要素が交じり合いの心はぐちゃぐちゃだった。


「……姫……」

松明の光に反射するの涙を不謹慎にも美しいと思ったレゴラス。

だが、彼は立ち上がるとこはやめなかった。


「今、この時ばかりは譲るわけにはいかない。
 あなたが僕の愛を信じられないのなら信じてもらえるまで戦い続ける!」

レゴラスの弱った瞳に再び炎がともる。


次の瞬間再びレゴラスは駆け出した。


「レゴラス王子っ!
 だめ…やめて…誰か!あの二人を止めてっ!!」


泣きながら取り乱した

周りにいた武官達がの声を聞き二人に駆け寄ろうとする、が。


「何人も二人に近づいてはなりません!」

あたりに響くよく通る声。


「エレストール…何を…」


涙を拭うこともせず呆然と声の主、エレストールを見据える。

武官達も姫の命令を聞くべきか、顧問長の命令を聞くべきか困惑している。


「早くっ早くあの二人を止めないと…
 レゴラス王子があたしのせいで死んでしまうわっ!」

「落ち着いてください!」


取り乱したを落ち着かせるように彼女の両手を押さえつけ怒鳴る。


「これは貴方がもたらした行動の結果です。
 貴方はこの戦いを最後まで見届ける義務があります」

エレストールの言葉が刃のように胸に突き刺さりはいやいやと首を振る。


「姫、あなたのこの行動は決して正しいとはいえません。
 ですが、間違っているとも言えません」

「…分んないわ…分かんないっ……」

抑えられた両手はびくともしない。

自分の手首を簡単につかめる彼は確かに自分より大人で、男性で。


は自分の泣き顔を隠すことも出来ずただただぼろぼろと涙を流した。


「姫、二人を見てみてください」

エレストールは優しく手首を離すとの視線を二人へ促した。


「二人とも貴方とそして自分のために戦っているのです。
 そんな二人を最後まで見守りましょう」


たとえ勝ちを見込めないと分っている相手に果敢にも挑むレゴラス。

たとえ自分より実力や経験が劣っていても尊重し続けるグロールフィンデル。



の涙にあふれた瞳では歪んでしまっても、
心には二人の戦う姿ははっきりと映し出されていた。


「……あたしは…あの二人に…何をして上げられる?」

弱弱しく呟いた、その問いにはエレストールは小さく答えた。



「笑顔で…迎えてあげることですよ。
 あなたの笑顔はわれらエルフの光ですから」







永遠に続くのではないかと思われたこの勝負もとうとう終盤を迎えようとしていた。


レゴラスの体力はもうとっくに限界を超えていて
だが、今なお彼を立ち上がらせているのは誇りとへの愛。


しかし次の一撃が最後の一撃となるだろう。

レゴラスは両手に握っていた剣のうち1本捨て短剣を両手で構えた。


レゴラスが構えたのを見てグロールフィンデルもしっかりと大剣を構える。



合図なんて無い。

だが、二人は同時に飛び出した。


時間にすると一瞬のはずなのにそこだけスローモーションのように見えた。

レゴラスの渾身の一撃はグロールフィンデルの右首筋を狙った。

身長差から今まで腹部を狙っていたレゴラスの攻撃。

それが今回変わったことにより一瞬グロールフィンデルはふいをつかれた。


「くっ…」

反射で動いてしまった身体を無理に捻じ曲げるようにひねる。

レゴラスの剣の切っ先はグロールフィンデルの首先を掠ることもなく、
また、宙に舞った金の髪を1本たりとも切ることがなかった。



“終わった…”そうレゴラスは思った瞬間体中に衝撃が走った。



グロールフィンデルが交わすと同時にカウンターを仕掛けたのだろう。

捨て身に近い攻撃をしたレゴラスはそれを防ぐすべは持ち合わせていなかった。



「レゴラス王子!」

観衆の安全のために高めに作られた壁を飛び越えレゴラスの元に駆け寄る


薄れ行く意識の中レゴラスは突然飛び込んできた愛しき姫が
美しきマイアが舞い降りてきたのではないかと錯覚し、そして意識を手放した。


「レゴラス王子!!」

涙を流しながらレゴラスを膝の上に抱き上げる


「医務室へ運べ!急ぐのだ!」

後ろからエルロンドの声と他の武官達があわただしく動く音が聞こえる。


「姫、私が王子を運びます!
 離れてください!」


いまだにしゃくりあげるの横からグロールフィンデルが手を出した。

ずっと握られていた剣はすでに鞘に収められている。


成人したエルフの割りに華奢なレゴラスを抱えると急いで医務室のある館へと駆け出した。


その後姿を呆然と見ている


、そなたも館へ戻るのだ。
 今回のことは後ほど処罰を決めよう」


エルロンドがいつもより厳しい声でいう。

「お父様…レゴラス王子は大丈夫ですよね!?
 マンドスの館へ旅立ったりしませんよね!?」

必死な表情の

懇願するように長衣を握り締める娘にエルロンドは優しく説いた。


「相手はあのグロールフィンデルだ、傷は深いかも知れぬが
 命を奪ったりはしないだろう」

そう言うとエルロンドは急いで館へと駆け出していった。


一人残されたはレゴラスの2本の短剣を握り締めて静かに涙を流した。



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2004/10/03


はい、決着が付きました。

レゴラス結局は一撃も当たりませんでしたねw
って、こういう話の流れから言ったら最後は勝つべき?と、
思ったんですが、毒苺の中でグロールフィンデルは最強と定義されているので。

また、勝ったらレゴラスはさらなる成長ができなくなりそうだったので。
2番は悔しいかもしれませんが、必ずしも1番がいいとは限らないということです。
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