文官の長衣を着込んだ


サイズは少し大きい気がするが、過去にこんな小さい文官がいなかったのだろう。

サイズが無くても文句は言えない。




「準備できました」

扉から顔を出すと、律儀に待っているマイグリン。


「では、行きましょう」

の半歩先を歩く。

一応の脚を気遣ってかその歩調はゆっくりだった。





「では…まず…何からはじめましょうか…」

マイグリンは少し困っているようだ。


まだ成人にも達していない、ましてや外見もまだまだ子供。

重要な仕事は任せられない。


「貴女…と言いましたね。
 歳はいくつですか?」

「歳?この間、500歳になりました」


500歳といっても人間で言うところの9歳ほど。

「…500歳…そんな子供に一体どんな仕事をさせたら…」

子供という言葉に少しムッとするが、それを抑えて笑顔で返した。


「一応計算も出来ますし、字もかけますよ?」

「…では、この資料の清書をしてもらいましょう」


資料といってもトゥアゴンに提出したり、会議で使うような重要なものではなく
簡易的なメモ程度のもの。

それでも、は仕事をもらえたことが嬉しいのか笑顔でそれを了承する。



場所は顧問官室。

ここには数人の顧問官がいた。


「顧問長、この子供は一体…」

顧問長、と呼ばれマイグリンが返事をした。


「王よりの命令で、この少女は本日をもって文官に任命されました。
 指導は私がします。
 皆さんはいつもどおり仕事をしてください」

マイグリンが説明するも皆不審な目でを見ている。


こんな子供がいきなり文官なんて言われても納得できないだろう。


「よろしくお願いします」

とりあえず最初が肝心。

丁寧に挨拶をすると、顧問官達は不審そうな顔をしているもののその挨拶に応えてくれた。





さて、仕事も着実に進む。

皆黙々と自分の仕事に取り組んでいた。

裂け谷でも皆真面目に仕事をしているが、ここはそれに負けず劣らず黙々と取り組む。

だが、妙に肩が凝る気がするのはここは裂け谷と違って開放的では無いからだろう。


何がともあれ、は指示された清書が完了した。


「出来ました」

清書した資料をマイグリンに手渡す。

初めは簡単に流す感じで眺めていたマイグリンだったが、だんだんその表情は変わる。

「……貴女はどういう教育を受けたんですか?」


この言い方には内心焦る。

もしかして何か間違えたかもしれない。


そう思ったのも束の間、マイグリンはその心配と逆のことを言う。

「とても綺麗に書かれていますね。
 資料も巧く纏められていますし、それにとても貴女は字が綺麗です」


字が綺麗なのはエレストールの賜物だったりする。

彼曰く、字というのは人格が現れるらしく、
字が汚ければそのひとの人格まで疑われるらしい。

そのため文字は数ある教科の中でも重要に教えられていた。


「あたしにはとても優秀な先生がいますから」

現在進行形の言い方に少しマイグリンは引っかかったようだが
仕事を完璧にこなせば文句は無いらしくそれ以上追求しなかった。


「貴女は私の予想以上にすばらしい教育を受けているようですね。
 いくつか試させていただいてよろしいですか?」

「ええ、もちろん」

すばらしい教育といわれては嬉しくなる。

エレストールから沢山の知識を教わったが、それを試す機会は本当に稀。

だが、今はそれを思う存分発揮できるのだ。


は次に差し出された資料、おそらく何かの経費だろう。
それの計算に取り掛かった。





時刻はだいたい正午あたりだろうか。


顧問官達は食事をかねて休憩を取り始めた。

、貴女も休憩にしていいですよ」


今まで黙って仕事をこなしていたマイグリンが初めて声を発する。

自身も集中して仕事をしていたせいか、時間が経つのをすっかり忘れていたようだ。


「えぇ、でもマイグリン様は?」

「私は仕事が残っているので後にします」


顔は書類に向けたまま、そのまま会話をする。


「でも…」

やはり少し気になるようだ。


マイグリンはどこか他の顧問官達とは馴染めていないというか、一線を置いているような態度。


彼自身成人して間もないくらいだろう。

にもかかわらずゴンドリンの顧問長を務めている。


彼はトゥアゴンの甥にあたるがそんな理由で顧問長になったわけでは無いだろう。

優秀な彼は自分の実力でこの地位を築いたはず。


だが、それは余計に周りとの溝を深めることになる。



は少しため息を付きふと机の上を見る。


広い彼の机の上は所狭しと書類が並んでおり、高く積み上げられている。

マイグリンはここに着てからずっと仕事をこなしているがその量は減る様子を見せない。


「マイグリン様、今日は仕事が多い日ですの?」

「いいえ、いつもこんなかんじですよ」


淡々と応える彼には眉をひそめる。


「いつもこの量をお一人で?」

「ええ」

「日が落ちるまでに終わりますか?」

「むしろ終わることのほうが少ないです」

「お食事は?」

「エルフですから少しくらい食べなくても問題ありません」


相変わらず資料を見たままのマイグリンとの会話。

だんだんにイライラが募る。



「どうして他の顧問官達に手伝わせないんですか?」

その質問にようやくマイグリンは頭を上げを見据えた。


「これは私がやると決めた仕事です」


きっぱりと答えたマイグリン。



だが…





「あぁもう!!あったまくるわね!!」




とうとうがキレた。

闇の森のスランドゥイルに怒鳴りつけてからどうも怒りっぽくなっている気がする。


今まで黙々と仕事をしていたマイグリンもポカンとを見た。


「どうして全部自分で背負い込もうとするんですか!!
 こんなに沢山顧問官だって文官だっているんだから手伝わせたらどうですか!!」

「し、しかし…」

「一人で抱え込んだっていいことなんて一つもないんですよ!!」


そういうとは手始めに手前にある書類の束を指差した。


「これはどうするんですか?」

「あ、それは城下の水路に関しての資料で調査に行かないと…」

「では、これは顧問官2人ほどに任せましょう。
 こちらは?」

「それは武器庫の在庫と必要経費…」

「これくらい武官達に任せましょう。
 これは?」


と、いう具合に次々仕事は無数に分担されていく。


「で、この仕事だけマイグリン様がこなしたらいいじゃないですか」


マイグリンの机の上には先ほどの10分の1くらいの書類の束。

これなら休憩を取りながらでも十分日没までに間に合う。


「し、しかし…」

「いいですか、優秀な顧問長というのは一人で全ての仕事をこなすのではなく、
 巧く部下達に指示をだしその結果完璧に仕事をこなすことができるひとを言うんです!」


そう言い放つとはマイグリンの手を引き無理に立たせる。


「さ、食事に参りましょう」

「わ、私はいいです!」


いつまでも否定的なマイグリンを引きずるように引っ張る。


「確かにエルフは食事はそこまで必要としませんが、いつもこんな生活をしているから
 マイグリン様みたいに細くて青白い顔になるんですよ!」

偶然目に入った鏡に映るマイグリンの顔は確かに確かに不健康そのもの。

今にも倒れそうだ。




、貴女脚はもう治ったのですか!?」

「治ってはいませんが、あたしだってエルフです。
 自己治癒能力は高いし、先ほど傷薬だって塗ってもらったので大丈夫です」


そこまで言うとはくるりと振り返った。


「食事の後はあたしにこの城の中を案内してくださいね」


にっこり笑顔で見上げるとマイグリンは降参とでも言うように肩をすくめた。



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2004/12/19

マイグリン可愛いな〜(悦)
絶対一人でなんでも抱え込むタイプですね。

ここで補足。

エレストールとマイグリンとではエレストールのほうが年上です(生年は別として)
年齢的というより精神的にも。

エレストールは自分自身も仕事は多いですが、部下達と巧く連携して仕事をこなすんですが、
マイグリンは同僚とはうまくいっていないためすべて自分でこなそうとするタイプ。

エリーは仕事は厳しいですが、それ以外では比較的大らかな性格だと思います。
マイグリンは暗いんですよね…。

で、顧問長といったらエレストールのイメージが強いヒロインは
暗くて孤立したマイグリンに苛々したんですよね。

もちろんマイグリンは優しくていい子ですよ。
ただ、子供時代があまりに悲惨だったため、心を開けないエルフなんです。

そのあたりを次で書けたらいいな〜と思います。
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