向かった先は大広間。

ここでは広めのテーブルが規則正しく並べられ沢山のエルフ達が
食事をしながらおしゃべりに華を咲かせていた。


先ほどの顧問官室と違って賑やかな空間。


は嬉しくなった。


「さって、何にしようかな〜」

綺麗な装飾で飾られた額に入れられた手書きのメニュー。

木の実や野菜中心のそれらは比較的少ないエルフの食欲を掻き立てる。



「マイグリン様は?」

「わ、私は…」


マイグリンは少し戸惑った様子をしている。

恐らくこの賑やかな空間に居心地の悪さを感じているのだろう。


しかし、マイグリンの気持ちとは裏腹にさらに賑やかになる出来事が起こった。



「「〜っ!!」」

急に両肩に掛かる重み。

「エルラダンお兄様、エルロヒアお兄様」

「「ちゃんと仕事していたかい?我が愛しの妹君?」」


二人は今まで離れていたほんの数時間を埋めるかのようににべたべたする。


「お、お兄様方は?何をなさっていたんですか?」


「僕らはとりあえず実力を確かめてもらってたんだ」

「まぁ、僕らの実力なら試さなくたって分かるけど」


ふふん、と自慢げの双子。


「何言ってるんだ、エルラダンは左に弱くて
 エルロヒアは後方からの攻撃が弱いだろ」

こつん、と双子の頭を軽く殴ったのは見事な金髪のグロールフィンデル。

「でも、二人とも凄く筋が良いよ。
 そのうち小部隊を任せてもいいくらい」


グロールフィンデルと並んで現れたのは泉家宗主エクセリオン。


この金と銀の二人は美しいといわれるエルフの中でもさらに美しいと評判。

第三紀でもこの二人は英雄としてと同時に輝かんばかりの美しさにも唄が残っているくらいだ。



「あぁ、彼女が双子の妹君か」

グロールフィンデルが屈んでを見つめる。

「確かに双子が自慢するだけあるな」

「自慢?」


一体何を言われていたのだろう。

そこはかとなく嫌な予感がする。


「そうでしょう?僕らのは可愛いでしょう?」

「中つ国一可愛いんですよ」


両隣に立つ双子はに頬擦りまでし始める。

「ちょっと、お兄様たち…」


邪魔だ、と言わんばかりに双子の兄達を振り払うと
改めてエクセリオンとグロールフィンデルを見る。


裂け谷で飽きるほど見たグロールフィンデルとは違い、
色々な書物を読んで憧れていたエクセリオンが目の前にいるのだ。


の胸が嬉しそうに高鳴った。


と申します。
 色々問題を起こすであろう兄達をよろしくお願いいたします」


丁寧に深々と頭を下げるにグロールフィンデルとエクセリオンは声を上げて笑った。

隣では双子がわざとらしく肩を竦めて笑った。



「脚は大丈夫かい?」

エクセリオンのスカイブルーの瞳がの足元を捉える。

「すまなかったね、たとえ任務だったとしても女性に傷を負わせてしまって」


現在この場においては一文官であるより泉家宗主のエクセリオンの方が立場は上。

にも関わらず片膝を付きに謝罪を述べる。

「大丈夫ですわ、手当てもしていただいたし、1週間も経てば治りますわ」

頬を赤らめながら微笑むとエクセリオンも安心したかのように微笑んだ。



まるで林檎のように真っ赤になる

こんな至近距離で泉の君と呼ばれるエクセリオンの微笑を見たのだ。


男性に抗体のない少女の正しい反応と言っても過言ではない。



「ほら、エクセリオン。そんな小さな文官まで口説き落としてないでさっさと食事にしよう」

横からくすくす笑いながらグロールフィンデルが口を挟む。


その手にはトレイがあり、すでに本日の昼食を決めたようだった。

エクセリオンも彼の皮肉に不適に笑うと立ち上がり料理担当のエルフに声を掛けた。


「ほら。も早く決めたら?」

「僕ら昼食後すぐに次の訓練あるから急がないといけないんだ」

双子がを左右に挟み妹の分まで注文してしまう。


「ちょ、お兄様!あたしこれじゃなくて別のがいい…」

「あ〜好き嫌い?エレストールにちくっちゃうよ?」

「それに、エクセリオン殿にときめいてたっぽいし?ってば浮気者〜」


もう恒例となり始めている双子の遊び。

「ち、違います!あたしはエレストールが…」

「まぁ、エクセリオン殿はあの通り美しい方だしな」

よくグロールフィンデルにエクセリオン殿の話をせがんでたしな」

「そ、それはただの憧れで…」

「「真っ赤だよ〜」」


長衣をその小さな手で掴み浮かんできた涙を必死に堪える。

最近泣くことは少なくなってきたが、双子にからかわれて度が超えるとこの通り。

顔を真っ赤にし、口を噤み涙が零れないように堪えるのだ。


「こら、双子」

「自分達の可愛い妹を自分達で苛めるとは何事だ」


ゴン、と双子の頭に同時にこぶしが降りてくる。

その犯人はもちろんゴンドリンの双璧グロールフィンデルとエクセリオン。


「さ、。意地悪な兄達など放っておいてわれらと食事をしよう」


グロールフィンデルが双子が勝手に注文したの昼食を手に持ち自分達の席に案内する。

いつもはグロールフィンデルに敬称で呼ばれているため少し違和感を感じるが、
呼び捨てにされることにさほどの不快感は無かった。

「そうそう、色々話を聞かせておくれ」

エクセリオンもの肩を抱き双子から遮断する。

「あぁ、待ってください!」

、僕らの元に戻っておいで〜」


双子も慌てた様子で3人の後を追っていく。



周りでその光景を見ていたほかのエルフ達は思わずくすくすと笑っていた。


だが、そんな光景を遠くて見ていたマイグリン。

彼は一人自分の注文をするとトレイごと持ち執務室へとそれを運んだ。



「あ、あれ?マイグリン様?」

エクセリオンたちと談笑をしていたためマイグリンを見失ってしまった。


「どうしたんだい?」

エクセリオンがを覗き込む。


「え、ええ…マイグリン様どちらに行かれたかわかります?」

“マイグリン”という単語が出たことでエクセリオンと
話を聞いていたグロールフィンデルは眉を潜める。


「珍しいな…マイグリンがここに来るなんて」

「て、いうか初めてじゃないか?」


二人の会話を不思議そうに聞いている

「え?だって二人の同僚なのでしょう?
 ご一緒にお食事なさったりしないのですか?」


裂け谷ではエレストールとグロールフィンデルは共に食事をしていることが多い。

そのときに顧問長として、武官長としてお互いの仕事の報告をしあうのだ。



「あ…いや…初めのうちは我々も誘ったりしたのだが…」

「ほら、あの通り暗い性格だろう。
 無理に誘っても悪いしな…いつも執務室で食べているようだし…」


二人の言い草には少しムッとする。


「どうしたんだい?

エルラダンが妹の変化に気づく。

「いえ…別に…」

「ほら、早く食事にしよう」


エルロヒアが肩を抱き席に誘導した。


だが、はそれを巧くかわす。


「お兄様方、エクセリオン様、グロールフィンデル様。
 申し訳ありません、夕食こそご一緒しましょう」


そういうとも自分の分のトレイを持ち大広間を後にした。














ここは執務室。


マイグリンは自分の席に着くと食事に手を付ける。

と、いってもそこまで食欲は湧かない。


スープに少しだけ口を付けるとスプーンをトレイに置いた。



ちょうど開いていた窓から白い小鳥が数羽舞い込んで彼の机にとまる。

マイグリンは彼らに少し微笑むとパンを少しちぎり細かくする。


それを小鳥達の前に広げると彼らはチュンチュンと鳴きながら啄ばみ始めた。


この小鳥達は良くマイグリンが今みたいに一人で食事をしていると迷い込んでくる。

彼らがいれば一人きりの食事だって寂しくはない。



しかし、今日は違った。



自分を引っ張り外へ連れ出した

彼女は兄だけではなくすっかりあのエクセリオンとグロールフィンデルとも仲が良い。


他のエルフ達と親しくなるのも時間の問題だろう。


そしたらきっと自分のことなんて見向きもしなくなる。



また一人になるのだ。


生まれた時から一人だった。

白い姫君と言われた美しい母、アレゼルはいつも泣いていた。


ダークエルフと言われた父、エオルには抱きしめてもらったこともなかった。



いつも一人だった。



そして、父によって母が殺され、
父が処刑されて


孤独になった。




そしてこのさき永遠の時を歩む中でもそれは変わらない。

この白い都の中でひとり孤独という闇に閉ざされ生きていこう、



そう思っていた。







だが、目の前に広がる眩い光。


「……姫…?」

一目見て心を奪われた、眩いばかりの光を携えたゴンドリンの姫。

従姉にあたる彼女との恋は禁忌にあたることは知っている。


それに、身分ちがいもいいところ。

この想いは心の奥にしまっておこう。


これはきっと幻……



だが、意外にもこれは幻ではなかった。



「マイグリン様、いたいた〜」

トレイを持って現れた

イドリルのように柔らかい金髪は持っていないが
真珠のような柔らかい色をした流れる銀髪を持っている。


「もう、急にいなくなるから驚きましたよ」

そう言ってはマイグリンの机に自分のトレイを置く。

するとマイグリンに遊びに来た鳥達が驚き少し羽ばたいた。


「ああ、ごめんね。
 食事中に」

くすくす笑うと指先に小鳥を乗せて話を始めた。


「あたしはよ。
 今日から文官になったの。よろしくね」


すると鳥達もそれに応えるかのように囀る。


「……貴方はご兄弟の方と食事するんじゃないのですか?」

「え?まぁ…夜は一応約束しましたけど…あたしが誘ったのはマイグリン様ですわ。
 それに、食事の後城の中を案内してくださいと言ったじゃないですか」


にっこりと笑うにマイグリンは押され気味。


さて、と気をとりなおすとは食事の前のお祈りをして
料理に手を付けはじめた。

「あ〜…あたしこれ嫌いなのよね…
 はい、マイグリン様に差し上げますわ」


返事を聞く前にマイグリンのさらにそれを引越しさせる。

「え?あ…」

実は自分も余り好きじゃないといいそびれる。


「もう〜…お兄様たちったら勝手に決めるんだから〜…」

どうやらは自分の望んだ食事が出来なくて不満そう。


ふと前のマイグリンのトレイに目をやると
それはが狙っていた料理。

「あ、マイグリン様…そのデザート少し頂けません?」


お願い、と頼むにマイグリンは無意識に頷いてしまう。

「やった〜。ありがとうございます」

「あ、あの……」

「はい?」


ぱくっとフルーツを口にしながら返事をする。


「無理をして私と食事をしなくてもいいんですよ」

マイグリンの言葉に今度はが驚く。


「え?あたし無理なんてしてませんよ。
 だってあたしはマイグリン様と食事したかったんですもの」


初めてだった。

自分と食事をしたいといったエルフは。


トゥアゴンがたまに誘うがそれは伯父としての立場上だろう。

だが、はそんなことを気にせず自らの意思でマイグリンと食事を共にしている。


それは彼にとってとても嬉しく、そして温かいものだった。


「ほら、マイグリン様。
 早く食べ終えて城の案内してください。
 こんなに広いんですからね」

「……仕方ありませんね」

小さくため息を付くとマイグリンは少し笑った。





「でも、好き嫌いは駄目ですよ。
 きちんと全て食べなさい」



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2005/03/21

すみません…久々の更新…。
いえ、内容は半分以上もう出来上がっていたんですけど、
なかなかアップしなかっただけです。


いや〜マイマイ(マイグリンこと)可愛いな〜。
からかいたいな〜、泣かせたいな〜(危)

イドリルに抱いた報われない片想い…。
まぁ、それが原因でゴンドリンが…。

ちなみに、補足。

ヒロインはもちろんですがマイグリンが好きなのはイドリルです。
ヒロインではありません。


次あたりではエクセリオンとグロールフィンデルをもっと出したいな〜と思います。
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