食事も無事終了。


いつもならすぐ仕事のマイグリンだが
が巧い具合に仕事を分担したため休憩時間をいつもより多めに取ることができる。


「じゃあ、早く行きましょう!マイグリン様!」


脚の怪我はどうなったのだろう、そんな疑問を持ちながらも
彼は諦めてと共に執務室を後にした。






まず初めに訪れたのはおそらく書庫と思われる場所。

古本独特のにおいは無いものの、ものすごい広いこの空間に
書物が所狭しと並べられている。


「ここが第一書庫です。
 他にも本の内容によって書庫が分けられています」

さすがゴンドリン。

裂け谷の書庫並みの広さと書物の量があるにも関わらず、
似たような部屋がまだあるというのだ。


エレストールあたりここに来たら100年くらい引き篭もり全ての本を読みつくすだろう。



「わぁ…面白そうな本がいっぱい」

は本、好きですか?」

「はい!歴史書も好きですけど、物語や伝記だって読みますよ」


近くにある本を手に取りぱらぱらとページをめくる。

「ここと第二書庫はいつでも開いています。
 暇になったら借りに来たらいいですよ」




さて、次はたちが一度は訪れた大広間。

来るのは二度目だが、やはりものすごく広い。


先ほどは緊張のあまり良く分からなかったが、ここには裂け谷に劣らないほど
芸術作品に囲まれていた。

「ここは主に謁見に使われます。
 と、言ってもここには来客自体少ないので、机を並べて宴会に使われるほうが多いですね」

来客が少ないのではなくて、侵入者を片っ端から処刑しているからなのでは…
思わず喉まででかかった言葉を寸前で飲み込む。


「そういえば、マイグリン様。
 あたしトゥアゴン様に『娘のイドリルに似ている』って言われたんですけど…
 そんなに似ているんですか?」


それを聞き、マイグリンは一気に真っ赤になった。

さきほどまで全くの無表情だったマイグリンがここまでうろたえたのだ。


も少し驚く。


「貴女と姫が似ているなんて…そんなことありません!
 あの御方は……」

珍しく熱くなっている自分に気が付いたようで語尾が小さくなる。


「マイグリン様?」

「な、何でもありません!次行きますよ!」


ぷいっと方向転換するとマイグリンはすたすたと出口へ向かう。


は自分がイドリルと似ているかどうかはともかく、
マイグリンが抱いていたイドリルへの恋心は知っていた。

「もっとストーカー並かと思っていたけど…」


エルフにも聞こえないくらい小さい声でこれ以上ないくらい失礼なことを呟く。


マイグリンの恋心は予想外に純粋で純情であった。







「ここは中庭です。テーブルや椅子もあるので今日のように晴れた日には
 読書をしたりお茶をしてる者も多いです」


城の中の開けたこの空間は沢山の花が咲き誇り、池の水面がキラキラ輝いている。

木々には鳥達が巣を作り雛達のさえずりがあたりから聞こえる。


「綺麗…」

裂け谷にあるテラスもとても美しいが、ここもそれに勝るくらい美しい。


ここでエレストールと二人きりで食事をして勉強してお茶をして…。

一人妄想にふける


きゃ〜と喜んでいるをみて不思議そうなマイグリン。




しかし、そんな静かで平和な空間を切り裂くような鋭い音。







キィィンッ





それが剣同士がぶつかる音だと理解するのに時間は掛からなかった。


調度たちがいた反対側。


そこではエクセリオンとグロールフィンデルが
エルラダン、エルロヒアの二人を指南していた。


「お兄様方!」

「「あ、!」」

剣の手合わせの最中にも関わらず余所見をした双子。


二人同時に剣の鞘で頭を殴られた。


「コラ、手合わせ中は余所見をしない」


グロールフィンデルがその長い金髪を束ねて剣を鞘に収めていた。

その隣ではエクセリオンがクスクス笑っている。


「グロールフィンデル様、エクセリオン様。
 先ほどは失礼しました」

ぺこりと頭を下げると二人は優雅に笑う。

「いや、いいよ。
 気にしないでくれ」

「そうだよ。
 それに夕食は一緒に摂って良いんだろ?」


エクセリオンの誘いにも笑顔で応える。

「その際はマイグリン様もご一緒ですわ」


その言葉に驚いたのは後ろで黙っていたマイグリン。

!私は別に…」

「あら、いいじゃないですか。
 武官の長と顧問の長がともに食事をすることによって親睦が深まり、
 新たな良い政策が浮かぶかもしれませんし」


困った表情のマイグリン。

後ろではエクセリオンとグロールフィンデルが肩を竦めた。


「ところでお兄様たちは剣の稽古ですか?」

「うん。僕ら二人掛かりでグロールフィンデル様から一本獲ったら
 部隊の隊長を任せてくれるって約束してくれたんだ」

「でも、これが中々難しくてね」


悔しそうにグロールフィンデルを見る双子。

当のグロールフィンデルも口の端を上げて笑った。


第一、裂け谷のグロールフィンデルにすら未だに一本取れない双子。

ゴンドリン時代とどちらが強いかは分からないが、どちらにせよこの二人が敵わないのはたしか。


「へぇ…楽しそうですね」


そう言いながらはエルラダンの剣を受け取り構える。


「へぇ…も剣を扱えるのか?」

エクセリオンが感心したように尋ねた。


「えぇ…
 と、言っても自分を守るだけで精一杯ですし、実戦だって殆どしたことがありませんもの」


過去に戦ったのは闇の森の大蜘蛛相手だけ。

それだって殆ど戦えず、すぐにレゴラスたちに助けられた。


「じゃあ、も勝てたら何か褒美をやろう…。
 そうだな、じゃあが勝ったら顧問官に昇進ってどうだ?」

驚いた表情で提案したエクセリオンを見る。

そして次にマイグリンを見た。


「まぁ…は中々優秀ですし、こんなことをしなくてもそのうち王から直々に
 言われるかもしれませんし…」

つい先ほどまで侵入者と言われるエルフ達にそんな大切な役職を与えていいのだろうか。

疑問が浮かぶが、
恐らく彼らはがゴンドリンの双璧と詠われる二人に勝てるとは思っていないのだろう。


「じゃあ、やってみます」


にっこりと笑い剣を握る

「でも、双子ですら勝てなかったんだ。
 少しやりかたを変えよう」


そういうとグロールフィンデルはに弓と矢を10本渡す。


「あそこの木に的があるのが分かるだろう?
 あれに10本全部当てたらの勝ちだ」

彼の指差した先には直系30センチ程度の的が。

距離にして100メートルくらい。



「えぇ、弓は少し苦手ですけどやってみます」

にっこりと笑い弓を引く。


エクセリオンとグロールフィンデルは並んでお手並み拝見といった表情。

斜め後ろでマイグリンが少し困った表情。


だが、双子は近くにある木の影から覗いていた。

「どうした?双子」

「あ…いえ…」

「流れ矢に当たりたくないな…って思いまして…」


双子の言い草に不思議そうな双璧。


「何を言っているんだ?」

「私達はの後ろにいるのに矢が飛んでくるわけ……」







ヒュンッ







エクセリオンとグロールフィンデルの間を通りすぐ後ろにあった壁に矢が刺さった。



「「…え?」」


めったに驚かない泉家宗主と金華家宗主。

だが、今二人の目の前には見事に刺さった矢が。



と、いうより何故矢が後ろに飛ぶんだ。



「あ、ごめんなさい〜。
 またやっちゃいました」


“また”という言葉に冷や汗を掻く双璧。


は弓がものすごく下手なんです」

「矢が前に飛ぶだけで拍手が起こるくらいなんですよ」


ひそひそと報告する双子。


「もうゲームには負けてしまいましたけど、残り9本打ってもよろしいですか?」


笑顔で怖いことを言う


ある意味エクセリオンとグロールフィンデルから一本とった。

この試合の勝ちかもしれない。



…そろそろ仕事に戻りましょう…」

「え?でも…」


マイグリンがさすがに助け舟を出す。

まさかゴンドリンの守りでもあるこの二人に怪我をさせるわけにはいかない。


「そ、そうだな、

「その方がいいぞ」


泉と金華の宗主二人も必死にそれを薦める。


「ちょっと残念ですけど…」

諦めたように弓と矢を返す。



「では、夕飯時にまた」

笑顔で礼をするとマイグリンと共に執務室へと戻る。



盛大にため息を付く双璧。


…剣の腕は確かなんですけど…」

「弓に関しては諦めたほうがいいと言われているくらいで…」


双子がいまさらながら言う。

「「それを早く言ってくれ…」」









   *****************************************





執務室へ戻る途中の廊下。

そのひとは突然現れた。



「あら、マイグリン。
 これからお仕事?」

金色の長い髪を揺らし、すっと伸びた背。

何より、ドレスなのにスリットから覗かれた脚が見事で。


「い、イドリル姫っ」


マイグリンの背筋が急に伸びた気がした。


「イドリル姫…?と、いうことは…」



は瞬時に目の前の姫を見て気づいた。


どこか父、エルロンドの面影がある気がする。

彼女こそルーシエンと同じくエルフの身でありながら有限の命をもつ人間と結ばれた
上級王トゥアゴンの一人娘。



イドリル=ケレブリンダル。



の曾祖母にあたる。



しかし、この時点でイドリルは子供がいるどころか、
トゥオルと出会ってもいない。


っ、何をしているんです!
 姫の御前ですよ!」

あまりの驚きに呆然としているにマイグリンが注意をする。


「いいのよ、気にしないで」

にっこりと微笑むイドリルにマイグリンは頬を赤らめ俯いてしまう。


だが、イドリルは気にせずその隣にいたを見つめる。

「あなたが父上が仰っていた娘ですね」


「え?はぁ…」


トゥアゴンが自分のことを何と言っていたかなんて想像が出来ないため曖昧な返事しか出来ない。



しかし、そんなこと気にもならないのかイドリルはに近づき
その顔をじーっと見つめる。


「あ、あの…イドリル様?」

「確かに…わたくしと似ているかもしれませんわね」


「え?」



ゴンドリンに来てすでに何人かのエルフに言われたこの言葉。

いざ噂の人物の前で本人に言われても、はそうは思えなかった。



実際イドリルは本当に美しい。

裂け谷にいるグロールフィンデルからはゴンドリン1の美女だと聞かされていた。


たしかに、それは頷けるし流れるように波打つ金色の髪は
ラウレリンのそれを連想させる。

だが、にその金色の髪は持たないし、皆が息を呑むような美しい容姿も持たない。


ましてや銀脚とまで言われるほどの美脚でもない…。



一体どこが似ているというのだろう、ものすごく疑問が残る。





「マイグリン」

「は、はいっ!」


イドリルに声を掛けられて嬉しい、というオーラを全身で表すマイグリン。




をちょっと借りますわ」

「………え?」


マイグリンも驚くが一番驚いたのは当の


「あ、あの…姫?一体何を…」

「ただお話がしたいだけよ」


「お話って…」



の複雑な心境も気にしないのかイドリルは彼女の手を引き自室のある
方へ向かおうとする、がそれを言葉で止めたのはマイグリン。


「姫、お待ちくださいっ」

それはいけない、と目で訴える。


すでに多少なりともゴンドリンに溶け込み、笑いさえ起こせるだが。

彼女は素性もいっさい明かさない。


ゴンドリンでは重罪にあたいする侵入者なのだ。


たとえ子供といえど疑いが掛かっている以上、
国の姫と二人きりになんて出来ない。


しかし、イドリルはそれを分かっているのかいないのか。


「大丈夫よ、父には私から言っておきますから」


そう言うと再び足を進めてさっさとこの場から離れてしまった。



呆然としてそのあと困り果てるマイグリン。

また、イドリルに手を引かれながら自分の今の状況を理解しかねる



トゥアゴンといいイドリルといい、この家の血筋はマイペースが多いのか…。

(実際にはトゥアゴンの叔父に当たるフィンロドやその娘息子達のほうが
 その血は濃いが)



生まれてこのかたいきなり声を掛けられ強引に連れて行かれたことなど無いため
自身何の抵抗も出来ずにその身を任せていた。



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2005/04/03


きたぁ!
イドリルです!!銀足姫です!!
彼女の銀足という名前、何故付いたかは謎ですが、私的にはものすごい美脚だから付いたかと…。
この時点ではマイグリンは片想いに苦しむ乙女…(ぇ

基本的にシルマリルに出てくる女性陣はものすごい男前が多いと思います。


そして、ようやく使えたヒロイン弓が下手という設定…。
まぁこれから先何に生かされるか…まったく分かりませんが。
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