「…ごめんなさい…。」


診察室の中に入ると布団を顔の半分くらいまで被った
何に対しての謝罪か分からない言葉を繋いでいた。

だが、その顔は先ほどよりも赤くなり、呼吸も少し早い。



「でも、エルフがなぜ風邪など…。」



エレストールの当然なる疑問。

皆も同じことを考えていた。


それに応えるのは医学の大家でもあるエルロンド。




は私と同じく半エルフだ。
 大人になれば他のエルフたちと変わらなく病気にもかからないが、抵抗力の低い子供だ。
 本当に稀だが風邪をひくこともある。」



何を隠そうエルロンドも子供のころ、まだ双子の片割れエルロスと共に風邪をひいたことがあった。

その際には当時自分たちを育ててくれたマグロールは色々と戸惑っていた、という
エピソードもあったり。



「でも、僕らは風邪ひいたことないよね。」

と同じく半エルフの双子エルラダンとエルロヒアはお互いに顔を見合わせた。



「それは、やはり何とかは風邪をひかないという言葉がどこかの国にあるからだろう。」


あっさりと答えるエルロンド。

この際“夏風邪をひくのは何とか”という言葉はいろいろ揉め事の原因になるため伏せておこう。




「では、姫は2,3日安静にしていたら治るのですね?」

「ああ。後で私が薬を調合しよう。それを飲み、しっかりと栄養のある食事をする。
 あとはよく眠り、こまめに汗を拭いたら治るだろう。」



それを聞き皆安心する。


「だが、今夜はどうしても熱が高くなるだろう。
 辛いと思うが辛抱するのだぞ?」


ベッドに少し息苦しそうに横になる娘にエルロンドが頬を撫ぜながら優しく言葉をかける。





「さて、私は薬を調合しよう。
 誰か消化の良い食事を作ってやるように。」

そう言うとエルロンドは足早に薬草を保管している更に奥の部屋へと向かった。



「では、私は姫を姫の部屋まで運びましょう。」


エレストールがに毛布1枚を掛けて抱き上げる。

本日2度目のエレストールの腕の中で、熱で朦朧としつつもドキドキしてしまう。




「では、私たちは先に姫の部屋に行って準備してきますね。」

侍女たちが軽く会釈をするとすぐにの自室へと向かった。



「ああ、グロールフィンデルは料理長にたのんで
 消化の良い料理を作ってもらうよう頼んでおいてくださいね。」


残されたグロールフィンデルにそう言い残すとエレストールはを気遣いながら
侍女たちと同じ方向へと歩いて行った。



「ねぇねぇ、グロールフィンデル。」

「僕らいいこと思いついちゃった。」


丁度残されたグロールフィンデルとエルラダンとエルロヒア。


「いいこと?」


何事かと聞き返すと二人は昨日を湖にダイブさせようとしていたときの笑顔がそこにはあった。
















   *************************************












「ラダンと!!」


「ロヒアの!!」


「「3分(?)クッキング!!」」


その掛け声と共にどこからか軽快な音楽が流れてくる。

そしてちかくに素っ裸な天使の羽をつけた赤ちゃんの人形があるのは気のせいではないだろう。





さて、ここは裂け谷の最後の憩いの館の厨房。

ここからは毎日数々のすばらしい料理が作られている。


だが、今はエルラダンとエルロヒア。
そして…




「「本日の助手はグロールフィンデルです!!」」


なんだかすでに苦笑いを隠せない金華ハム…ではない金華公が一緒にいた。




「さて、本日のメニューは風邪のときに消化に良い料理をご紹介します。」


そう、彼らはのために料理をしようとしているのだ。

ちなみにシェフたちはさっさと追い出されてしまっていた。



「でも、消化にいい料理って具体的になんだろう?」

「グロールフィンデル分かる?」


このあまりに間抜けな展開にすでに諦めているグロールフィンデル。


「おかゆとかミルクスープじゃないですか?」

「なるほど…」

「じゃあ、メニューは決まったね!!」



「「本日のメニューはミルク粥です!!」」


予想外に普通のメニュー。

この双子が作るならもっと奇抜な物体が飛び出すかと思ったが…。


だが、やっぱり双子は双子で…


「まず、お米を水にしばらく漬けますが、今日はミルクおかゆなので牛乳に漬けておきます。」

「次にお米を煮ますがやっぱりミルク。」



沸騰し、臭味が出まくりの牛乳とお米の素晴らしき不協和音。

この時点で食欲を失うこと間違いなし。

ダイエットをしようとしている人にはお勧めだろう。



「あと、具も何か入れないと。」

「何か風邪に効く野菜とか知らない?」


それより先に本来のおかゆの作り方を調べて欲しいところだが、
グロールフィンデルも几帳面に野菜を答える。



「発汗作用や解熱作用があるのはねぎやたまねぎ。
 あともやしやかぼちゃやジャガイモも良いと聴きますが。」

一応組み合わせ的に問題がなさそうなものを選んでおくが、
どうせ沸騰牛乳withお米に投入されるのだ。

何を選んでも不味いだろう。



「じゃあとりあえず全部入れよう」

「そうだね。」


グロールフィンデルが上げた食材を全て細切れにして投入。


「そういえば風邪には生姜が良いって言うよね。」

「あと、梅も良いっていうよね。」

「あ、あとやっぱり蜂蜜もいいって言うし。」

「唐辛子だって。」



確かに単品では良いかもしれないがそれらを混ぜたところで効果が全て出るとは思えない。

それに全て混ぜたらそれは風邪を治すための料理ではなく、
新たなる病気になりそうな料理になる。


「「でっきあがり〜!!」」


爽やかな笑顔な笑顔の二人の手には世にも恐ろしいおかゆらしきもの。


色はピンク…のようないろだがところどころ焦げ付いたせいか恐ろしい色が見える。

匂いは辛いんだか甘いんだか良く分からないが、どちらにしても良い匂いではない。




「さって、グロールフィンデル。」

笑顔で振り向くエルラダン。

「な、何ですか?」

武人としての勘が警鐘を鳴らしている。

そして、その勘は現実のものとなる。



「味見してね」

ハート乱舞のエルロヒア。

頬が引き攣るグロールフィンデル。



「…な、何故私が…」

自分たちで食べたらいいだろう、と思うのは当たり前。


「だって、せっかく作ったんだし。」

「自分たちより他の人に食べてもらって感想聞きたいよね。」


“ね〜”と顔を見合わせて微笑む双子。

だが、グロールフィンデルにとってはそれは悪魔の微笑だ。



「さ、はやく。」

「熱いうちにどうぞ。」


どんどん近づいてくる食べ物、といいがたい物体。

グロールフィンデルは意を決してそれを口に運ぶことにした。



呼吸を止めてほんの少しだけ口に運ぶ。





もぐもぐ……がりっごりっ……ボリボリボリ…


おかゆのはずなのになんとすばらしい歯ごたえ。

そしてグロールフィンデルの顔色はどんどん土色になる。



(以下グロールフィンデルの心の声)


な、何なんだ…この物体は…

というかこれは食べ物なのか!?
入れたものは確かに食べ物だったはずなのに、出来上がったものが食べ物ではない…

これならサウロンどころかメルコールまで逃げ出すぞ…


あ…だんだん意識が遠くなってきた…


あそこにいるのはもしやエクセリオンか…?

ああ、すまない…エクセリオン…

私はこんなくだらないことが原因でマンドスの館に戻らなければならないようだ…

許してくれ……









「ちょっと〜グロールフィンデル?」

「生きてる〜?」


ペシペシとその金髪をたたく双子。

するとゆっくりと起き上がるグロールフィンデル。



「あ、起きた?」

「どう?感想は?」



またしても素晴らしい笑顔の双子。

だが、今度は二人がその表情で固まった。


ゆっくりと振り返ったグロールフィンデルは本当にエルフか問いただしたくなるくらい禍々しい。

これならバルログどころかメルコールだってシルマリルを投げ捨ててまで逃げ出すだろう。



「…グロール?」

「…ど、どう?味は…」


冷や汗をかきながら尋ねる双子。

だが、彼らはそれを後悔した。



「…それのお陰で昔の同僚に会えました……。
 お礼に剣の稽古をしてさしあげますよ…。」


そう言ってゆっくりと鞘から剣を取り出す。

輝いているはずなのに、彼の顔だけはどこまでも闇に覆われて見えない。



双子はあまりの恐怖に足が竦んでしまっていた。


「そんなもの姫に食べさせる気か!!この馬鹿双子!!!!」


もう主の子供とかそういうのは関係ない。

厨房は一瞬にして戦場と化した。





そして、その戦いは中々料理が運ばれてこないため痺れを切らした顧問長が厨房にやってきた際
1度の怒鳴り声一つで収まったらしい。



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2004/05/31


す、すみません…
夢ではなくてただのギャグですね…。

微妙にシルマリルネタもあるので意味が分からないかたごめんなさい…


ちなみに、双子の作った料理。
意外に美味しいんじゃないか?と思える毒苺は味音痴なんだろうな…。
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