食事も終え、薬を飲んだはすっかり落ち着き眠りに着いていた。



「さて、では遅れたが今日の公務を始めよう。」

の様子を見て安心したのか、エルロンドは自分の役目を思い出し腰を上げた。



「…そう、ですね。じゃあ…私も…。」

珍しく語尾がはっきりしないエレストール。


実は彼が一番心配していたのだろう。


後ろ髪を引かれる思いでの部屋を後にする。

(なお、グロールフィンデルは本当に後ろ髪を引っ張られてその場を後にした)







とりあえず、この場を任されたのは双子のエルラダンとエルロヒア。

彼らはもうすでに全快しているようだ。


だが、正反対に早い吐息で苦しそうな




、苦しいのかな…。」

「可愛そうに。できることなら変わってあげたいね。」


の髪を梳きながら同じ顔で心配する二人。


「ねぇ、ロヒア。僕いいこと思いついた。」

「なに?」


ヒソヒソと内緒話をする二人。

エルラダンの提案にエルロヒアもすぐに笑顔になり同意する。




さて、と一呼吸置くと少し汗ばむの額にキスを落とし部屋を後にする。


丁度水差しの水を替えるためにその場を通りかかった侍女に会い、
彼女に行き先を訪ねられたがあえて何も言わずに彼らは身軽に2階の手すりから飛び降りた。









数時間後、は喉の渇きを感じ重い瞼をゆっくりと開いた。


エルロンドの薬のお陰でゆっくりと眠ることが出来たが熱は下がった様子はなく、
まだ頭が朦朧とする。



「…喉……渇いたな…。」


そう呟いて、サイドテーブルにある水差しに手を伸ばそうとする。

と、いきなりしっかりと閉じられた部屋の窓をたたく音が当たりに響く。



それは風が揺らしている音ではなく、明らかに誰かが窓をたたく音。

ここは2階でしかも下まで軽く10メートル近くある。



今は太陽の光をさえぎるためカーテンに覆われているが、その外には明らかに誰かの人影が。


この裂け谷はグロールフィンデル率いる武官達が日々平和を守っている。

だから、賊なんて入り込む隙なんてない。



だが、ただでさえ風邪をひいて心身ともに弱っているのに、こんな状況。


恐怖を感じないわけがない。




意を決してカーテンを開いてみると…。



「「!!あけて!!」」


そこには埃にまみれて、髪には数枚の葉っぱを引っ掛けている双子の兄たち。



「お、お兄様たち!?ど、どうしたんですか!?」


「「理由はすぐ話すからひとまず中に入れて!!」」


あと少しで落ちそうな彼らは必死になって訴えた。











中に入り髪についた葉っぱを取り軽く身を整える。


「一体どうしたんですか?」

風邪のせいでみょうにゾクゾクする身体を大き目のローブで覆う。


「実は、これ採ってきてたんだ。」



エルラダンがごそごそと懐を探る。

中から出てきたのは40センチ四方の簡素な袋。


“あけてごらん”と二人の兄たちに促される。



少し不安そうなだが、兄たちの期待に膨らんだ瞳に気迫負けして
ゆっくりと袋をとじている紐を解いた。



「わぁっ!!」


袋を開けたと同時に広がる甘酸っぱい香りとの歓喜の声。


中には沢山のブルーベリーやラズベリー。

苺もある。


「どうしたんですか?これ…。」



こんな沢山の量。

まさか厨房からくすねて来たわけではないだろう。


「実は前にオーク狩りに行った時に偶然沢山生っているのを見つけたんだ。」

「僕らは父上みたいにに薬を作ってあげたりすることは出来ないから、
 の好きな木苺を採って来たら喜んでくれるかな、って。」



優しく微笑み、の両隣に座ると同時に頬にキスを落とす。


近くで見ると兄たちの頬や腕等に軽く引っかかった傷が見えた。

これだけの量の木の実を採って来たのだ。

安易に採れるわけがない。


きっと大小なり危険な場所から採って来たのだろう。



「ありがとうございます、エルラダンお兄様、エルロヒアお兄様。」


このときばかりは熱の辛さを忘れて、二人の兄たちの大きな温かい愛に包まれていた。





さて、この採れたての木苺を洗って食べよう、となったとき、
谷中によく通る声が響き渡った。



「双子!!また勝手に谷を抜け出しましたね!!!!」


それは武官長のグロールフィンデル。

その声に当の彼らは“ヤバい!!”という表情に変わった。



「ごめん!!!!」

「実は今まだ外出禁止令が解除されてないんだよね。」

「エレストールがグロールフィンデルに監視役をさせてたらしいんだけど。」

「それでもし、僕らが抜け出したらグロールフィンデルがエレストールに怒られるんだよね。」



あはは〜と笑う双子。

が、すぐにその表情は真面目になる。


「じゃ、僕らはすぐ隠れるから!!」

はゆっくり休んでね。」

「「治ったら、これが生ってるところに連れて行ってあげるね!!」」


同じ顔でにっこりと笑いぎゅ〜っと抱きしめると、入ってきた窓に足を掛け身を乗り出す。


まるで風に乗るかのように身軽にそこから飛び降りた。


は驚いて窓から下を覗き込むと、兄たちは簡単に着地しもう遠くまで逃げていた。



「ありがとうございます…。大好きです…お兄様たち。」


小さく微笑むと袋の中のラズベリーを一粒つまみそれを口に運んだ。


甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり、幸せな気持ちになる。








遠くでグロールフィンデルとエレストールの怒鳴り声を聞いたような気がしたが、
それに少し声を上げて笑うとは侍女に声を掛け再び寝台に戻った。



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2004/06/09


はい、平たく言うとおまけ的エピソードです。

今まで双子の扱いが余りにひどくて、これはいかん!!と思ったので急遽入れてみました。
(いや、双子より先にグロールフィンデルを入れるべきだったな…)

そうそう、今日はとうとう指輪物語の原作をやっと読破しましたw
半年掛かった…。
仕事の休憩と通勤時と入浴時に読んでたので時間が掛かった…
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