エレストールの顧問長室、別名『双子専用反省室』では双子の王子達が
項垂れながら何十枚にも及ぶ反省文を書かされていた。


また、その場に居合わせたエルロンド、エレストール、グロールフィンデル、
そしてもその一室にいる。



「まったく…あなた達はご自分の妹君を泣かせてそんなに楽しいんですか!?」



「別に泣かせてるつもりはないよ。ねぇ?エルラダン。」

「そうだよ。僕らは僕らなりにを可愛がってるだけだよ。ねぇ?エルロヒア。」



このやり取りにエルロンドは頭痛を覚え自然と眉間に手をやってしまう。




「それにしても…たしかに2人が悪いですが、姫も小さなことですぐ泣きすぎですよ。」


急に話題の矛先を向けられても驚く。



「だ、だって〜…お兄様たちが〜…」


「確かにこの2人は悪いですが、姫はすぐ泣いて解決しようとなさるでしょう。」




エレストールの言葉に“そういえば…”とエルロンドはとある日の夕食の風景を思い出した。




その日はの嫌いな野菜が出されていた。

もちろん体に良い物だからこその野菜。


医学の大家であるここでは食事のメニューにまで細かく指定がはいる。



だが、体に良いからといって必ずしも味も良いとは限らない。

すこし味に癖のあるその野菜は見事にそれに当てはまっていた。



はこっそりそれを皿の端に寄せてそのまま食事を終了させようとしていた。


だが、それはエルロンドによって即座に注意される。




。きちんと食べなさい。」


ギクッと表情を強張らせるがすぐに作り笑いで対応する。



「だって…嫌いなんですもの…。」


「食べなさい。」



“嫌い”という理由だけでは残すのを許可するわけにはいかない。


“う〜っ”と小さく唸って見るもののエルロンドは意見を変えるつもりはまったくない模様。


「食べなさい。」

さっきより強めに言うと、今度はの大きな瞳に涙が浮かんでいた。


!?」

「だってぇ〜嫌いなんです〜〜!!」


とうとう泣き出してしまった。


こうなるとエルロンドでは手を付けられない。




この後は安易に想像がつく。

その残された野菜はエレストールに見つかり小言を言われる前に、
エルロンドの胃の中に消えていった。









「そんなことがあったんですか!?」



エルロンドの回想はエレストールの怒鳴り声で終了する。


「どうりで最近姫が嫌いなものを残さず綺麗に食べていると思っていましたが…。」



黙っていれば女性顔負けの美しい目線を吊り上げて、親馬鹿もとい自分の主を睨み付けた。

その視線にさすがの館の主も萎縮してしまう。




「そういえば私も……」


“ふむ…”と顎に手を当てて今度はグロールフィンデルが回想にふけ始める。






それはとある日の剣術の稽古中。

いくら女性、ましてや姫と言えど自分の身くらい自分で守れないと
この先永遠の時を平穏には生きていけない。




はグロールフィンデル相手に必死になって剣を振るう。

しかし、相手はバルログバスターと言われる屈強エルフ。


がいくら本気で剣を振るっても彼に傷ひとつ付けられる訳無い。


グロールフィンデルはの剣筋を受けつつ、
指導に余念が無い。




「姫、右がガラ空きです。」

「体重を左足に預けて踏み込んでください。」

「剣をしっかり持って。」

「そんな剣さばきでは敵に首を採られてしまいますよ。」


一振り振るうたびに注意が増えていく。


体力が減って、剣を振るいっぱなしで手も痛い。





その時、グロールフィンデルが剣を受け止めたとき、つい剣をさばく力の加減を間違えてしまい
の小さな体は簡単に後ろに倒れ尻餅をついてしまった。


「ひ、姫!!申し訳ありません!!大丈夫ですか?」

慌てて跪いての表情を伺うと、案の定瞳には涙が溢れている。



「ふぇぇ〜〜…痛いよ〜…」




“ヤバい”と背中に冷や汗を感じるグロールフィンデル。

が泣き出すとなかなか止まらないことを彼は知っていた。



ここで手を差し伸べて慰めてやりたいところだが、
もしそれを行うとはこの先永遠に転んでも自分で立ち上がることが出来なくなる。


グロールフィンデルは心を鬼にして言い放つ。



「姫、剣の訓練なんですから怪我も痛いのもあたりまえですよ。
 さぁ、稽古を再開しましょう。」


立ち上がって背を向ける。

罪悪感で胸が痛むがこればかりはいたしかたあるまい。



が自力で立ち上がって剣を握り締めてくれるのを期待していたが…








「わぁぁぁぁんっ!!!痛いよ〜〜!!!痛いよ〜〜!!!」



とうとう本格的に泣き出した。


本当に英雄なのかと疑いたくなるような見っとも無い姿で慌てふためくグロールフィンデル。


あたりを見回すと、他のエルフたちが
『まぁ、グロールフィンデル様が様を泣かせていますわ。』
『姫はまだ子供なんだからあんな泣くまで剣の稽古をさせなくても…』
姫可愛そうに…あんなに泣いて…』


と、ひそひそと噂している声が聞こえてくる。



居た堪れなくなったグロールフィンデルはこのまま稽古を中断せざる終えなくなった。


結局泣き喚くを抱き上げて館まで戻っていったという。











「似たような手で何度も姫の剣の稽古が中断していたな…。」


思い出してもその時の居た堪れない気持ちがふつふつと蘇って来る。


「…馬鹿ですか…。貴方は…」


もう怒鳴るのも疲れたのかエレストールは深くため息をついた。




そして視線はに向けられる。


はすでに瞳に涙を浮かべている。

エルロンドとグロールフィンデルはそれだけで不思議と罪悪感に苛まれるが、
双璧の内の一人、氷の顧問長エレストールはそれだけでは引き下がらない。



「姫。すべてを泣いて解決していてはだめな大人になります。
 改めなさい。」


「だって…だって…」


案の定泣き始める

そこでエレストールの氷の一言。




「今から姫が泣いたら罰として懲罰室で10年間反省文、ロリアンへ行く予定もすべて白紙、
 歴史書の暗記、もちろん外へは出しません。
 確か先日森のリスと友達になったと仰っていましたが、もちろん会うことも許しません。
 他にも沢山の罰が待っていますよ。」


ここまで来るともはや拷問である。


「エレストール…さすがにやりすぎじゃないか?」


裂け谷兄妹の兄貴的存在グロールフィンデルは同僚の無茶な約束事に抗議をするが。


「ここまでしなければならないくらい姫を甘やかしたのは貴方たちでしょう!!」



そう言ってグロールフィンデルとエルロンドを怒鳴りつける。

きっと彼がこの裂け谷で最強(恐)の存在だろう。



さすがの2人もこのバルログを超えるであろう威圧感にぐぅの音も出ない。








「いいですか!!姫!!今言った約束絶対守ってもらいますからね!!!」






こうなってしまうとさすがのの涙引っ込んで、おとなしく首を縦に振るしかなかった。











   ****************************************















夜、就寝前にはエレストールに強制的に結ばされた約束を思い浮かべる。


「絶対無理だよ〜…。涙だって勝手に出てくるのに〜…。」



昼間の出来事を思い浮かべるだけで涙が溢れてくる。

でも、すぐエレストールの顔が頭に浮かび涙を堪える。






すると、綺麗に装飾が施されたドアから数回ノック音が聞こえた。


“どうぞ”と進入の了解をすると、そのから現れたのはよれよれになった双子の兄たち。



「「し、死ぬかと思った〜…」」


やはり双子みごとなハモりである。


「今やっと反省文が終わったんだよ…。」

「エレストールに後ろから監視されて何時間も…。」

「「肉体的にも精神的にも疲れた〜…」」


そう言っての整えられたベッドにダイブ。




「お兄様たちが悪いんですよ〜。全く…。」


も一緒にベッドに登り2人の兄の顔を覗き込む。



「でもさ〜、僕らはもう罰は終わったからいいけど、大丈夫?」

「そうそう、エレストールとすごい約束しちゃたよね。」


仰向けのまま、上から覗き込んでいるの落ちてくる髪を
指先で遊びながら昼間の顧問長室での出来事を思い出していた。




「ん〜…でも…いくらエレストールでもこんな無茶な約束口だけですよ。」



のお気楽な発言に双子達は一気に本気な表情になると起き上がる。


お互いそれぞれの左右に移動して肩を寄せ合い
内緒話をするかのようにトーンを抑えて話し始めた。


、エレストールを侮っちゃいけないよ。」

「彼は言ったことは絶対に実行するからね。」


夏の夜に怪談話をするかのような表情と声の双子。

さすがにも少し動揺が走る。


「で、でも…まさか…。」


「いいかい。先日僕ら大変な目にあったんだよ。」

「2年前くらいのことなんだけど、久々にロスロリアンに行った時、
 僕らエレストールに事前に釘を刺されていたんだ。」



『『もしロスロリアンで騒ぎを起こしたら裂け谷の周り200周走ってもらいますからね!!』』



双子のエレストールの物真似。

微妙に似ているから笑えない。



「で、どうなったんですか?」


冷や汗を流しながら答えを求めるが、兄たちはワンテンポ遅れて口を開いた。



「僕らだってそんなことありえないって思ったよ。」

「200周なんてエルフでも走りきれる訳ないしね。」

「僕らを大人しくさせる為の嘘だと思ったよ。」

「で、案の定ロリアンで悪戯をしたんだけど…。」



どんな悪戯をしたか恐ろしくて聞けない。



「そ、それで…どうなったんですか?」


二人は顔を見合わせると目尻に涙を浮かべて小さく呟いた。




「「本当に実行されたんだよ…。一瞬マンドスの館が見えた気がした…。」」


ちなみに2人が逃げ出さないために監視役として
何の関係も無いグロールフィンデルも一緒に走ったという事実は伏せておこう。




「「とにかく!!エレストールは絶対に言ったことは実行するからね!!
  …気をつけてね。」」





2人の兄の忠告には絶望を感じるしかなかった。






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2004/03/04


はい、相変わらず夢らしくないですね…。
でもこの調子でほのぼの(?)な感じで続ける予定です。

グロフィン不幸ですね…。
弱いな…バルログバスターも…(遠い目)


次もお付き合いくださると嬉しいです。


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