無茶とも思える約束を交わした次の日、は書庫でエレストールから歴史を学んでいた。




「…姫…予習復習していませんね…。」

「………。」


冷ややかなエレストールの声に色々考えていた言い訳はすべてどこかに吹っ飛ぶ。


「私は一昨日言いましたよね?しっかり予習復習するようにと。
 お忘れですか?」


「いいえ…。」



も判ってはいるが、こうも判りにくい歴史の勉強。

エレストールから教えてもらってもいっぱいいっぱいなのに、
さらに自室で一人ででは捗るとは思えない。



エレストールは呆れ気味にため息をついた。



「判りました、歴史は次の時へ廻しましょう。文学の予習と復習は出来てますよね?」


「………。」




沈黙で返事をすると言うことは、それがエレストールの期待に添えていないという証拠。




「貴方は一体何をしていたのですか!?」



机をバンッと叩き怒鳴るエレストール。

は大きく肩を震わせ生理的に涙があふれる。



「姫…泣いたらどうなるか判っていますね?」


冷たく睨み付けるエレストールには昨日の約束と双子の警告を思い出し、必死に涙をこらえる。




実際には言われたことを怠けていたが悪い。

頭では判っていても心では納得できない。





この重苦しい空気から逃げ出そうと椅子から立ち上がろうとした時、
書庫の扉が開かれ眩しいくらいの金髪が顔を覗かせた。



「エレストール、やっぱりここか。」

「グロールフィンデル、何ですか。今は姫の勉強中です。
 大した用ではないのなら出て行ってください。」



勉強中というより説教中という言葉の方が正しいだろう。



「大した用だよ。卿がエレストールをお呼びだ。
 至急来て欲しいらしい。」


「何ですか?急ぎの仕事は昨夜のうちに済ませたでしょう。」


「それとは別に急を要するトラブルが発生したらしい。
 早く行った方がいい。卿も困っているし。」



迷ったような表情をするエレストールだが優先順位を考えると答えは簡単ということで、
椅子に掛けておいた顧問長の証でもある白い長衣を羽織るとの方へ向き直る。



「姫、申し訳ありませんが私は仕事へ向かいます。
 今日行うはずだった勉強はあすの午後にします。今度は予習復習を行うように。」




しっかり釘をさすと急ぎ足で書庫を出て行った。





その後姿を見ていたは、
彼の姿が見えなくなったと同時に大きくため息をついて机に突っ伏す。


「はぁ〜…緊張した〜…。」

「どうかしたんですか?」


さっきまでエレストールが座っていた椅子に
グロールフィンデルが座るのを横目で見ると1冊のノートを開いて見せた。


「…真っ白ですね……。」


だいたい先が読めたグロールフィンデル。



「だって、エレストールとの勉強の後にさらに予習復習なんて出来ないわよ。」



普段から他人にも自分にも厳しいエレストールとのマンツーマンの勉強。

双子もくらいの時は毎日ボロボロになってベッドに横になっていた。



「で、でもこれは姫の将来のためのことですよ。」

とりあえず同僚のフォローは忘れないグロールフィンデル。


「あたしのためならもっと優しく教えてくれたっていいじゃない!!」




熱弁する

それに小声でツッコムのはグロールフィンデル。




「姫…エレストールだって姫が真面目に勉強したら優しくなると思いますよ。」







確かにこれは正しい意見だろう。

しかし、の反撃はバルログの一撃並みの威力があった。



「グロールフィンデルだってちゃんと仕事を期間内にしっかりこなしたら
 エレストールだって優しく対応するわよ。」




確かに事実なのでグロールフィンデルは何も言えなくなった。



「ひ、姫…。気分転換にアスファロス遠乗りでもしましょうか?」

実際にはの気分転換というよりグロールフィンデルの気分転換のような気がするが。





「うん!!行く!!」



さっきまで沈んでいた表情だったが今度は太陽の光をいっぱいに集めたような笑顔になる。



準備のために自室に向かうを見送るとテラスから指笛でアスファロスを呼んだ。

















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アスファロスに乗って向かった先は色とりどりの花が咲き乱れる草原。


先日グロールフィンデルが見回りの最中に見つけたらしい。





「綺麗!!」



グロールフィンデルに馬から下ろしてもらうと一目散に花の下へ走る。

白いドレスが汚れるのも気にせず地面に膝をつけ一つ一つの花を愛でる。



「姫、走り回って転ばないように気をつけてくださいね。」

「分かってるって!」


はしゃぐを目を細めて見守る。




「じゃあ花を摘んで卿にプレゼントしましょう。」


「だめよ!!」


喜んでこの提案に乗るかと思いきや即効で否定する。



「花だって生きてるのよ。身勝手で摘んだりなんかしたら可愛そうよ。」


小さな命にも優しく気遣いが出来る。

すぐ泣くし、我侭だし、でも優しい裂け谷の姫。


だからこそ皆、彼女を愛するのだろう。





グロールフィンデルはの銀髪を優しく撫でると、
心の中で改めて彼女とこの谷を守ろうと忠誠を誓った。






















   ***************************************









楽しい時間はすぐに過ぎるもので、二人が館に帰ってきたのは太陽が西に傾いたころだった。




「あ〜楽しかった。ありがとうグロールフィンデル。アスファロスもね。」


礼の代わりにキスをするために一人と一匹に屈んでもらう。






すると館から侍女が湯浴みの準備が出来たと呼びに来たので、彼らに別れを告げ浴室へ向かった。









「あ〜楽しかった。」


湯浴みも終え、仕事のためか父が不在の夕食だったが双子と楽しく食事をし本日は終了。


綺麗にベッドメイキングされたベッドに飛び込むと
窓から差し込む月明かりに包まれる。



居心地の良い空間に、眠りを必要としないエルフといえど睡魔が襲ってくる。


記憶の片隅で何かを忘れているような気がしたが気にせず気の向くままに意識を手放した。




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2004/03/06


グロフィン夢?
いや、違うはず…。

ギャグ要素がなくてちょっと不完全燃焼…。


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