時刻はすでに真夜中、あと少しで日付が変わろうとしている時間帯。


裂け谷の武官達は月明かりを頼りにエルフの優れた視覚と聴覚で主の姫を探している。






オークたちに勘付かれてはいけないため大きな声で呼びかけることも出来ない。


「見つかりましたか!?」


「いや、こっちにはいない。」




裂け谷の双璧も馬に跨ったまま報告しあうと再び別れ姿を消したを探す。



「王子達!!姫が行きそうなところは知りませんか!?」


「分からないよ。はロリアンに行くとき以外外に出たことないし…。」

「ロリアンに行く時だって一人じゃないし、
 まさかこんな危険なところをに歩かせるわけ無いよ。」




実の兄ですらの居場所は見当もつかない。




エレストールは小さく舌打ちをすると再び馬を走らせた。




















一方、皆に探されている姫、はというと、
エルロンド達の予想通り結界の外にいた。



正しくは、書庫から飛び出した後闇雲に走り回り、気がつくと結界の外。

挙句に帰り道も分からないまま日は傾き空に星が輝きだしてしまった。




「ど、どうしよう…。」


一人で外には出たこと無いは不安で仕方なかった。





そして、走り回って落ち着くとやっと冷静になり、
自分があまりに酷い事を言ってしまったと自己嫌悪に陥っていた。




だってエレストールがのことを嫌いだから
あんな厳しいことを言うなんて微塵にも思っていない。


むしろ逆だ。




エレストールはいつも忙しい仕事の合間を縫ってに勉強を教えている。


時間が作れそうにない時は前日の夜に次の日の分の仕事まで片付け
夜はいつまでもランプがついていることだってある。


そして、書庫にある膨大な量の書物から
にとって分かりやすそうな物を探し出しているところも幾度と無く目撃していた。





それにもかかわらずあんな酷い事を言ってしまって…。





その小さな胸がきつく締め付けられる。







しかし、いつまでも落ち込んでいても仕方が無い。


自分に非があり、相手を傷つけてしまったらきちんと謝る。

これは人間であろうがエルフだろうが一緒のこと。


とにかく今は急いで館に戻り、エレストールに謝ろう。


そう思いどうにか館までの道の手がかりを探そうとしていたとき。









辺りから不穏な足音が響く。


エルフではない、またここに住む動物達でもない。

明らかに不穏な足音。



それと同時に何とも言えない異臭と粘膜が弾けるような音。







の位置からその音の大きさを考えその間の距離は大体100メートル近く離れているだろう。


気配を消しながら走って逃げたらきっと撒ける。

そう判断し、踵を返そうとしたが逃げようと思った方向からも不穏な気配を感じた。






それから良く感覚を研ぎ澄ますとあたりを囲まれていることを悟る。






「ぁ……あぁ…っ……」

声にならない声を挙げながらは恐怖で木の根元に体を強制的に預けてしまう。









ガサッ








不意に付近の草が擦れる音がする。



そこにいたのは、この世のモノとは思えないような恐ろしい形相の生き物達。

鼻が曲がりそうな異臭を放ち、禍々しい形をした剣には粘着質な液体が塗られている。

声は耳を塞ぎたくなる様な恐ろしく耳障りで。










“オークだ!!”






は心の中でそう叫んだ時にはの周囲には20人ほどのオークたちがいた。



助けを呼びたいが恐怖で声が出ない。

体が震えて力が入らない。



いつも笑顔なエルラダンやエルロヒア、グロールフィンデルたちは
本当にこの恐ろしい生き物達を相手に戦っているのか、
心のどこかで彼らの顔が浮かんだ。






オークたちは子供のエルフが珍しいのか、彼ら独自の言葉を使い相談していた。


言葉自体は通じなくても大体の雰囲気で何と言っているのか分かる。




結局は『殺す』か『食べる』か。



そしては理解していなかったが『拷問に掛けてオークにするか』





どれにしてもにとって無事に館に戻れる選択肢はなかった。






オークたちはどうするか決まったようで、
剣を抜くと緑色の粘液を垂らしながらに近づいてきた。





は恐怖に震え木の幹に背を付けている。


頭の中には最愛の父、今はロリアンにいる祖父母や優しい母、憧れの姉アルウェン、

意地悪なことをするが本当は優しくいつも楽しませてくれるエルラダンとエルロヒア、

バルログバスターという異名を持つが物腰が柔らかい優しい剣の師グロールフィンデル





そして、
今もっとも会いたくて、謝罪をしたいエルフ



不器用な性格なため誤解されやすいが本当は誰よりも優しいエレストール。






大切な人物達の顔を思い浮かべると自分に振り上げられた剣をその瞳に映し、
反射的に目をきつく閉じた。


















ザシュッ

















確かに肉が刃物によって切りつけられた音が聞こえた。



だが、自身にはまったく苦痛は感じない。


その不快な音の次に耳を切り裂くようなとてつもない叫び声。




その声に肩を震わせさらにキツク瞳を閉じる。





それでも今自分の置かれた状況を確かめたい、そう思うと自然とゆっくり瞼を開く。



その目には先ほどの生き物が己の首をなくし佇んでいた。







「きゃぁぁぁぁぁっ!!!!」






その地獄絵図とも言える光景にとうとう悲鳴を上げた。



「姫!!大丈夫ですか!!?」


ガクガクと震えているとその首のないオークの後ろから馬の蹄の音と
オークたちとは比べ物にならないくらい澄んだよく透る声が聞こえる。




「あ…あぁ…え、エレストール…?」


その人物の姿は月明かりの逆行で良くは見えないが、馬で首の無いオークをどこかへ蹴り飛ばすと
軽やかな身のこなしで馬から下りた。



その仕草、間違いなく黒髪の宮廷顧問長だろう。





「姫!!大丈夫ですか?お怪我は…」


の前に跪くと両肩を軽く揺らし声を掛ける。

その声には普段から想像が出来ないくらいの焦りを感じていた。



「あ…だ、大丈夫……」


どうにかして無事を言葉にすると一瞬安堵の笑みを浮かべるが、すぐ厳しい表情になる。




周りのオークたちが自分達の同族を殺されたと知り大きく雄たけびを上げたのだ。







「姫!!失礼します!!」


エレストールのその台詞の意味が分からず問いかけようとすると体が急に浮遊感に襲われる。


それは彼がを片腕で抱き上げ軽やかに馬の上に乗ったからだと少し遅れて理解できた。






「姫、これから私はここにいるオークたちを殺します。
 そんな光景貴女に見ていただきたくはありません。
 どうか、その瞳を閉じていてください」



エレストールは先ほどのオークを切りつけたであろう細身のレイピアを振るい彼らを威嚇していた。



は小さく震えるとその目を閉じエレストールの腕と胸にその身を預けた。




エレストールもそのことを確認すると、殺気の篭った瞳でオークたちを睨み付ける。

その姿はグロールフィンデルのそれに勝るとも劣らない。




オークたちは剣を構え一斉に突然現れたエルフに掛かっていく。

エレストールも普段いつもデスクワーク中心の顧問長とは思えないくらいの
剣さばき。


襲い掛かってくるオークの急所のみを狙い無駄のない身のこなしで確実に仕留めていく。




の近くで感じるオークたちの異臭や血の匂い、そして鼓膜を刺激する叫び声。

守ってくれているエレストールの体温を感じながら彼の服にしっかりとしがみ付いた。










一通りのオークの息の根を留めると剣を一振りして剣についた血を払い落とす。


そして新たなオークがここに来る前に馬を走らせその惨劇の場を離れた。




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2004/03/08



あれ?終わらせるつもりだったのに終わってない…。

オークの描写が多すぎた…。
すみません(口ばっかりだな)

さて、だんだんエレストール夢っぽくなってきたかな?
エリーが王子のごとくの登場。


本当は短剣の二刀流にしようかと思ったんですが、
馬の上からじゃあ戦えないな〜と思って急遽レイピア。


次こそ終わらせます…。
きっと…
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