◆◇◆FIRST LOVE-fourth Story-◆◇◆














キィンッ!!











裂け谷にある最後の憩いの館の中庭に木魂する鋭い金属音。




それはとグロールフィンデルの剣の稽古のもので。


「もっとしっかり剣を持って!!」

「相手の動きを先に読むように!!」

「切り返しが遅い!!」



の剣の師をしている武官長の指導にも熱が篭もる。







今日の課題は相手に間合いにいかにすばやく踏み込むか。


のように小柄な身体では
それがいかに重要になるかグロールフィンデルは今までの経験で実感していた。


「姫、そんな攻撃では敵に首を取られますよ。」




師の挑発には少しムッとすると、渾身の力を込めてグロールフィンデルの
広い間合いに踏み込む。


すぐに彼の鋭い剣が向かってくるが、それをすばやく身体を捻りかわすと同時に
その流れのままグロールフィンデルに切りかかる。




“勝てる!!”がそう確信すると同時に今までで一番大きな金属音が木魂した。



それはの剣とそれを受け止めたグロールフィンデルの剣の鞘がぶつかる音だった。






「残念でしたね。姫。」



乱れた金髪から覗く顔には不適な笑みがあった。



「ずるいわよ!!鞘を使うなんて!!」

「ずるくなんてありませんよ。戦場では鞘も立派な武器です。」



剣をその鞘に収めながらにっこりと微笑む。


「しかし、姫は随分腕があがりましたね。」

「でも…あたしは力が無いから…ね。どうしても接近戦では分が悪いわ。」

「だから素早さを磨くんです。姫はとても身軽ですからね。
 速さと技を磨いたらどんな強硬な相手にだって勝てますよ。」

「グロールにも?」




も鞘に剣を収めながらにやりと笑う。


言われたグロールフィンデルは少し驚いて目を見開くが、すぐにくすりと笑う。

「さぁ、それはどうでしょうね。」


“絶対いつか勝つんだから!!”と冗談のような本気のような返事をする。




「「、随分腕があがったね。」」




いきなり後ろから同じ二重の声が掛けられる。




「エルラダンお兄様!!エルロヒアお兄様!!いつお帰りになられたんですか!?」



「今さっきだよ。」

「ただいま、僕らの。」


約1ヶ月ほど前から二人は趣味とでもいうべき、オーク狩りに出かけていた。

「おかえりなさい。」


可愛い妹の目線に合わせるようにして屈むと、
はそれに応えるように大きく背伸びをして久々のキスをする。



二人からオークの血の匂いがしないところをみると
エルロンドに帰還の知らせをし、湯浴みも済ませたのだろう。


「でも本当に腕上げたよね。」

「うん。僕らがくらいの時はもっと下手だったし。」



「それはお二人がいつも剣の稽古をサボっていたからでしょう。」


の剣の師でもあるグロールフィンデルは双子の剣の師でもあった。



「だってグロールは厳しかったんだよ。」

「そうそう、身で覚えたほうが早いって言っていきなり、ってことも多かったし。」

「それに絶対最後まで休憩ないしね。」

「休んだら覚えていたことを忘れてしまいます、って言って倒れるまで訓練させられたし。」

「僕らいつも泣いて父上のところに逃げてたけど…」

「そんな僕らを引っ張ってグロールは連れて行ったしね…」




当時の大変な剣の稽古の出来事を思い出して青ざめる二人。


「「絶対グロールフィンデルはに優しいよね!!」」



二人の力説には首を傾げるばかり。


確かに普段のグロールフィンデルからは想像ができないくらい厳しいことを言うが
二人が言うほどきつい事はない。


適度に休憩だって入れるし、剣を交える前にポイントだって教えてくれる。


第一にの身体に大きな傷がつかないように気遣ってくれている。



「では、実戦の方が身につくと仰るなら、試してみましょうか?」





そこにはバルログバスターの名に相応しい武官長の綺麗過ぎる笑顔。


綺麗なだけに恐ろしい。


「「け、結構です…」」




青ざめて冷や汗を流す双子。

そんな光景には声をあげて笑った。







「ああ、ここにいたんですか。」


いきなり聞こえてきたよく通る綺麗な声。


「エレストール!!」



剣の稽古で乱れた髪を手櫛で整える


「姫の剣の稽古は終わりましたか?」

「ああ、今日は随分がんばったようだし、もういいだろう。」



せっかく整えた髪をグロールフィンデルがワシャワシャと頭を撫ぜたため
また乱れてしまった。


「ではお茶にしましょうか。王子たちも無事に帰ってきたことですし。
 侍女たちが木苺を使って焼き菓子を作ったそうですよ。」


「わ〜い!!」



走ってエレストールと元に走り寄ると、早く行こうと手を引き急かす。



「貴方たちはどうしますか?」


貴方達とはグロールフィンデルと双子たちのこと。



侍女たちの焼き菓子は絶品だし、
エレストールの淹れる紅茶はとても良い香りで断るのは愚者のすること。


「ああ、いただこうかな。」

「「僕らも!!」」




3人がそういうと、エレストールの横にいたの表情が変わった。



「わ〜い!久々にみんなでお茶ができるわね。」


普通に見たら無邪気な可愛らしい笑顔。

だが、その笑顔からは別のメッセージが読み取れる。





“貴方たち、あたしの気持ち知ってるわよね〜?
 じゃあ邪魔だってことも分かるんじゃない?
 ここはおとなしく引き下がりなさいよ!!”







笑顔の裏に隠された氷より冷たいメッセージ。


エルラダン、エルロヒア、グロールフィンデルは背筋が凍りつく。



「……あ、やはり私は遠慮するよ…見回りの仕事があったのを忘れてた…」


「ぼ、僕らも…」

「疲れたから休むよ…」



変な汗を掻きながらせっかくのエレストールの申し出を断る。



「えぇ〜!!そんなぁ…残念だわ。」


落胆の表情のの裏からは“それでいいのよ…”と黒い笑顔が見えた。


「それでは仕方ありませんね。行きましょう、姫。」


微笑みかえるエレストールに応えるようにも笑顔になり
二人は館の中へ戻っていった。






「…最近姫って誰かに似てきたと思いませんか?」


「グロールフィンデル…偶然だね。僕もそう思ったよ。」

「なんだ、二人も?僕だって思ったよ…。」



そう呟くと3人は同じ人物を頭に思い浮かべていた。



ロリアンにいるの姉で夕星の異名をもつエルフ、アルウェン。



美しい種族と謳われるエルフの中でも秀でて美しいエルフ。

だが、その美しさと同時に笑顔で全てを決定してしまう恐ろしい一面もある。


やはり、あのガラドリエルの孫だからだろうか…。




3人は大きくため息をつくと先ほど宣言した通り、
グロールフィンデルは見回りへ、双子は自室へと向かった。











まさかこのとき、その噂の夕星がこの裂け谷に向かっているとはまだ誰も知りえなかった。




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2004/04/18


今回は夕星姫、アルウェンの登場です。
と、いっても今回の話まったくオチを考えていません。

どうなるかは夕星姫次第です。


…しかし、グロールと双子なんだかヘタレだな〜…(不満)
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