エレストールは足早に別館にあるの部屋へ向かっていた。


そこはこの裂け谷内でも美しい景色と指折りで数えられるような処で、
部屋の主若しくはエルロンドの許可が無い限り、エレストールやグロールフィンデルでも
近づくことは許されない場所。


つまり、必然的にこの部屋には家族との世話役の侍女しか此処には来なかった。




「あら、エレストール顧問長。珍しいですね。ここにいらっしゃるなんて。」


途中、花瓶に花を生けている侍女に話しかけられた。



「姫がこちらに来たでしょう?部屋にいますか?」


「え、ええ…」



エレストールの問いに侍女は少し言葉を濁す。


「実は…先ほど走って部屋に戻ってきたんですけど…どうやら泣いていらしたようで…。
 私達侍女も中には入れていただけないんです。」




遠きロリアンの地にいる母の変わりにの身の世話をしている侍女たちにすら
事情を話していないらしく、彼女らは淋しい思いなのだろう。





「分かりました。私が姫と話します。」


本来ならこんな人気の無い処で、血縁者でもない異性とを二人きりにするのは
暗黙の了解で行ってはいけないことになっている。



だが、侍女はの教師的存在でもあるエレストールを
信用して小さく会釈するとエルフらしく静かに横を通り過ぎて行った。






少しだけその侍女の淋しそうな後姿を見送ると再びの部屋へ向かって踵を返す。












丁寧な装飾が施されているの部屋のドアの前に立つ。


エルフの良く研ぎ澄まされた聴力に意識を向けると、中から小さな嗚咽が聞こえる。



「姫、お話があります。扉を開けては頂けませんか?」


エレストールが声を掛けるとピタリと嗚咽が止まった。


「な、何?」



ドアを開けずに話しの内容を問うその声は少し震えている。




「…先ほど王子達とのケンカの際、髪留めがどうとか仰られていましたが…
 もしかして、今朝私が差し上げた髪留めが何らかの関係があるのですか?」




返事が無い。

おそらく肯定なのだろうとエレストールは悟る。





「詳しく話していただけませんか?このままでは何の解決にもなりません。」



の返事は無い。


近くを流れる川のせせらぎだけが辺りを包んでいる。




少し眺めの沈黙の後、ゆっくりと扉が開き中から目を少し腫れさせているが姿を現した。




「……どうぞ…。」



ゆっくりとした動作でエレストールを中へ促す。


エレストールも普段のの様子とのギャップに驚いたが
それを表情に出さないようにして中へと進み入る。



周辺からは侍女たちも出払っていると踏んで、
後々エルロンドに何か言われることを避けるためにドアは開放したままにしておいた。




に勧められるままに椅子に座ると、
部屋の主もエレストールと向かい合うように正面に座る。






の部屋にはロリアンの家族から送られてくるガラスの置物や古い書物、
そしてアルウェンを真似してなのか少し背伸びをしていくつかの宝石のアクセサリーが並べている。


もちろん、エレストールとの勉強道具やグロールフィンデルとの稽古用の剣も置かれている。



滅多に入ることの無いの部屋に不思議な感覚を覚えているとが小さく話し出す。



「…お兄様たちは?」

「…今グロールフィンデルと一緒に自室に戻っていますよ。」

“そう…”と返事をするとまた沈黙が訪れた。



「姫、お話していただけますよね?」


沈黙を打ち破るために発した言葉はの肩を大きく震わせた。





「…だ、だって…お兄様たち…エレストールが折角くれた髪留めを地味って言って…
 池に投げ捨てたから…つい、カッとなって…。」


どんどん語尾が小さくなっていくと驚いたように目を見開いているエレストール。


「それで王子達の頬を打って池に入られたのですか?」


エレストールの瞳を見ないで深々と頷く。





何と声を掛けるべきか悩み長い髪を掻き揚げ少し考える。



「とりあえず姫は王子達に謝ってください。」


もきっと反省しているのだろう、ちゃんと深々と頷いた。



「姫、ちゃんと顔を上げてください。」


ずっと俯いたままのにかける言葉。

それは咎める様な冷たい言葉ではなく、優しく諭すような声色。




もゆっくりと頭を上げてうっすらと涙に濡れた瞳にエレストールを映す。




「姫、私が差し上げた髪留めをそんなに大切にしてくださっているのはとても嬉しいです。
 ありがとうございます。」


少し微笑んで礼を言うエレストールには頬をピンクに染め上げる。



「しかし、それのせいで貴方達兄妹がケンカをすることは私には耐えられません。
 ちゃんと仲直りしてください。」



「…うん…。あたしも、エレストールから髪留め貰って凄く嬉しかったの。
 でも、それをお兄様たちにあんなふうにされて悲しくて…。でも、お兄様たちを叩いた手が
 凄く痛かったの…。心も凄く…。」


小さな両手を胸に抱き悲しそうに瞳を閉じる。


エレストールは立ち上がり、の前に跪くとその両手をエレストールの両手が包み込んだ。



「それじゃあ、今すぐ謝りましょう。彼らも姫と同様頬以上に心が痛いでしょうから。」


の手よりずっと大きいエレストールの手に包まれて痛みが少しひいた気がした。

そして心に温かいものが流れ込んでくる。




「うん。分かったよ…。」


少し微笑んで首を傾げるに微笑むと立ち上がり部屋の外までエスコートする。




「あまり姫とここで二人きりでいると後々エルロンド卿に何と言われるか分かりませんしね。」


冗談のようで実は冗談ではない。


は苦笑いしか出来なかった。










そして、エレストールと共に双子達の自室へと向かう。









オマケ


双子達の部屋へ向かう最中の二人の心境



(…ちょっとまって!!
さっきのあたしの台詞から考えるとあたしがエレストールの事好きってバレちゃったんだじゃないの!?
ど、どうしよう!!恥ずかしい!!
で、でもエレストール何も言わないし…
気づかれてないのもちょっと悲しい…かも…。
やっぱり、あたしはそういう対象にはならないのかしら…)



エレストール(姫は何故私があげた髪留めをあんなに大切にしてたのでしょうか?
大した装飾も無いのに…。もしかして姫にとって好きなデザインだったとか?
双子じゃなくてもあれは地味だと感じるでしょうし。姫の気まぐれでしょうか?)




中途半端に噛み合ってなかったようだ。




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2004/03/28


…なんだか中途半端だな〜…。
あんまりエリー夢っぽくない…。

次は仲直り編。
上手くいけば次でこのsecond storyは終わるでしょう。

…上手くいけばですが…(汗

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