どんなに暗い夜だって何があっても朝が来る。


それはこの中つ国の中ではすべての場所で例外なくある。


もちろんこの闇の森もそうであるが、
ここは太陽が顔を出している間も薄暗く爽やかな朝、とはお世辞にも言いにくい。


だが、昨日降り続いていた雨はすっかり上がり、雨のしずくがキラキラ輝いている。




岩屋から少しだけ散歩をしようと出かけた
裂け谷とは違うこの景色に胸を躍らせた。


昨夜は夜伽、もとい夜通しの御伽噺のおかげで一睡もしていない。

また一晩中話をしていたせいか喉がカラカラ。



歩きながら小さく咳払いをする。




すると目の前にこんなに朝早くにも関わらず、ある人物が鳥達と会話をしていた。



「レゴラス王子?」


呼ばれた本人は指先に止まった鳥をそのままに
金髪を風に揺らしながらの方へ向き直った。


「ああ、姫。
 おはようございます」

「おはようございます。
 何をなさっているの?」


するとレゴラスは指先に止まっている鳥を示しながらにっこりと笑う。

「おしゃべり、と昨夜の森の様子をこの子に聞いているんです」


レゴラスの言葉を肯定するようにその鳥も小さく囀る。

が小さくその鳥に挨拶をすると、その鳥もどうやらのことを気に入ったらしく
彼女の頭上を迂回してそのまま肩に止まった。


「ふふっ…可愛い」


の髪を咥えながらじゃれる小鳥に思わず微笑がこぼれる。



「あれ?姫…声少しおかしいですね」

レゴラスの問いには一瞬赤くなる。


「え、そ、そうかしら…」

「それに目も赤いですし…昨夜はゆっくり休めませんでしたか?」


正直にスランドゥイルの部屋にいたと言ったら良いのだろうが、
昨夜のことは二人だけの秘密と決めたのだ。

そう簡単に破るわけにはいかない。


「緊張して少し休むのが遅れただけですわ。
 お気遣いありがとうございます」



丁寧に礼をするとそそくさとその場をあとにする。

一人残されたレゴラスはもちろん疑問に思わないわけが無かった。







岩屋の中に戻ると一番初めに会ったのはいつも早起きのエレストール。


「姫、おはようございます」

「あ、エレストール。おはよう」


いつもどおり笑顔で返す。

が、毎日会っている二人。

ほんの少しの差だって気が付く。


「姫、声が少し掠れていますね。
 それに目も赤いですし…。何かありましたか?」


エレストールの問いに必要以上に心臓が跳ね上がる。


「う、ううん。なんでもないよっ!
 場所が変わって少し眠れなかっただけだから」

「…そうですか?」



不振そうなエレストール。

さすが勘が良い。


「あ、ほら。
 もう朝食の時間よ。はやく行きましょう」


「あ、姫。お待ちください」


エレストールの手を引きダイニングへ向かおうとすると、
すぐに静止の声が掛かる。


「何?」

「あ、えっと…その…」

彼にしては珍しく歯切れの悪い言い草。

は首を傾げながら言葉の続きを待っている。


「昨夜は…ありがとうございます。
 私なんかのために庇ってくださって…」

少し分が悪そうに、そして少し照れながらエレストールは礼を述べた。


「あ、あのこと?
 全然いいのよ、気にしないで。
 それにさ、やっぱりあたしエレストールの悪口いわれるの嫌だもん」

にっこり笑う

それだけでエレストールの心は温かくなる。


「ありがとうございます」

普段厳しい表情ばかりのエレストールが優しく微笑んだ。

それにも嬉しくなる。



「ですが!!」

しかし、ここで終わらないのがこの顧問長。


「よいですか!姫!!
 あの場はレゴラス王子のおかげで納まりましたが、もし下手したら3人とも囚われる、
 下手したらあの場で処刑されたかもしれません!!」


人差し指を突きつけて説教を始めるエレストール。


「次からはご自分の発言にはお気をつけください!!
 貴方の言葉一つで大事になることだってあるんですよ!!」


初めは少し涙目になりながら聞いていただが、
いい加減切り上げようとして少し小走りでエレストールから離れた。


「姫!分かりましたか!?」

するとはまるでダンスを踊っているような軽いステップで振り返ると笑顔で返した。


「わかんない」

「な、何ですって!?」

「だって、たとえその後にどうなろうとあたしはやっぱり大切な人が悪く言われるのは嫌。
 それに、それをみすみす聞き流す自分だって嫌だもん」


そう言うとは踵を返し長い廊下を小走りで進んでいった。




エレストールは呆れたようにため息を付くと、少しだけ口元に笑みを浮かべた。


大人になったと思ったらまだまだ子供の主の姫に癒されながら。









さて、この順番でエルフに会うと次に会うのは必然的に分かる。


「あ、グロールフィンデル。
 おはよう」

いつ見ても見事な金髪。

ここ闇の森でも二人として同じ色の金髪を目にすることは出来ない。


だが、そんな自慢の髪とは違いそれの持ち主はぐったりとした様子。

「あ……姫…おはようございます……」


普段から寝起きの悪いグロールフィンデルだが、今朝ばかりはすこし様子が違う。


「どうしたの?」

すると彼は自分の胃を抑えながら搾り出すように言う。


「昨日の酒がまだ残っていて…二日酔いのようです……」


その言葉には呆れたように言った。


「…あのねぇ…いくらなんでもエルフが二日酔いになるわけないでしょ?」

「…私もそう思っていたんですが…さすがスランドゥイル王のワインです…。
 エルフだって二日酔いになるくらい強いものばかりです」


頭を抑えながら言う彼の今の姿は、裂け谷の武官長、
さらにゴンドリンの英雄とはかけ離れている。



「まったく…限度を考えずに飲むからよ!」

「あぁっ!あまり大声出さないでください…
 ここのエルフたちが次から次へと注いでくるのでつい…」


どうやら自分の声すら頭に響くようで、そのでかい図体でその場にしゃがみ込んだ。


「もう…だったら部屋で休んでたら?
 今お水持ってきてあげるから」

「…それが…王からぜひ武官達に剣術の指南をしてほしいと頼まれまして…」


これにはも同情をしてしまう。


「が、がんばって…」

「はい…」


するとタイミングよく遠くから闇の森の若い武官達がグロールフィンデルのことを呼ぶ。

彼は重い体を引きずるように彼らの元へ歩いていった。


「……大丈夫かしら?」



まぁ、なんだかんだ言っても彼は武官長。

いざ剣を握れば二日酔いなど吹き飛ばすほどの集中力が身に付く。

英雄として無様な姿はさらすことは無いだろう。



グロールフィンデルの心配をしながらはそそくさとダイニングへ向かった。









   ****************************************













さて、食事も済みは闇の森でも数少ない風を感じることが出来るテラスに来ていた。

そこはこの岩屋の中でも珍しく外に面していて微かではあるが陽の光を感じることが出来る。


備え付けの長椅子に座り裂け谷から持ってきた本に目を走らせる



実は今夜もスランドゥイルと一夜を共にする約束をしているのだ。

出来るだけ御伽噺のストックを頭に叩き込もうと考え本に集中する。


しかし、昨夜は徹夜。

さらにここは今闇の森でも珍しいくらい優しい風が吹いている。



その風と微かな明かりが気持ちよくついつい瞼が降りその長いすに身を横たえてしまった。


その背もたれには数羽の鳥が降り立ち可愛らしく囀る。

その声によりはさらに深い眠りへと誘われる。




それからどれくらい時間がたっただろうか。


姫?」

そこに現れたのはここの王子レゴラス。


実はこの場所は彼のお気に入りの場所だった。



「眠っているのですか?」

屈んでその顔を覗き込むと気持ちよさそうに寝息を立てている。


細い真珠色の髪が彼女の輪郭をなぞり、それに指を絡ませるとさらさらと零れ落ちる。


レゴラスの手の甲での頬をなぞると、小さく身じろぎするがまた再び眠りに付く。

こちらに何かすると可愛らしい反応が返ってくる。


それに楽しみを覚えたのか、さらに別の反応が見てみたいという衝動に駆られた。


そして目に付くのが小さく開いている桃色の唇。

恐らくそこにはまだ誰も触れていないだろう。


軽く親指でなぞるとレゴラスはゆっくりとそこへ自らの唇を近寄せる。




「我らの姫に何かごようですか?レゴラス王子」

あと少しでお互いの唇が触れる、その手前であるエルフの声によってさえぎられた。


「エレストール殿…」

レゴラスがゆっくりと顔を上げるとそこには普段から無表情のエレストールが
今このときも更なる無表情で立っていた。


「もしや我が主の姫の寝込みを襲うとでも?」

落ち着いた声だが明らかに怒気が含まれている。


レゴラスは肩をすくめると、柔らかい笑顔で答えた。


「まさか、ただとても可愛らしい寝顔でしたからもっと近くで見たかっただけですよ」


その答えにエレストールは眉を顰める。

「姫はあまりそのようなことに抗体がありません。
 たとえふしだらな気持ちが無かったにせよ以後控えていただきたい」


そう言い放つと眠っているの長いすの前に立ち、
優しくを抱き上げる。

姫を部屋へ連れて行くんでしたら、僕が連れて行きますよ?
 エレストール殿は忙しいでしょう?」

しかし、エレストールはそれに応じるわけが無い。


「わざわざ王子のお手を煩わせるわけにはいきません」

そしてエレストールはそのままを腕に抱き宛がわれた客室へと向かって歩いていった。


そんな後姿を眺めながらレゴラスはくすりと小さく笑った。

「もしかしたらグロールフィンデル殿より強力な壁かもしれないな…」


その呟きはエレストールに聞かれることは無かった。



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2004/08/30


な、何なんだ!?この闇の森親子は!?
(いや、むしろ毒苺が…

グロールフィンデルヘタれっぷり大爆発!
エルフが二日酔いするとは思えない…

しかし、ヒロインのファーストキスを狙ったレゴラス。
実はヒロインのファーストキスはグロールフィンデルと知ったらおどろくでしょうかw

とりあえず、うちのレゴ王子はいい子ちゃんでも
実は影では黒いwを推奨して行こうと思っておりますw
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