闇の森に滞在しすでに1ヶ月が経とうとしていた。


その間、はほぼ毎晩スランドゥイルと夜伽…という名のお伽噺大会が繰り広げられ、
グロールフィンデルは武官達に剣の指南や過去の戦いの武勇伝を聞かせている。


また、エレストールはここの文官や王直々に国交の交渉をするがなかなか上手くいかないようで。




そんなある日、闇の森の城に1匹の鳥が迷い込んだ。

その鳥は大きさこそ鳩ほどの大きさでとてもしなやかな動きだが、
美しいであろう白い羽は所々汚れて数本抜けかかり、なんともみすぼらしい。

だが、そんな姿でも達裂け谷のエルフなら見覚えのある鳥で。


「あら…この子って…」


その鳥をの手の甲に乗せマジマジと眺めると横からエレストールが口を挟む。


「卿の連絡用の鳥…ですよね」


指で軽く汚れを拭うとその姿はまさしく予想どおり。


ふと足元を見ると小さく丸められた紙が括り付けてあった。





一度エレストールと目を合わせたは恐る恐るその紙を広げる。


それにはただ一言、こう書かれていた。













『早く帰って来い!!』












「…………」

「…………」


だけではなく、エレストールまで黙りこくってしまう。


たしかに、闇の森に来て1ヶ月、ロリアンにいた期間を合わせると
エルロンドが寂しがるのも分からなくない。


「…確かに…そろそろ帰らないとまずいわよね…」

父の想いがひしひしと伝わる手紙を丁寧に折るとはエレストールに問う。



「ええ…出立前に出来るだけ書類処理はしましたが…いいかげん卿一人では処理しきれないでしょう」

エレストールの頭には一人必死に書類相手に格闘している上司の姿が目に浮かぶ。



「…まだ国交ことについては進展ないけど…」


“しかたないわね”と諦めたように寂しそうに笑って見せた。



エレストールとしても諦めたくはないが、こればかりは仕方がない。

今まで中に入る事だってままならなかったのだ。


今回は進展があったとおもいまた次の機会にしよう、そう考え帰ることに頭を切り替えた。





















時間帯はそろそろ夕刻。

薄暗い闇の森からは見えにくいがおそらく夕陽が輝いているだろう。


夕陽が沈んでいるであろう方向を照らすから眺めながら改めてこの1ヶ月のことを思い返した。




始めはスランドゥイルがエレストールをアルウェンと勘違いし、
歓迎の宴ではここのエルフと気まずい雰囲気になりそして毎晩スランドゥイルと夜通し御伽噺。

充実しているのかしていないのかよく分からない。


だが、にとって全て裂け谷にいては体験できなかった貴重なことばかり。


ぐっと大きく背伸びをするとこの壮大な闇の森を改めて見直した。


闇の勢力のせいで日々暗闇が広がっていく。

でも、ここにきて初めて暗闇の美しさというものを理解することができた。



誰かが言った、『暗闇があるからこそ、光が美しく輝く』と。

その言葉はここにきて本当に心から理解することができた。











姫?いかがなさいました?」


ふと後ろから聞こえてきた、少し高めの男性の声。


振り向くと光の関係で顔ははっきり見えないが、薄暗くても輝くそのプラチナブロンド。

心当たりは一人しか居ない。



「レゴラス王子」

「そろそろ夜になります。中へどうぞ。
 風も冷たくなってきたので身体を冷やされますよ」


そういうと彼は優しく自分のマントを優しくの肩に掛けた。


「ありがとうございます」


掛けられたマントの暖かさを肩で感じながら、は優しく微笑んだ。



「さぁ、そろそろ夕飯の時間です。
 早く行きましょう」

「あ、待ってください」


エスコートするレゴラスを一声で止め、は背の高いレゴラスを見上げた。


「姫?いかがなさいました?」


「あ…実は…。明日、あたしたち裂け谷に帰ろうと思っているんです」

「え…?もう、ですか?」


暗闇に慣れてきてレゴラスの表情も見えるようになる。

どうやら沈んだ様子。


「えぇ、もう1ヶ月になりますし、
 父もここまであたしが谷を離れたのは初めてで心配しているようですし…
 それに、一度ロスロリアンの祖父と祖母に報告もしないといけないので」


だってここを離れるのは寂しい。

せっかく外の世界に触れることが出来、ここのエルフ達とも仲良くなれた矢先のこと。



「そう…ですか…。
 しかたありませんよね…姫はここのエルフではないのですから…」


寂しそうに微笑むレゴラス。

その表情にはも心が痛んだ。


「大丈夫です!またかならず遊びにきます。
 あ、ぜひレゴラス王子も裂け谷に遊びに来てください」

「えぇ、ぜひ。必ず」



お互いがお互いの目を合わせるとにっこりと優雅に笑い合う。


「では、参りましょうか」

が中に向かうとその後ろからレゴラスもついて行く。


だが、彼のその表情が先ほどと違い何かたくらんでいる表情になっているとは
は気づくことがなかった。













「スランドゥイル様、よろしいですか?」

夜、見張りの武官以外寝静まった頃、
はもう日課になりつつあるスランドゥイルの部屋に来ていた。


「よいぞ。入れ」

中から了解の意の返事が聞こえたのを確認しゆっくりとドアを開く。


中に入ると最近はもうすっかり見慣れたスランドゥイルの湯上り姿。

もちろんその片手にはワインのビンが握られていて。



「スランドゥイル様、今日は始めにお話があるんですがよろしいですか?」

「どうした?申してみよ」



どさっと近くにあるソファーに座るスランドゥイル。

「実は…明日に裂け谷に帰ろうと思います」

「……やはり、か」



スランドゥイルの意外な一言には一瞬面を食らった表情をした。



「ご存知だったのですか?」

「いや、ただ今日見慣れぬ鳥を見て。
 おそらく伝令用の鳥だろう」


“見事なまでに汚れておったがな”と笑い飛ばす。


「えぇ、あの鳥は父からの伝令を持って着ました…それで…」

「はやく帰って来いとでも書かれていたか?」


こっくりと頷く。


「ほぅ…あの超まじめ男も娘には煩悩のようだな」

クスクス笑うスランドゥイル。



だが、は対照的な表情。

「せっかくここのエルフと仲良くなれたのに…」


その暗い表情にスランドゥイルは一度深くため息をついた。

「では、残された時間を楽しんだら良いだろう」

「え?」


するとスランドゥイルは大声をあげて顧問官の一人を呼んだ。

「今すぐ宴をするぞ。
 皆を起こせ」

「えぇ!?す、スランドゥイル様!?」


驚くだが、対照的に顧問官はいつものこととでも言うように了解すると踵を返した。

「い、今からですか!?もう深夜ですよ!?」

「だったら夜明けまで飲み明かせばよい。
 さぁ!広間へ行くぞ!!」







初めてここに来たときも思ったが、ここのエルフは宴の準備だけは本当に早い。

皆本当に寝起きなのかと思えるほど機敏な動きで。


見る見るうちに宴の準備完了。



そしてどんどん空けられていく料理の皿とワインの樽。



「旅の前日はゆっくり休むべきだと思うのですが…」

エレストールはぶつぶつ文句を言っていたが本当は嬉しいようで。

グロールフィンデルは指南していた武官達と大盛り上がりで酒を酌み交わしていた。



そんな光景には微笑まずにはいられなかった。

だが、一つだけ引っかかっていることがある。

まだ、スランドゥイルから国交の復活の了解は得ていない。



不安そうな表情をしているとレゴラスが果物を差し出してきた。

「どうしました?何か不安なことでも?」


その碧眼にはが映っている。

「あ、いえ…なんでもありません」


心配させてはいけない、そう思いすぐに笑顔に変えた。



「そういえば、姫には双子の兄上がいらっしゃると…」

「ええ、そうですが…あれ?兄のことはお話になりましたっけ?」


するとレゴラスは不敵に笑うだけでそれ以上何も言わなかった。



←戻る
8へ→

2004/09/20


久々更新です。

なぜレゴラスが双子を知っているのか、それは次で分かります。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送