とエルラダン、エルロヒアがフェアノール一家の砦に来てすでに1週間が過ぎようとしていた。


毎日が賑やかでとても楽しい。



3人はすっかり家族のようになじんでいた。




だが、一向に戻る方法は見当たらない。


と、いうより探す方法も探す時間もあまり無い。



とにかく本を読み漁って調べようとすると、誰かしら兄弟たちが遊びに来て
騒ぎそして兄弟喧嘩勃発。


そんな状況で本を読めるほどは肝が据わっていない。



このような状況が重なって何の進展も無いまま時間だけが過ぎてしまった。







「どうしましょう…お兄様…」


裂け谷3兄妹がバルコニーに出て景色を眺めているとが小さく呟いた。


「うん…そうだよね〜」

「もう随分経っちゃったし…」



双子は少し冷や汗を掻いて呟く。

その理由は、この二人は帰ることはあまり考えずいつももう一組の双子や
ケレゴルムたちと狩に出かけて、この時間を満喫していたのだ。



「お父様たち…心配してますね…」

「そうだね。もしかしたらロリアンにまで伝わったかも…」

「ガラドリエル様がどんな反応を見せるか…恐ろしいね」



ちなみに、もしロスロリアンにまでこのことが伝わっていたら確実に
裂け谷&ロスロリアンのエルフの軍隊が出陣し中つ国中を探し回っているだろう。



そんなことになっていては帰りたいが帰りにくくなる。




…帰りたいの?」


エルラダンの問いには苦笑いで答えた。


「帰りたくない、といったら嘘になります。
 でも、ここの方々は歴史で学んだ印象からは大変かけ離れていて…とても楽しくて温かいです。
 とても、とても大好きです」


遠くで輝くテルペリオンの銀色の光を見据える。


「…でも、お父様やエレストールたちに会いたいです…」


伏せた瞳の下にまつげの影が出来る。

今は伏せられた瞳には薄っすらと涙があったのは気のせいだろうか。


エルラダンとエルロヒアはお互い目を合わせると、妹の壊れそうなくらい小さな肩を抱き寄せた。





「あら、こんなところにいたの?」


後ろから聞こえてきた少し低い女性の声。


「ネアダネル様!!」


先ほどまでの悲しげな表情は何処へやらは嬉しそうな笑顔をいっぱいにして
彼女の元へ駆け寄った。


ネアダネルもそんなを長いしなやかな手で抱き寄せる。



「今ねちょうど新しいバラのエッセンスが手に入ったの。
 一緒にお風呂に入りましょう」


「ええ、もちろんです!」



二人はエルラダンとエルロヒアに笑顔で挨拶するとそそくさと中へ戻っていった。



「……って…本当はどっちなんだろう…」


「…さぁ?」



イマイチ分からない妹の反応に二人は双子らしく同じタイミングでため息をついた。













   **********************************











「いい香りです!」


湯殿中に広がるバラの香り。

とても優雅な気分になり身体も心もリラックスする。



「気持ちいいわね」

「はいっ」


とネアダネルはお互い顔を見合わせてにこにこと笑いあう。



実はというとこの二人、いつもこうやって一緒に湯浴みをし沢山の入浴剤を試しているのだ。


多い日には1日に4回近く入ることもある。



何処からか美しい歌声が聞こえる。


おそらくマグロールがどこかで謳っているのだろう。

その声に耳を傾けているとネアダネルがじっと見つめていることに気づく。



「ネアダネル様?」

「ねぇ、


珍しく思いつめた表情の彼女。

呼びかけられては首をかしげた。


だが、次の言葉では想像もつかないことを言われ驚いた。






、あとエルラダンとエルロヒアも。
 3人とも私とフェアノールの子供にならないかしら?」

「え!?」


湯殿独特の沈黙が流れる。

「あ…えっと…」


今までに何度かはこれに似たようなことは言われたことがある。

だが、それは彼女の冗談だろうとも甘んじていた。



しかし今回はそんな様子は微塵にも無い。


ネアダネルの美しいと評判の赤い髪から数的の雫が落ちる。



「最近、この殺伐をしていた砦がまるで花が咲いたかのように華やかで陽気に包まれているの。
 あなたたちが着てからよ。
 あの気難しいフェアノールだって最近は頻繁に帰ってきているようだし」


ネアダネルの少しだけ寂しそうな笑顔にの心が締め付けられる。


「もしあなたたちがいてくれたらこの先ずっと幸せに暮らせるような、そんな気がするの」



彼女の言葉には心臓が煩くなったのに気づいた。


このさき、このフェアノール一家に待ち受けている運命は過酷なものだ。




別れ、復讐、欲望


麗しい種族と言われるエルフには似つかわしくない言葉。



また、彼らの行いによって沢山のエルフたちも犠牲になる。

その中にはの親族も多少なりとも関係してくる。





もしかしたら、自分たちがここに留まったら運命を変えられるかもしれない。


マエズロスたち兄弟は誓言に囚われることなく、ここアマンで幸せに暮らせるかもしれない。







だが…










「………ここにいるのはとても楽しいです…。
 それに、いきなりの訪問者でもあるあたしたちをこんなに温かく迎えてくださったことには
 ほんとうに感謝しています」



“でも”とワンテンポおく。








「あたしの両親は…お父様とお母様だけなんです…」


“ごめんなさい”とでも言うように瞳を閉じて項垂れてしまった。



するとそんなにネアダネルは小さく笑う。


「そんな、落ち込まないで。
 分かっていたわ、きっとあなたはそう言うってことはね」

一束落ちてきたの前髪を上げネアダネルは言葉を続けた。



「ご両親にはとても愛されているのでしょう?
 あなたたちを見ていたら分かるわ。
 ごめんなさいね、意地悪なことを言って」


そんな言葉とは裏腹に残念そうなネアダネルには首を振った。



「でも、ネアダネル様はあたしにとってお母様のような方です。
 とても温かくて、優しくて…大好きです」


その言葉には偽りは無い。

本当にの母にあたるケレブリアンに微笑みかけるように
どんなエルフも幸せにする笑顔を、この赤髪のエルフに向けた。








「…ありがとう……私も大好きよ」



二人は微笑みあうと抱き合った。

その姿はまるで本当の母娘だった。












   **************************************











湯殿から出たは火照った身体を冷ます意味もかねてテラスにでて涼んでいた。


上気した頬を撫ぜる優しい風がとても心地よい。



木陰にゆっくりと腰を下ろすと何処からか鳥たちが降り立ちの肩に留まる。



テルペリオンとラウレリンの光が交じり合うこの時間。

それはまさしく至福の国という言葉に相応しい絶景。



何処からか花の甘い香りも感じる。




しかし、そんな美しい光景を目の前にしての心は金銀の光とは逆で
どこか影を落としていた。



「お父様…お母様……」



自分でも意識しないうちに呼ぶ最愛の両親。

たとえこの場がとても美しく光にあふれた場所であっても、
にとってはオークたちが徘徊し危険が隠れている中つ国こそがが故郷なのだ。


そして、そこで自分を育ててくれたエルフたちを愛している。


このフェアノールの統治する砦は裂け谷に比べて賑やかで楽しい。

だが、どこかで心が満たされない。



溢れそうになる涙を堪える様にしてはゆっくりと瞳を閉じた。



そして彼女はそのまま夢の小道へと意識を飛ばした。






どのくらい時間が経っただろう。


先ほどまでテルペリオンとラウレリンの光が交じり合っていたが
今では完璧にラウレリンの光に包まれている。


近くには数匹の小動物がの横に集まりともに眠りについている。



だが、そんな彼らはある気配を察知すると俊敏な動きでその場を走り去ってしまった。




ある気配というのはこの砦の主、フェアノール。




彼は今まで工房で製作に没頭していたようだ。

父譲りの美しい黒髪を無造作に革紐で束ねていたのをしゅるりと解く。


するとその髪は結い痕一つ残らず風をなぞるように降りた。



彼はその美しく長い髪を鬱陶しそうに掻き揚げると
目の前の木の根元で眠っているに驚き目を見開いた。


このまま通り過ぎるべきか。


だが、それはそれで気まずい。



しかしどう声を掛けるというのだ。


今まで家族とともにたちとも食事を共にしたが、会話は本当に少ない。


フェアノールは元々多弁ではない、むしろ無口な部類で。

はいつも他の兄弟たちに囲まれている。


つまり、今の今まで二人きりという状況にはなったことが無かったのだ。



辺りをきょろきょろと見回すフェアノール。


近くに息子達がいれば多少は救われるのだが。



だが、無情にも辺りには誰も無い。


いや、この場合は幸運だったというべきか。





フェアノールは木に寄りかかり眠っているの前に跪く。


目を開けて眠るといわれるエルフにしては珍しいのか、
はまるで人の子のようにその大きな瞳を閉じすやすやと寝息を立てている。



「…おい」


声を掛けてみるが反応は無い。


「眠るのなら部屋で眠れ」


やはり反応はない。

まるで独り言を言っている気分になる。



困り果てたフェアノール。


そんな彼とは対照的に気持ちよさそうに眠りこける




彼は一度大きくため息をつくと決心しある行動に出た。




の横に立つとその小さな背中と膝の裏に手を入れ立ち上がる。


俗にいうお姫様だっこ。



子供の上に身体の小さいはフェアノールの手によって軽々と持ち上げられた。

彼もここまで軽いとは想像していなかったようで逆に戸惑ってしまった。



はきちんと食事をしているのか…”変なところで不安になる。



何がともあれを彼女の部屋に運ぶために砦に足を運ぶ。


こんな姿、もし息子達に見られたらどんなことをいわれるか分かったものじゃないと考えたらしく
彼は普段ほとんどだれも通らない遠回りになる廊下を進んだ。



服越しに伝わる子供の高い体温と規則的に上下する肩。


見下ろすとヴァラールですら頬を緩めてしまいそうな穏やかな寝顔。


を眺めていると息子達がまだ小さかった頃を思い出す。

だが、彼らの中にはほど寝相はよくなかった者もいたが。






感傷に浸りながら廊下を進むとどうにか誰にも会わずにの部屋にたどり着く。


鍵は掛かっていなかったようでそのまま入ると天蓋付きのベッドに優しく横たえる。



布団を掛けてやり髪を少し梳いてやると、の表情が先ほどと違うことに気が付いた。



苦しそうな、今にも泣きそうな表情。

そして、の呟いた言葉にフェアノールは言葉を失う。



「お父様…お母様……エレストール…」


それはの本当に家族の名前。

うわごとのように呟くとその目じりからは一筋の涙が流れている。



フェアノールは静かに瞳を閉じると、の手の甲と額に優しく口付けるとその場を後にした。



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2004/08/05



はい、久々の更新です…。

なぜ今まで掛かったかと言いますと…暑くてPCの前にいるのが苦痛で仕方が無かったんです!!(ぉぃ


さて、今回は火精パパですw
指先は器用でも感情のコントロールは不器用なようです。

まぁ、今回の話は「火精パパにお姫様だっこされよう!!」がコンセプトですから。


さて、だんだんクライマックスに近づいてきました。
いい加減エレストールも出さないと、この小説の趣旨が分からなくなってきます…
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