夜も更けた裂け谷の一室。

家具は最低限しかないが全てが計算された上で配置されている。

ゴミどころは埃一つない。


そう、ここは噂の顧問長の部屋。



時刻としては日付が変わるか変わらないかという頃。

こんな遅くまで彼は執務をこなしていたのだ。


ようやく終わった仕事と一日の締めくくりにゆっくりと湯浴みをして
その長く美しい黒髪を拭いていた。



すると彼の部屋を誰かがノックする音が聞こえた。


「どなたですか?」


たとえ屋敷内とはいえ簡単にあけないのがこの顧問長。

以前不用意に開けた際、酔っ払ったグロールフィンデルが乱入し
騒ぎ、部屋を荒らすだけ荒らされたのだ。


だが、今回の来客はそこまで迷惑なものではなかった。



「あの…です…。」


控えめな高い声に少し驚き、即座に扉を開く。



「どうしたんですか?こんな夜遅くに。もうおやすみになられたかと…。」

「うん…実はちょっと話したいことがあって…。」


濡れた髪のエレストールは普段とは違った魅力があり
は小さく頬を赤らめた。


「話したいこと?では、立ち話もなんですから中へどうぞ。」


中へ促そうとするがはそれをあえて断った。

「大丈夫よ。すぐ済むから。」


不思議そうな表情なエレストールだが、と目線をあわせると話を聞く体制になる。



「えっとね、実はこの間の勉強で…」


は話しながらエレストールの後ろ、つまり彼の部屋の中に視線を移す。



なんとそこには窓から侵入した双子。

物音一つ立てずにエレストールの部屋を物色する。



つまり、がエレストールの気をひきつけている間に
双子が窓から侵入し鍵を探し出す、ということ。


「それでね、あの歴史書なんだけどちょっとおかしいなって…あの文章は…」


必死に後ろの双子の存在を気づかせないように言葉を繋ぐ。




「それにこの間グロールフィンデルったらね…」


もうだんだん自分が何を言っているのか分からなくなってきた。

さすがにエレストールも疑問を抱き始める。


「姫?何か隠していませんか?」


「べっ!!別に何も!!」



声が上ずる。

するとエレストールの後ろからとうとう鍵を見つけ出し、合図を出す双子。

もそちらを見て思わず笑顔を浮かべる。


しかし、洞察力が優れているエレストール。

すぐに気づき後ろを振り向いた。







そこには誰もいない。


不振そうに部屋を見回すが特に変化はない。



「あ、ご、ごめんね。こんな夜遅くに。
 じゃああたしもう寝るね。おやすみ。」


そういい残すと足早にその場を後した。

不思議そうにの後姿を見送るエレストール。




一方は自室に戻るふりをして向かう先は
双子たちと落ち合うと約束した秘蔵書の書庫の前。



「エレストールにばれてなかった?」

「多分…大丈夫かな…」


としては湯上りのエレストールに会えたことが予想外のことで動揺していた。



「さて、気を取り直して行こうか。」


戦利品ともいえる鍵を取り出す。

誰にも見つからないように静かに鍵を開ける。

かちり、と開く音が響くと静かに扉を開く。


長い間閉じられていたせいか渋い音が闇に響いてしまう。


極力小さめに開けるとそこに身体を滑り込ませて3人は素早く中へ入り込む。


いつも悪戯をしている二人はこのスリルを楽しむようにわくわくしているが、
こんなことにめったに加わらないはびくびくしていた。


「で、何処にあるの?。」

「えっと…一番奥の本棚の影です。」


エルラダンが持ってきたのであろうろうそくの火を頼りに3人はゆっくりと進んでいく。



そしてたどり着いたのは先ほどが見つけ、そして押し凹んだ壁。

「あれ?あたしが押したときより凹んでる…」



その凹んだ壁の断面に触れてみると急にその壁が抜け落ちた。



「きゃっ!!」

「「!!」」


体制を崩しそうになるを庇うように身体を覆う双子。


だが、身体は以外に苦痛を感じなかった。



「ここは…一体何なの?」


抜けた壁の先にはもう一つ部屋があった。


たった1本のロウソクでも全てを照らせるくらい狭いその空間。


だが、狭い理由はすべて本棚に囲まれているからだろう。




「すっごい…壁中本よ…。」


近づいてその背表紙をなぞる。

全てが本当に古い、おそらく第1期からのものだろう。



「「な〜んだ。秘密の隠し部屋とか想像してたけど。」」


双子は興味のない本だらけでつまらなそう。




だが、は嬉しそうにある1冊の本を手に取った。


「あら、これは本ではないわ。日記…?
 …これ…クウェンヤ語?」


今ではほとんどのエルフがシンダール語を話すが、はるか昔ノルドールは
クウェンヤ語を話していた。

「クウェンヤ語?それじゃあ読めないね。」

肩を竦めるエルラダンとエルロヒア。



「えっと…『今日…珍しい来客があった…。それは…』」


ゆっくりではあるが読み始める


…クウェンヤ語わかるの?」


「全てではありませんが、多少は…。歴史の勉強をしたときに教えてもらったので。
 お兄様たちだって教わったはずですよ。」


この双子がそれを覚えているはずがない。

二人は話をそらすようににその先を読ませた。


「えっと…『それは…双子の青年と…珍しい髪色の少女…』…?」




そこまで読みかけるといきなり辺りが真っ白になる。

全てを吹き飛ばしてしまうくらいの強い風が吹き上げる。


「きゃぁぁぁっ!!」

「「!!」」


エルラダンとエルロヒアはを強く抱くと二人はきつく手を握り合いきつく目を閉じた。


















頬に柔らかい草の感触を感じる。

どうやら気を失っていたようだ。


まだくらくらする頭を抑えながらゆっくりと顔を上げる。



すると両隣にエルラダンとエルロヒアの姿があることに気づき安心する。


だが、当の二人は普段見られないくらい驚いた表情をしていた。




「お兄様方?」


「「…ここ…どこ…」」





そこは柔らかい草原が一面に続き辺りからは優しい風が吹いている。

柔らかい光は中つ国の太陽の光とは少し違って。



だが、ついさっきまで裂け谷の最後の憩い館にいたはずだった。




つまり…ここはどこなのだろう…。



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2004/06/26


まだまだ火精一家現れません…。
次こそ!!です。

ちなみに今回、全然エレストール夢じゃないですね…。
いいのかな〜…(汗
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