「さぁ、見えてきた。あれが我が父の宮、フォルメノスだ。」


少し高い丘の上から見下ろすその砦。

それはぐるりと城壁に囲まれ外部からの侵入を完璧に拒んでいる。


裂け谷は地形上周りを山がぐるりと囲んでいるが、館自体は開放的で
このような閉鎖的な空間は少なからず息苦しさを感じる。





その砦を見据えるとその丘から馬で勢いを付けて一気に走り降りる。



はしっかりと身体が支えられているとはいえ、こんな不安定な場所を
かなりのスピードで走り降りるのだ。

怖くないわけがない。


思わずマエズロスの服をギュッと掴み瞳をきつく閉じた。





それから数分後、だんだん身体に感じる衝撃は弱まり馬の歩調も緩やかになった。


「さ、着いたぞ。」


マエズロスの声にゆっくり目を開くとすでにそこはフォルメノスの中。

外からでは分からなかったが中はとても広い作りで建物や庭は完璧に手入れが行き届いている。



ぼ〜っと辺りを見回しているを見て少し笑うマエズロス。

彼は軽やかに馬から下りると、次いでを丁重に馬から下ろした。



地にようやく足が着いたはきょとんとしていた。

そんなの前に跪きマエズロスはまじまじと見つめる。



「…、といったな。そなた年は?」

いきなりなんの脈絡もない質問。

そんな突拍子もないと逆に素直に答えてしまう。



「先日400歳を迎えました…」


するとマエズロスはまたじ〜っと見つめる。


「まだ子供だが…随分小さいな。」


ぽんぽんと頭を軽くたたく。


そのあとにっこりと笑った。



エレストールから学んだ歴史書のマエズロスは冷静で、そして冷たい印象のあるが
いざ本人に会ってみるとイメージとは全然違う。


まさかこんなにマイペースだとは…。



「ま、マエズロス様に比べたら子供は皆小さいですわ。」

丈高きマエズロスの異名の通り、
マエズロスは本当に背が高くそして均等のとれた四肢をしている。

裂け谷内で、いや、現存するエルフの中で一番の長身はグロールフィンデル。


だが、マエズロスはおそらくグロールフィンデルと変わらない、
もしかしたら彼よりも長身かもしれない。





いつまでも跪いたままを見つめるマエズロス。

はその黄金色の瞳に見つめられて居心地の悪さを感じる。


そして、そんなを助け出したのはもちろん双子。



「マエズロス殿。僕らの妹が困っているじゃないか。」

「そんなに穴が開きそうなほど見つめないでくれ。」


二人の間に入り込んで作り笑顔で微笑む双子。


その笑顔には明らかに怒気が含まれていた。



その3人の間には妙な空気が流れていた。







「兄上、お帰りになられたのですか。」


ふと建物の扉が開き掛けられた声。

その声はとても美しくまるで楽器のような声。



振り向くと綺麗に切りそろえられた流れるような黒髪が印象的な柔和な表情の男性。


「おや、彼らは一体…。」

「ああ、マグロール。彼らは向こうの草原で道に迷っていたんだ。
 落ち着くまでここで休んでもらおうと思ったんだが。」


“マグロール”という言葉を聞いてまた3人は驚いた。


マグロールといったら伶人と誉れ高いノルドール1の歌い手。

そして、両親を失ったたちの父、エルロンドとその双子の弟エルロスを育てた養父でもある。

そんな彼はシルマリルを海に沈めた後、歌を唄いながらその後は誰にも知られていなかった。



エルロンドもたとえ母を殺されたとはいえ、この伶人を愛していたという。

会えるものなら会ってみたい、だってそう思っていた。


だが、まさかこんな形で会えるなんて…。









「そう…ですか…。」


少し困惑した表情のマグロール。


「何かあったのか?」

「その…先ほど父上が工房から久々に出てきたので、突然の来客にどう反応するか…。」


マグロールのセリフに顔をしかめるマエズロス。



彼らの父はかの有名な火の精、フェアノール。

フェアノール文字の考案者であり、かの宝シルマリルの製作者である。


どんな歴史書からでも分かる。

彼はたとえ同族でも決して心を許さなかった。


だからこそ、今たちの訪問にどう反応するかが不安なのだ。



運が悪ければその場で切り殺されることもないとは言えない。


ふむ、とマエズロスは少し考えると、不安そうにしているを見て何かを思いついたようだ。



「よし、ここは味方と切り札をつけよう。」


“味方と切り札”というセリフに首を傾げるマグロール。



すると、近くでエルラダンとエルロヒアに守られるように立ちすくんでいるを見た。


「この少女が切り札だ。」



そこにいる皆が首を傾げるマエズロスのセリフ。


とりあえず、初対面の相手だ。

挨拶をするのは当然の礼儀だろう。



「お初にお目にかかります。、と申します。」


優雅に礼をする

「あたしの右にいるのが長兄のエルラダン、左が次兄のエルロヒアです。」


多少困惑しながらもエルロンドの娘として恥ずかしくない
麗しい笑顔で紹介した。



「初めまして、フェアノールの次男、マグロールです。
 道に迷われたとは、災難ですね。」


とても穏やかでまるで春の日差しのような柔らかさをもつマグロール。



思わずの頬も緩む。


二人の間には明らかに花が咲いていた。






さて、気を取り直す。


「ところで兄上、味方というのは…?」

皆が疑問に思った事をマグロールが代弁した。



すると尋ねられたマエズロスは笑顔で答えた。


「そろそろ来るだろう。」



同じタイミングで同じ角度に首を傾げるマグロールと第三紀エルフ組。


と、その時マグロールが出てきた扉からまた別の人物が現れた。



「あら、マエズロスお帰りなさい。」


「母上、ただ今帰りました。」



そこにいたのはマエズロスと同じ赤い燃える様な髪を持った背の高い女性。


そう、彼女こそあのフェアノールに唯一愛された女性で、
ノルドールの中でも高度の鍛冶の技術を持つマハタンの娘ネアダネル。


特別エルフの中でも美しいわけでもないが、
他の乙女にはない強さと堅実さ、そして優しさが伝わってくる。



「あら、見覚えのない方々もいらっしゃるけど…」


もちろんめったに無い来客にはすぐに気が付く。


「ええ、実は道に迷ったということで、困っていたので
 しばらくこちらで保護しようかと。」


と双子たちは少しだけ目を合わせると軽く会釈をした。



するとネアダネルは3人をまじまじと見詰めた。


それはもう、さすがの双子もたじろぐ位。


「貴方たちお名前は?」


「…エルラダン…です…。」

「エルロヒア…です。」

「…………です。」





3人が自己紹介をしたあともネアダネルは
その赤い髪に映えるエメラルドの瞳を見開いてさらに見つめた。


そして、次に出た行動はさらに3人を驚かせた。



「可愛い!!!!」


その言葉と同時に急に身体のバランスを失う3人。


その理由はなんと、ネアダネルが女性にも関わらずたちを
両腕で抱きしめたからだ。


はともかく、エルラダンとエルロヒアは成人した男性エルフ。

それを意図も簡単に抱きしめてしまう。



上古エルフは皆背が高いため比例して両腕の長さも長いというのは分かるが
それだけではない力強さ。


3人とも呆然とするしかなかった。

だが、当のネアダネルはうきうきとまるで少女のように喜んで
腕の中のエルフたちをさらに力強く抱きしめる。



「まさかアムロドとアムラス以外に双子のエルフがいるなんて思わなかったわ。
 それもこんな綺麗な顔立ちだし。」


“それに”と一呼吸置いてネアダネルはを見た。



「可愛い女の子のエルフなんて…。遭えて嬉しいわ。」



“きゃ〜”と興奮して一向に放そうとしない。


「母上、3人とも戸惑っています。放してあげては?」


ようやく止めに入ったマエズロスのお陰で3人はようやく解放されたが、
ネアダネルはまだ足りないといった瞳で見つめている。



「さて、母上。彼らがここに留まることは了解していただけるのですか?」


一応聞いてみるが返事はとうに決まっている。



「もちろん良いわよ!ゆっくりしていって。」



なんだかはちゃめちゃな女性だが、悪いエルフではない。

とりあえず安堵する3人。



だが、問題はまだ残っているというようにマエズロスが再び母に声を掛けた。



「ですが、マグロールが言うにはさきほど父上が工房から戻ったと…。」


そこまで言うとネアダネルもある程度理解する。



目を軽く伏せて考えるとネアダネルはすぐに笑顔に戻った。



「大丈夫よ。何とかなるわ。安心していいわよ。」


その言葉に満足するマエズロス。

おそらく彼は母がそういうのは分かっていたのだろう。



なぜなら彼のいう味方はネアダネルのことなのだから。




「さて、じゃあ3人とも中へどうぞ。」



扉を開き中へ促す。

たちはこの成り行きに近い流れに戸惑うが、
ここで逃げ出しても裂け谷に戻れるとも限らない。

とりあえずここで多少なりとも手がかりを探したほうが賢明だろう。



多少重い足取りで3人は砦の中へと歩みを進めた。



中はとても美しい装飾で溢れていた。

裂け谷のように落ち着く静かな空間とは違うが、豪勢で見るものを圧倒する強さがある。



3人は裂け谷にもロスロリアンにもない別の美しさに思わず見入ってしまった。


するとネアダネルは先ほどから気になっていたらしい、
の身体を包むマントを引き剥がした。


「えっ!?」

「あら、こんな薄着じゃ寒いわよ。」


中に着ているのが寝衣だから仕方が無いが、確かに肌寒い。

「いらっしゃい、着替えましょう。」


そう言うのが早いかネアダネルはさっさとを引っ張って2階へと進んで行ってしまった。



「あっ!!」

!!」


さすがに知らぬ場で妹が連れ去られるのはまずいと双子も追いかけようとするが
それをマエズロスによって止められた。


「大丈夫、母上に限って悪いようにはしない。
 さ、君たちは別室で待っていよう。」


マグロールがお茶の用意をしているのだろう、どこからか
紅茶の香りが漂ってくる。


なんとなく疲れてきたエルラダンとエルロヒア。



だが、本当の苦労はさらにこれからだということを二人は知らない。



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2004/07/01


はい、趣味に走っていますね…。

ネアダネル大好きなんです。

絶対フェアノールとは最初は万年新婚夫婦だったと信じたい…。



次にはいちおう兄弟全員を出したいな〜…。
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