「さぁ、いらっしゃい。」


ネアダネルに促されて入った一室。



この砦の入り口のように豪華な作りだが、どこか落ち着いたインテリア。

裂け谷と違った雰囲気の空間に多少の居心地の悪さを感じつつも、
赤い髪のエルフに言われるがまま適度な柔らかさのソファーに座らされる。


「ちょっと待っててね。」


にっこりと笑うとネアダネルはその赤い波打つ髪を揺らしながら隣の部屋へと消えていった。


成り行きとはいえ、おそらくアマンと思われるこの地に着いてから約1時間。

永遠に近い命をもつエルフにとっては瞬きにも近い時間だが、
にとっては今まで生きた中で一番長い1時間だった。


窓から入る銀色の明かりを見つめると大きくため息をついた。



と、それと同時にネアダネルが扉の向こうから戻ってきた。

手には沢山のドレスを手にして。



「さ、沢山あるから是非試してみてね。」


どうやらその手にある以外にも扉の向こうには大量にドレスがあるようだ。

しかも、くらいの体系に丁度合う子供用のドレスが。



だが、の記憶が正しければフェアノールの子供たちには娘はいないはず。


にも関わらずこんなに大量のドレスがある理由がイマイチ理解できない。


「あ、あの…この大量のドレスは…?」


すると彼女は笑顔できっぱりと答えた。




「私はずっと娘が欲しくてね、気持ちだけでも娘がいるつもりでドレスを作ってたら、
 ものすごい大量になったのよね。」


気持ちだけでこの量に…。

頬が引き攣るのを抑えられない



だが実はこのドレス、彼女がまだマエズロスしか子供がいなかった頃、
赤髪の息子で着せ替えをしていたという過去もあったりする。



「さ、やっとこのドレスたちが役に立つときがきたわ。
 沢山あるから好きなものを試してみてね。」


だっておしゃれが好きな普通の女の子エルフ。

沢山の可愛いドレスが目の前にあり、好きなだけ試してみて良いといわれたら嬉しいに決まっている。

だが、妙に不安と不信感があるのはなぜだろう。




「さ、まず初めにこの赤いドレスから試してね。
 次は、向こうのレースのドレス、次はブルーのドレス…その次は…。」



本気で嬉しそうなネアダネル。

だが、は本気で怯えていた。



「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」


部屋中に木魂する悲鳴。

だが、さすがネアダネルとフェアノールの寝室。

防音は完璧だ。
















ところ変わって下でマグロールの淹れた紅茶を味わっている双子。


「なぁ、今の声が聞こえなかったか?」

「さぁ?」


どうやら彼らは現在妹が着せ替え人形になっていることに気づいていない模様。



マエズロスとマグロールはおそらく今ネアダネルとがいる両親の寝室で
何が行われているかだいたい予想がついていたが、あえて双子には教えない。



「紅茶のおかわりはいかがですか?」

丁度双子のカップが空になったところで、マグロールがティーポットを持ってさらに勧める。


彼らも素晴らしい香りと味を醸し出すマグロールの紅茶がとても気に入り
それを笑顔で受けた。


「本当美味しいです。」

「まるでエレストールみたいだ。」



するとマグロールとマエズロスは首を傾げた。

「エレストールとは…どなたですか?」



すると双子はいつもの悪戯を思いついたときに笑顔で答えた。


「エレストールっていうのは僕らの住んでいるところにいるエルフなんですが。」

「すっごい怖いんですよ。」

「そうそう、顧問官のくせに武官長より強いし。」

「彼の投げるナイフや両手で操る短剣は恐ろしいくらい的確に急所をしとめるし。」

「曲がったことが大嫌いだから、何かあったら自分の主であろうと説教し始めるし。」

「仕事魔だよね。いっつも夜中まで部屋の明かりが消えないし。」

「エレストールの授業ほど苦痛なことは無いよね。
 もう薬草学の時なんて毒草を笑顔で説明する彼は恐ろしいの一言に尽きるね。」

「エレストールって結構中性的な顔立ちだし、結構華奢だからさ、」

「前の収穫祭でうちの武官長がふざけてエレストールが実は女じゃないかって
 後ろから抱きついて胸を弄ったら…」

「10秒でボッコボコ!!」

「あの時のエレストールの関節技、素晴らしかったな。」



それを聞いているマエズロスとマグロールは“そんな恐ろしいエルフがいるなんて知らなかった”
と、会ってみたいと期待と恐ろしい…という畏怖が混合していた。







すると、その時彼らの寛いでいるその部屋の扉が勢いよく開かれた。


「マエズロス兄上!!マグロール兄上!!双子!!双子は知らないか!?」



そこに現れたのは緩く波打つ見事な金髪をもつ男性エルフ。

おそらく双子たちと年は変わらないか少し年上くらいだろう。



そんな彼は怒りに駆られている模様。



「ケレゴルム。双子ならここにいるぞ。」

冷静にエルラダンとエルロヒアを指差すマエズロス。


指差された方向をきつく睨みつけるケレゴルムと呼ばれた金髪のエルフ。


だが、指差された方向には見覚えのない双子エルラダンとエルロヒア。

一瞬にして彼の怒りは収まった。



「兄上たち…。この二人は…?」


するとマエズロスは笑顔で答えた。


「ああ、そこの草原で道に迷ったと言って困っていたんだ。
 しばらくここの砦に留まっていただくからそのつもりでいるんだぞ。」


マエズロスの横ではマグロールが同意するように笑顔で頷いている。


「ち、ちょっと待ってくれ!!そんな素性の知れないエルフたちをここに置くのか!?
 正気か!?兄上たち!!」

「私たちは正気だ。母上も賛成してくださった。
 安心しろ。彼らは敵ではない。」




だが、ケレゴルムは納得していない模様。

彼はその金髪を揺らしながら双子の前の椅子に座り二人をにらみつけた。


だが、彼も兄たちの判断には逆らえないらしい。

ぶつぶつと文句を言いながらも、マグロールが準備したお茶請けのクッキーを食べ始めた。






すると、またつい今ケレゴルムが現れた扉が再び勢い良く開かれた。


もし、このような行為が日常茶飯事なら、ここの建物の扉は余程頑丈に作られているのだろう。

まったく壊れる様子は見られない。



さて、その壊れそうなくらいの勢いで開かれた扉からは今度は黒髪のエルフが登場。


無造作に後ろで縛られた長い黒髪に、釣り気味のグリーンの瞳。

見るからに生意気そうな表情。



年はエルラダンたちより少し年下くらいだろう。




「どうした?カランシア。」

マエズロスがマグロールから紅茶のおかわりを貰うと平然と理由を聞いた、


「双子!!双子はどこだ!?」



ケレゴルムと同じことを言う。

さすが兄弟というべきか。



「双子ならここにいますよ。」

再び指をさされるエルラダンとエルロヒア。




そして案の定驚くカランシア。

「だ、誰だ!?お前たち!!」


とっさにカランシアが携帯している腰の剣に手を掛けようとする。


双子もそれに素早く反応、反撃しようと構えたとき…





どかっ!!






カランシアの鳩尾に一撃、そして崩れ落ちる。



「失礼しました。彼は四男のカランシア。少し怒りっぽいんですが、素直じゃないだけなので
 大目に見てやってくださいね。」


笑顔でカランシアに攻撃をした本人、マグロールがカランシアの身体を支えながら言った。

その身体をケレゴルムの隣の席に座らせて、目覚める様子は無いがとりあえず紅茶を置いておく。




全ての作業を笑顔で無駄なく行うマグロール。

エルラダンとエルロヒアはあるいみエレストールより恐ろしいエルフを目にした気分だった。





さて、ケレゴルム、カランシアに続きこの順番から来ると次に現れるのは誰かは予想がつく。






「双子!!何処だ!?」


案の定扉を蹴破って現れたのはまだ声変わりを迎えたばかりであろう男の子のエルフ。


背の高い兄弟たちの中で成長期前のせいだろうか、女の子と言われてもあまり疑いを
持たない可愛らしい顔立ちをしていた。



「双子ならここにいる。」



まだ目覚めていないカランシア以外の兄弟が同時にエルラダンとエルロヒアを指差した。


もう二人もどうにでもしてくれ、と言わんばかりに呆れ顔。



「誰です?この人たち。それより!!あの馬鹿双子は!?」



今までではじめての反応。



「五男のクルフィンです。兄弟内で一番のマイペースなんですよ。」


だから、自分の関心以外には比較的何があっても我関せず。


にも関わらずこの怒りっぷり。

エルラダンとエルロヒア以外の双子とは一体何をやらかしたのか。






とりあえず、エルラダンとエルロヒアの前に兄弟たちが右から
マエズロス、マグロール、ケレゴルム、カランシア(目覚めたらしい)、クルフィンの順に
座りそれぞれが紅茶を飲んだりお菓子食べていた。




エルフはもともとそこまで子供を作ると言うことはしない種族。


大体多くて3人。

たちは4人兄弟のためよく子沢山だな、と言われエルロンドが苦笑いしていたのを覚えている。



しかし、ここにいる兄弟たちはそれを軽く上回る。



歴史上一番の子沢山だったと言われているフェアノール一家。

それを目の当たりにしてエルラダンとエルロヒアも驚くばかり。






すると、廊下から少し高い笑い声が聞こえてきた。


『で、ケレゴルム兄上の馬にどうしたの?』

『額に油性ペンで“肉”って書いてヒゲも着けてあげたんだ。
 そういえばカランシア兄上の本にはどうしたの?』

『表紙だけ入れ替えて中身をケレゴルム兄上の部屋から拝借した
 えっちな本にしたんだ。』

『そういえばクルフィン兄上はどうしたかな〜?』

『大切な工具箱にい〜っぱいミミズ詰め込んだからね。』




“あはははは〜”と木魂する同じトーンの笑い声。

そして、それと同時に比較的今までで一番ゆっくりと扉が開かれた。





そこにいたのはまだ幼い赤い髪の双子。

幼いといってもと変わらないか少し年上くらい。


しぐさも声もまったく同じ鏡のような双子。



自分たち以外のエルフの双子と言うのは出会ったことが無いため
エルラダンとエルロヒアは不思議な感覚にとらわれた。



だが、その空気はケレゴルム、カランシア、クルフィンによって一掃される。




「やっぱりお前たちか…俺の愛馬に肉とヒゲを書いたのは…」

「お前たち…俺の本にあんな卑猥な…っ!!」

「僕の工具によくもミミズを詰め込んだな…。思わず握り締めたじゃないか…。」





“覚悟はいいか”と3人は指の骨をパキパキ鳴らす。

冷や汗を掻く赤毛の双子。



彼らはヤバイと感じるとさっさとマエズロスとマグロールの後ろに隠れる。


「怖いです〜。」

「兄上たちが僕らを苛めるんです〜。」



明らかに嘘泣き。

怒っている3人にとってはさらに怒りが増徴する。



「この双子!!」

「今日という今日はゆるさないからな!!」

「覚悟しろ!!」





その掛け声と同時にフェアノール一家恒例(一部だけ)兄弟鬼ごっこ大会開催された。



「すみませんね。騒がしくて。男兄弟だとこういうことが多くて。」


優雅にお菓子の追加をしながら優美に微笑むマグロール。

背後では壮絶な鬼ごっこ(双子は楽しんでいる模様)が繰り広げられているというのに。






「「…いえ……」」




エルラダンとエルロヒアは搾り出すようにそうこたえるしか出来なかった。



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2004/07/04

とりあえず、全員兄弟を出しました。

ヒロインあまりいませんね…。


次こそこの一家の主が登場します!!
そう…彼です。



火の精の異名をもつ…
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