さて、色々あったが何とか、エルラダン、エルロヒアはフェアノール家の滞在を認められた。


裂け谷からこのアマンに来てすでに半日は経とうとしていた。




エルラダンとエルロヒアはともかく、は裂け谷以外はロスロリアンへしか
行ったことがない。


だから、きっと心細い想いを…










していなかった。








「このスープすっごい美味しい!!」


スプーンを片手には感動して頬が高揚する。


ここはフェアノール家の幾つかあるうちの一つのダイニングルーム。


エルフの歴代でも大家族といえるフェアノール家の全員が
顔を見合わせて食事が出来るくらいの広さがある。


その中には本日は、エルラダン、エルロヒアもいるわけで。





「ありがとうございます。」

このスープの製作者はマグロール。


普段は侍女たちが作るのだが、今日はたちの歓迎の意として
マグロールがその腕を振るったのだ。



スープだけではない。

前菜からメイン、デザートまで全て彼のお手製。



裂け谷3兄妹はそれらの料理に舌鼓を打っていた。

もちろんマグロールの両親もその料理に満足のよう。



だが、一部でバトルロワイヤルが繰り広げられていた。



「カランシア兄上が僕のお肉取った〜!!」

「お前が残してたからだろ!!」

「最後に食べようと思ってたんだよ!!」

「まったくガキだなお前ら。」

「とかいってケレゴルム兄上。僕のフルーツ取らないでください。」

「クルフィン、そんな細かいことでガタガタ言うな。」




どうやら食べ物の取り合いが三男から七男にて行われている。

それを呆然と見守るたち。


マエズロスとマグロールに至っては慣れているようで隣で優雅にパンをちぎっている。


ネアダネルはニコニコとフェアノールにワインを注いでいる。

フェアノールは眉間に皺が寄っているが、この食事の席で下手に騒ぎたくないのだろう。





「…うちの食事ってすごく静かだったんですね…」

の呟きに双子は大きく同意する。


裂け谷での食卓は無言ではない。

がその日の出来事を話し、エルロンドが相槌を打つ。

双子がたまに馬鹿なことをするがエルラダンとエルロヒアも
食事くらいはまともに摂りたいらしい。







そんな騒ぎを余所に、は鮮やかな赤いニンジンを皿の横に寄せる。



はニンジンが苦手か?」

それを目敏く発見したのは長男の性質なのかマエズロス。


「えっ…は、はい…どうしてもこの変な甘さが…」

の答えに素早く反応を見せるのは双子のアムロドとアムラス。



「え?もそうなの?」

「実は僕らも〜。」


ニコニコと笑う双子は忌まわしきニンジンをカランシアのお皿に引越しさせていた。





「双子は別にいいですが…もでしたか。すみません…知りませんでした。」


双子の好き嫌いは気にしないがの好き嫌いは気になるようで。
すまなそうに苦笑いするマグロール。


「そ、そんなっ。お気になさらずに、マグロール様。」


悪いのは

だが、優しい伶人は少なからず後悔の念が見える。



「じゃあ、私がのニンジンを頂こう。」


マエズロスが横からフォークを差し伸べの皿の隅に詰まれたニンジンに刺そうとする、が、


それは意外な人物によってさえぎられた。



「マエズロス。甘やかすな。それはが食べるべきだろう。」


そういったのは今まで静かにワインを飲んでいたフェアノール。

「で、でも…どうしても食べられなくて…」


今までもエレストールやエルロンドに言われ続けたがどうにかして乗り越えてきた。


それほどまでに嫌いなのだ。


だが、それだけでは許さないのがフェアノール。


「そう言っていてはいつまでも食べられん。
 それに、そのようなことは食事を用意したマグロールに悪いと思わんのか。」


確かに、彼が言っているのは事実である。

好き嫌いで残してはわざわざ準備してくれたマグロールに失礼である。



一人葛藤していると先ほどまで食べ物の取り合いをしていたケレゴルムが
ニヤニヤと笑いながら追い討ちを掛けた。



「そんな風に好き嫌いばかりしてるからいつまでもおこちゃまなんじゃねぇの?」




その言葉にの心に闘争心がついた。

と、言うのもは最近子ども扱いされるのがどうも嫌ならしい。


以前のように大人願望とは違うが、変に子ども扱いされるとひとりふて腐れてしまう。

そんなところがまだ子供なのだが本人は一向に気づかない。



は子供なんかじゃありません!!」

そう言うと赤くつやつやと光るニンジンを勢い良くフォークにさす。



「………」

汗をかきながらそのニンジンを見つめる

回りも思わず静まり返りとニンジンを見守る。



彼女は意を決したようにそれを口に運ぶと、息を止めてもぎゅもぎゅ噛む。

もちろん味わう気なんてさらさらない。


咽喉を大きく鳴らし飲み込むと大きくため息をついた。




やはりあの変な甘さが嫌いらしい。


だが、我慢して残りの幾つかのニンジンをさっさと片付ける。


全て皿から消えることにはの目じりに生理的な涙が溢れた。



!!全部食べられたじゃない。」

「偉いぞ〜!!」


左右に座った兄たちから頭を撫ぜられる。


双子に褒められてもまだ口にニンジンの味が残っていてあまり喜べない。



すると、意外な人物からも褒められる事になった。


「良く食べたな。次からもそうするように。」

それはなんとこの砦の主フェアノール。

は史実が先入観としてあるせいか、どうもフェアノールに対して
畏怖の感情を持ってしまう。


だが、そんな彼が小さく微笑んでを褒めたのだ。


は嬉しくなり頬を赤らめて微笑んだ。



「さて、も食べたのだからアムロドとアムラスも食べるんだ。」

横からその光景を眺めていたマエズロスが最後の1個のニンジンの引越しをしている
双子に注意をした。


その後、双子とマエズロスの攻防が繰り広げられることになった。













   ***************************************







食事も終わり満足そうには建物の内部を歩いていた。


すると後ろから聞こえる足音、といってもエルフなので人間の聴力程度では全く聞き取れないが。



、こんなところにいたのね。」


それは赤い髪をもつこの砦の奥方ネアダネル。


「ネアダネル様。いかがなさいました?」

「あのね、にお願いがあるの。」


くすくすと嬉しそうなネアダネル。


「お願い…ですか?」


「ええ、あのね…」



ワンテンポおくとネアダネルは笑顔で答えた。




「一緒にお菓子作りましょう!!」




「…え?」




は一瞬耳を疑ったが、ネアダネルの嬉しそうな表情に
その言葉は間違いないと悟った。


「私ね、娘とお菓子を作るのが夢だったのよ。」

瞳を閉じて回想をしているネアダネルは本当に嬉しそうで。


だって見ず知らずの自分を娘のように想ってもらえるのは嬉しい。


「あたしでよろしかったらご一緒しますわ。」








さて、フェアノール家のキッチンに立つネアダネルと


二人ともしっかりエプロンをしている。

に至ってはピンクのエプロンドレス。



もちろんネアダネルの趣味である。



はお母様と一緒にこうやってキッチンに立つことはあるのかしら?」

「いえ、あたしはお母様とは一緒に住んでいなかったんです。」



の母、つまりケレブリアンは実家でもあるロスロリアンでアルウェンと共にいる。

それはエルフの都でもあり、おそらく一番安全だろうということで
エルロンド自身が提案したことであった。


は嫌がって裂け谷にいるが…/Anothre story 2参照)


だが、ネアダネルは何を誤解したのか、の両親は不仲で
別居をしていると解釈したらしい。



っ!!寂しかったでしょう。でも大丈夫よ。
 これからは私をお母様と思っていいからね!!」


抱きしめて頭を撫でる。

はイマイチ事情が飲み込めないが、とりあえず礼を述べることにした。



さて、本日のメニューは桃が美味しい季節になってきたということで
クリームたっぷりのピーチパイ。


難しそうに見えて意外と簡単。

ネアダネルはパイの器を作りはカスタードクリームを作る。



「そういえば、は好きな殿方はいるのかしら?」



そのいきなりの質問に思わず火に掛けていたクリームをこぼしそうになる。


「えぇ!?な、何で…」

「あら、その反応はいるのね。さぁ、白状なさい。」


今までずっと嬉しそうだったネアダネルだが今はこれまでの中で最高潮の反応だ。


も彼女にエレストールの話をしてもあまり問題は無いだろう、と
高をくくり正直に答えた。


「…実は…あたしの住んでいる館で働く宮廷顧問長なんです…。」



小さな声で呟くと少し驚いた表情のネアダネル。


「え?宮廷顧問長…?つまり、家臣…?よね。」

「いいえ、ちょっと違います。元々父の同僚の方といいますか…
 ちょっと複雑なんです。」


語尾を濁しておいたが、実はもイマイチ理解していなかったりするのだ。

あまりエレストールは自分の過去を話したがらないから。



「そう、でもそうなるとより年上よね。」

「はい、もうあたしの何倍も年上なんです。」


エルフのため詳しい年齢は不肖だが、下手するとエルロンドより年上の可能性だってある。

のその彼のこと…好きなの?」


ネアダネルの慈しむ様な表情に、は満面の笑みで頷いた。


「はいっ!!そりゃあ自分にも他人にも厳しいですし、怒ったらすっごい怖いですし。
 それに仕事の鬼で中々遭えないし、規則に忠実で遊び心も少ないし…」


そこにもし双子がいたら間違いなくさらに色々なエピソードを持ち出しただろう。

だが、はそこでワンテンポ置いた。




「…でも、本当は誰よりも優しい男性なんです。」


幸せそうな

ネアダネルもその表情でが本当にその男性を好きだと言うことが分かりなんだか嬉しくなった。



の恋が…実ることを私も祈っているわね。」


どこか遠き地にいる母と重なるネアダネルの笑顔には嬉しさと、
ほんの少しの寂しさを感じた。








さて、パイは完成。

あとは半日ほどおいておいたら味がなじんで美味しく食べられる。


ちょうど就寝時間になったため次の日のお茶の時間で皆に配ることにした。


は自分用の部屋(実はネアダネルとフェアノールの寝室の隣)でネアダネルと別れると
部屋で寛ぎベッドにダイブする。

そして疲れのためかはたまた緊張のためかそのまま夢の小道に意識を飛ばした。





一方ネアダネルはキングサイズのベッドに幾つかのクッションを背にして本を
読んでいる夫の布団に入り込みニコニコと笑っていた。


「何かあったのか?」

本を閉じ、良く梳かされた妻の赤い髪を梳く。


するとネアダネルはまるで少女の秘密ごとのようにフェアノールに耳打ちをした。


「今、とお菓子を作っていたんです。
 そこで聞いたんですけど、って慕っている殿方がいるようですよ。」


ネアダネルは本当に自分の娘が恋をしているような母親の気分に浸っていて上機嫌。


だが、フェアノールは急に不機嫌になったのは気のせいだろうか。


それはまるで、自分の娘が他の男に盗られたかのような表情で。



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2004/07/11


あはは〜w
思い切り趣味に走ってますね。
フェア×ネア風味です。

ネアダネルがお母さんぶっています。
彼女は絶対娘が欲しかったと思うんですよね…。

ちなみに次は兄弟たちと絡む予定です。

(イラストサイトのCG描いてるので遅いかもしれませんが…)
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