翌朝(と言って正しいかは定かではない)マエズロスが起床後、
身支度を整え朝食専用のダイニングへ向かう。


柔らかい金色の光が砦に差し込みとても眩しい。

マエズロスは目を細め窓から外を覗き込むと、テラスにあるティータイム用の
テーブルに二人の人物を見つけた。




「おはようございます、マエズロス兄上。」

「ああ、マグロール。おはよう。」

「何をご覧になっているんですか?」


するとマエズロスは目で窓のそとの光景を見ろとマグロールに促した。



そこにはテラスにある椅子にが座りネアダネルはそのの髪を櫛で梳いている。

その柔らかい絹糸のような銀糸を優しく結い上げ丁寧に編みこんでいく。


その光景はまさしく本当の母娘。



「本当に母上はがお気に入りのようですね。」


マグロールはその光景に思わず目を細めて微笑んだ。


「いや、それだけじゃないぞ。」


マエズロスは異を唱えると少し目線をずらし渡り廊下の柱の影を見る。


そこには密かにその光景を見ているフェアノール。


彼もとネアダネルを微笑みながら見ているのかと思いきや、
その表情には不機嫌さがありありと表れている。



「……父上は…一体何を不機嫌そうに二人をご覧になっているのでしょう。」

マグロールは少し考え込むと一つの答えに行き着いた。



「父上は母上を愛していらっしゃるから、母上を盗られて不機嫌なのでしょうか?」


するとマエズロスは肩を竦めて答えた。


「それか父上が自分での髪を編んで
 自作の髪飾りを着けてあげたかったからじゃないか。」


二人は目を合わせるとくすくすと笑いあった。










の髪も綺麗に編み上がり、おそらくフェアノール作の髪飾りで飾られた頃
丁度朝食の時間となった。


朝から昨日みたいな料理の取り合いが行われるのかとため息をついていたが、
予想とは裏腹に朝食はとても静かなものだった。


その理由は、フェアノール家の兄弟たちは寝起きが悪く、
この時間ではまだ殆どの兄弟たちがおきていることは無かった。


起きているのは文頭にもいたマエズロスとマグロールのみ。


エルラダンとエルロヒアも起床しダイニングに来ると早々と食事は始まった。


ダイニングにいるのはこの砦の夫婦、その長男と次男、
そしてたち3兄妹だけ。


そのせいかとても静かな朝食だった。




、エルラダン、エルロヒア。食事の後少しいいかな?」

急にマエズロスから話しかけられ3人は同時に顔を上げて首をかしげた。



「この砦の中を案内していなかっただろう。
 案内をしておいたらここにいても不自由しないだろう。」


マエズロスの提案に3人は笑顔でそれを承諾した。









「その部屋は武器がしまわれている。隣は倉庫で幾つか絵画等がある。」


一つ一つの部屋を丁寧に説明するマエズロス。

この砦は壁に囲まれ閉鎖的に感じるが、中はとても広い作りで迷いそうになる。



「そして、ここが書物庫だ。」


両開きの扉を開くと本独特のにおいを感じる。


「ここはいつでも開放されているから好きに読んでくれてかまわない。」



伝承の大家とされる裂け谷の書庫ほどではないが、ここにも大量の本が保管されている。


「すっごい…全部第3期なら貴重書物よ。」


手に取った本はたちがここに来る前にいた秘蔵書庫にありそうな本の数々。

それもしっかり完璧な状態であるのだ。


「エレストールがいたら喜びそうだね。」


エルロヒアの呟きにエルラダンは同意してくすくす笑った。




一通りの説明を受け、ある程度理解するとマエズロスは今度は外を案内すると言った。

だが、はそれを断った。



「申し訳ありませんが、あたしは先ほどの書物庫へ行きたいのですが…。」

するとマエズロスは少し苦笑いしてそれを承諾した。


行かないの?」

エルラダンとエルロヒアの表情は少し不満そうだ。


「ええ、だってもしかしたらあそこの本に帰り方が載っているかもしれないでしょ?
 ここに来る前だって書庫にいたんですからもしかしたらあそこに鍵があるのかもしれません。」


すると双子は確かに、と納得したが、それだけでの手伝いをしないようだ。

なぜなら彼らは大人しく室内で本を読んでいられるほど本好きではないから。



二人はマエズロスについて外へ行くことにした。




さて、一人残された

大量の本に囲まれながら適当に本を手に取り、
なれないクウェンヤ語に四苦八苦しながらもゆっくりと読み進めていった。


読み始めてから2時間ほど経った時、ふと扉を軽くノックする音が聞こえそちらに目線を移す。


そこには紅茶を手にしたマグロールが立っていた。


「マエズロス兄上がここにいると仰っていたので。」

そう言って彼はが読んでいる本の横に見事な細工が施されているティーカップを置いた。


優しい花の香りが室内に広がり、は誘われるようにその紅茶を口にした。



「美味しいです。ありがとうございます。」


の素直な反応にマグロールも満足そうに微笑んだ。



は本がお好きなんですか?」

「え、ええ…。」


確かに好きだが今は帰るための情報収集に近い。



「では、私の部屋にある本を幾つか貸して差し上げましょう。
 ここに無いものも多いですよ。」

「本当ですか?ありがとうございます。」


の答えを確認するとマグロールは本をとりに行くためにその場を後にした。




そして、はまた本を読み始める。


すると再び扉が開く音が聞こえた。


マグロールかと思いそちらを向くとそこには見事な金髪。


「…ケレゴルム様。」

「ああ、本当にここだったんだな。」


そう言うと彼はの隣にどさっと座り、頬杖をつきながらマジマジとを見た。


「…何か?」



するとケレゴルムは不敵に笑った。

「いや、初めは子供って思ったが、こう見ると結構いけるんじゃない?」


褒められているはずなのに全然嬉しくない。

「ありがとうございます。」

本から目を話さずに淡々と礼を述べる。


「今すぐは無理だが、あと500年位たったら俺の女にしてやるぜ?」


そのケレゴルムの言葉に思わず“はぁ!?”と呆れた声を上げた。

「結構です!!」


明らかに不機嫌になる

だが、ケレゴルムは飄々としている。


「遠慮するなって。後悔させないぜ?」

いつまでも自信過剰なケレゴルムにはこの上ないくらい美しい笑顔で言った。


「申し訳ありませんが、あたし黒髪のエルフ以外とお付き合いする気ありませんので。」


もちろん嘘であるが、は今エレストールを想っている。

どちらにせよお断りなのは変わらない。



そんなにケレゴルムは肩を竦めて苦笑いした。


「ケレゴルム兄上。女性を見境なく口説くのは感心しませんよ。
 先日マエズロス兄上に注意されたばかりでしょう。」


急に声が聞こえたので驚いてそちらをみると呆れた表情のクルフィン。


「クルフィン。目の前に乙女がいて口説かないのは乙女に対して失礼だろう?」

「先ほどまで別の乙女に口付けをしておいて
 その唇で他の乙女に愛を囁くのは失礼ではないのですか?」


フェアノールに似た鋭い眼で睨みつけるとケレゴルムは冷や汗を掻く。



「クルフィン様。何か御用ですか?」

するとクルフィンは思い出したような表情をすると、一つの箱をに差し出した。


「これは?」

「父上からだ。父上は失敗作だから欲しかったらやると仰っていたが、
 おそらくのために作ったんだと思う。」


その箱を開けると赤いルビーの輝きが眩しい花のモチーフのついた可愛らしい首飾り。


「綺麗…あとでフェアノール様にお礼しないと。」

嬉しそうにしているをクルフィンは無表情で見ていると不意に口を開いた。


「僕だって父上ほどじゃないけど細工の技術がある。
 僕が作ったものもは受け取ってくれる?」

彼がに好意があるかどうかは別として、
クルフィンは必死にフェアノールに追いつこうとしているのがよく分かった。

そんな彼にはくすりと笑って丁寧に首を立てに振った。



すると今度は勢い良く扉が開かれた。

「「!!隠れさせて!!」」


同じ声で同じことをいう双子。

エルラダンとエルロヒアではなくて、赤髪のアムロドとアムラス。


は驚いて声が出ないでいると、双子はそそくさとのいる机の下にもぐりこんだ。


それに続いて扉を勢い良く開けたのはカランシア。


「双子!!どこだ!!」

ここは書物庫であるはずなのにバタバタと走りながら双子を探し回る。


「カランシア。双子は今度何をやらかしたんだ?」

「あの双子、俺が寝てる間にベッドに蟻を大量に忍ばせたんだ!!」


思わず想像してしまった…気持ち悪い…。


これは双子は叱られるべきだろう。


「カランシア様、カランシア様。」


笑顔で手招きする

そしてその笑顔のまますっと机を指差した。


その行動だけで察しがついたカランシア。


無言でスタスタと机に向かうと屈んで机の下を見る。


「み〜つ〜け〜た〜」


さしずめ怪談話に出てきそうなセリフ。

双子はつかまる前にさっと机の下から抜け出した。

「待て!!逃げるな!!」

追うカランシア。


「「捕まる位なら逃げる!!」」

逃げる双子。


いつまでも終わらない鬼ごっこに本棚がゆらゆらとゆれる。

もしここの本棚が崩れたらエルフとはいえ無事にはすまない。


焦るだが、彼女はカランシアと双子を止める術を知らない。



そんなとき、救世主が現れた。


「…何を騒いでいるんですか?」


数冊の分厚い本を抱えたマグロール。

その表情は笑顔であるはずなのに背筋が凍る。


「カランシア、アムロド、アムラス。あとケレゴルム。
 ちょっと応接室へ。」


「ち、ちょっと待ってくれ!!なぜ俺も!!」

反論するケレゴルム。


「その辺りにいる女性を口説くのはいいとして、その毒牙をに向けたでしょう。」


なぜそれを知っているんだろう。


3人は青ざめた表情で、だが逃げることも出来ずにマグロールについていった。

その後、彼らがどんな仕打ちを受けたかは誰も知らないし、3人も語ろうとはしなかった。



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2004/07/19


とりあえず兄弟との絡みで。

ケレゴルムがナンパ男ですみません。
でも、彼はなぜかそういうイメージが…(汗

まだ続きそうです。このシリーズ。
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