芸術的評価が高い彫刻に囲まれた湯殿。


象牙のような滑らかな浴槽には金の飾りがついていて。


中にはたっぷりの湯に幾つかの花が浮かべられている。






はそれを掬い上げて花の香りを楽しんでいた。

先ほどまで髪を洗ってくれた侍女たちは皆退出して、
湯気に包まれたその空間には一人になっていた。



「ん〜気持ちいい。」

10人位同時に入っても全然余裕の広さの浴槽にはだけ。

手足を存分に伸ばし、体いっぱい湯を堪能していた。



「あ、そうそう。」


思い出したように近くにある小さな台に手をのばす。


其処には幾つかのブラシや石鹸と一緒に小さなクリスタルの瓶が置かれている。






はその瓶を手にとると、蓋を開け改めて香りを堪能する。


「本当にいい香り。」


その香りに満足すると数滴湯船の中に落とす。



するとそれは湯気により香りが空間に放たれ、瓶から香りとは少し違った雰囲気を醸し出していた。


「それで、強く願うのね。」




先ほどこの瓶と一緒に付いてきた手紙を思い出しながら、は両手を組んで瞳を閉じる。






「どうかあたしをすぐに大人にしてください。
 すらりと伸びた身長、ほっそりとした手足、ふかふかな胸
 どうかお願いします。」


自分の理想的な身体を思い浮かべながら“む〜”と強く祈る。



その瞬間一瞬だけ香りが変わったような気がした。




閉じていた瞳を開けて不思議そうにするが、香りは変わらず。

“気のせいかな?”と勝手に自己完結することにした。




と、丁度その時入り口から侍女達の“早く上がらないとのぼせますよ”という声が聞こえ
足早に浴槽から身体を引き上げることにした。

















頬を上気させ月明かりに照らされたテラスで一人紅茶を飲む。


カップを片手にその香油を改めて見てみる。



ピンク色の透明な液体。

理想を叶えてくれるというが、実際はどうなのかは良く分からない。




「おまじないの一種…かな?」

「何がおまじないなんですか?」



の独り言に返事が返ってきて驚いたように振り向くと其処には夜の警備をしている武官長の姿。


「姫、部屋に戻りましょう。湯冷めしてしまいますよ。」

「あ、うん。じゃあそろそろ。」


急いで残りの紅茶を飲み干すと茶器をトレーに乗せグロールフィンデルの横を通る。



「ん?姫、何だかいい香りがしますね。」

「え?ああ、これよこれ。ロリアンにいるお母様たちからいただいたの。」



トレーに乗せたクリスタルの瓶を見せる。


「香油…ですよね?」

「うん。いい香りでしょう。」




笑顔で言うだがグロールフィンデルは少し苦笑いしている。


「…しかし…この香りは姫には少し早いのではないでしょうか?」



グロールフィンデルの言葉には首を傾げる。

「そうかしら?」



はこの香りは甘酸っぱい爽やかな香りで自分には合っていると思っていた。



だが、は知らないがグロールフィンデルはとは全く別の香りを感じていた。

まるで成熟した大人の女性が纏う妖艶な香りのような…。



もちろん嫌な香りではない。

だが、その香りは女性が男を寝台に誘うような淫猥な雰囲気があり、
グロールフィンデルは軽い眩暈を覚える。






「と、とにかく今日はもうお休みください。
 早く寝ないとエレストールにまた叱られますよ。」


少し意地悪そうに言うグロールフィンデルだが、は本気で恐怖を覚え足早に館に戻っていった。










部屋に戻り寝衣に着替えると、全身が映る大きな鏡が目に入る。


「…全然変わりなし…か。」



そこに映るのはいつもどおりの子供のエルフ。

「あ〜あ。やっぱり香油じゃあ大人になんてなれないわよね。」



残念といった感じで呟くと、その銀髪に櫛を通しさっさとベッドに身を沈める。



すると先ほどの香りがの全身を包んだ。





グロールってば…あたしには早いなんて失礼ね。

こんな爽やかな香りなのに〜…




少し頬を膨らませると、寝返りをして夢の小道にその意識を飛ばした。

















朝日が窓から射し込み鳥の囀りが聞こえる。


いつもは侍女たちが起こしに来てもなかなか目を覚まさないだが、
この日ばかりは何故かすっきりと目覚められた。




“ん〜っ”と大きく背伸びをし、差し込んだ朝日にが眩しそうに目を細める。





折角早起きしたのだから着替えて散歩をしようと、ベッドから降りた時
はふいに違和感を感じた。



なんだか視線がいつもより高い…というか、床までの距離が遠い?


そういえば寝衣がなんだか窮屈だ。





“おかしい…”と思い、姿見の鏡の前に立つ。


その時、は朝早いというにも関わらず絶叫した。




「な、何ですか!!今の悲鳴は!!」

その悲鳴を朝早くから仕事をしていたエレストールが聞きつけていた。




武器を手に持ち、女性顧問官と共にの部屋に向かう。





許可なしに近づいてはいけないが、尋常ではない叫び声。

規則云々言っている場合ではない。




本来ならグロールフィンデルも来るべきなのだが、
彼は朝にはめっぽう弱いのできっとまだ夢の世界を彷徨っていて起こしに行くだけ時間の無駄。




の部屋の前まで行くと、丁度の世話役の侍女たちも青ざめた表情で集まっていた。


「先ほど姫の悲鳴が聞こえて…」


青ざめた表情の侍女たち。




「落ち着いてください。とにかく、姫は中なのですね!?」

エレストールの問いにただ首を縦に振る侍女。



彼女達からの部屋の鍵を預かりエレストールが静かに鍵穴にそれを差し込む。

鍵を持つ手とは逆には良く研がれた短剣。




女性顧問官も武器を手にしたのを確認すると彼女達と目で合図をし、勢い良くドアを開けた。





「姫!!大丈夫ですか!!!!」



まさか、賊がの部屋に…と、エレストール達は想像していたが
中は至って静か。


家具が荒らされた形跡はない。


少し拍子抜けし、を探すと鏡の前で座り込んでいる彼女を発見した。



「姫?どうしたんで……」



そこまで声を発したとき、普段からは想像が出来ないくらい
エレストールは驚き、目を見開いていた。



「え、エレストール…あたし…成長しちゃった…。」



そう言って振り向いたは、昨日までのとは全く違った。




子供ではなく、下手すると双子達よりも年上ではないかと思える大人エルフ。

すらりと伸びた手足、豊かな胸、そして妖艶な雰囲気を漂わせる表情。



全くとは別人のようだが、どこかの雰囲気も残っている。



「ひ、姫…これは一体…?」




どうにか搾り出した言葉に、も動揺しながら答える。



「朝起きたらこうなってて…。」


伏し目がちになり、濡れた唇から紡がれる言葉にエレストールは
昨夜のグロールフィンデルと同じような眩暈に襲われる。





「……今すぐ卿を起こしてきてください…」

行き成りの指示に、それを言われた女性顧問官はワンテンポ遅れる。




「早くしてください!!これは一大事です!!!!」





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2004/04/05



やっちまったよ!!このネタ…

一歩間違えば裏に行きそうですね〜…。

いや、このFIRST LOVEシリーズでは裏は書かない予定です。
(書いたらエレストールは犯罪人になっちゃうし…)


でも、見たいって方がいらっしゃったらこっそり書くかも…(ぇ



とりあえず、今回のシリーズ今までで一番長くなるかも…
(未だに起承転結の承…
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