「…こ、これは一体……」



身支度の最中に行き成り呼び出されたエルロンドはもう絶句するしかなかった。


それもそのはず、つい昨日まで彼の腰くらいまでの娘が、
今では少し目線を降ろすだけで顔を見ることが出来るのだから。





「本当になのか…?」


「はい。そのはずです…。」



は自分の今までの服がどれも入らず、アルウェンの服を借りてきていた。


確かに髪の色、瞳の色、喋り方は愛しの娘。



だが、身長、表情は全く違う、別人のよう。


エルロンドだけじゃない。

早起きしてイタズラの仕掛けをしようとしていた双子もそのプランを忘れて驚きの表情。



「…僕らとそんな変わらない外見…」

「むしろ、僕らより年上なんじゃない…?」




普段自分達が周りを驚かせる立場だったが、今日ばかりは逆の立場になる。



「姫、何か変なものでも食べましたか?」




食べ物一つで一晩でこんなに成長するなんて、いつも冷静なエレストールらしからぬ発言。

だが、彼がそんな非論理的発言をしたくなる気持ちも分からないでもない。




「変な物って…別になにも……」


「じゃあ何か昨日特別にしたことは?」


エルロンドの質問にも同じ答えをしようとしたとき、一つの考えが浮かんだ。




“そういえば…湯浴みの時の香油…”


現実的に考えたら、たかだか香油一つでこんな変化がしかも一晩で起こるわけがない。


だが、これをくれたのは母や姉のみならず、
あの祖母ガラドリエルまで含まれているということを思い出す。



「どうかしたのか?」


「い、いえ!!なんでもありません!!」




きっとここでそのことを話すべきなのだろう。

だが、そんなことを言ったら自動的にエレストールへの想いまでバレてしまう。



ここは黙っておくべきだろう。





「卿、どうにか姫を戻す方法はありませんか?」

「方法といわれてもな…」



医学の大家と言われてもこんな症状は初めてで全く見当もつかない。


「とりあえず、ここにある医学書全てを見返してみよう。
 エレストール、手伝ってくれ。」


「もちろんです。あと、エルフのくせにいつまでも寝ているひよこ頭の英雄にも手伝わせましょう。」



一瞬誰のことを言っているか分からなかったが、ちょうどその張本人が
大きな欠伸をしながら入ってきた。


「おはよぉ〜ございますぅ〜。」




ただでさえでかい図体を更に大きく伸ばし未だに寝ぼけた口調のひよこ頭の英雄、
つまりグロールフィンデルはその空間とは場違いな存在。


「遅いです!!いつまで寝てるんですか!!姫の悲鳴で起きないで何が武官長ですか!!」


「“姫の悲鳴”って洒落か?エレストール」



ケラケラと笑うグロールフィンデルの姿は、もはやバルログバスターの名の陰もない。




本気でマンドスに送り返したい、と思ったのはきっとエレストールだけじゃないだろう。


「そんな馬鹿げたことはあれを見てからいいなさい!!」




額に欠陥が浮き出そうなエレストールが指差した先には、見事に成長した


「…だれ?」



眠気で瞼が下りそうになるのを必死に堪えながら、に近づきよく確かめる。


「…もしかして、姫…ですか?」



「え?なんで分かったの?」


いくら髪の色や瞳の色が変わらなかったといって、そうそう分かることではない。



「何でって…昨夜の香りがしたので。」






“香り”という発言にエレストールは不信な表情をし、はヤバいと焦る。


「どういう意味ですか?グロールフィンデル。まさか姫にふしだらなことをしたんじゃ…」


「そんなわけないだろ。昨夜湯浴みのあとテラスで涼んでる姫と会ったんだよ。
 そのときと同じ香りだったから。」


“香り”と言われては初めて自分の香りに気づいた。





昨日の爽やかな香りとは違う、妖艶な大人な香り。

確かに今現在のには合うだろう。




“犬ですか…貴方は”と嫌味をいうエレストールだが、
そのこと自体はスルーされたようではほっと胸をなでおろす。



「とにかく、これから私とエレストールと役に立つかどうかは分からんがグロールフィンデルで
 元に戻る方法を考えよう。それまで我慢してくれるか?」


を慰めるような表情のエルロンド。

彼だけじゃない、周りの双子やエレストールはを慰めるような目で見ていた。




だが、当のは悲しんでいる様子はない。


驚きはしたが、たった一晩で理想の姿を手に入れたのだ。

どこに悲しむ要素があろうか。






これってかなり美味しいんじゃない?


理想の姿になったんだしこれで何の引け目もなくエレストールを想えるし…。


まぁ、いつかお父様が元に戻る薬を作るか、この香油の効果が切れるまでに


両思いになったら…


あと何百年か待ってもらったらいいじゃない!!


そしたらまたあたしはこの姿になるかもしれないし!!









周りでは色々討論されているが、その対象のは一人心でガッツポーズ。




一度深呼吸するとその討論の声を遮るように言った。


「あのっ…あたしは大丈夫ですから…。
 だから、普段どおり接してくださいね。」


小首を傾げて懇願するような表情のにその場の男性エルフは動揺を隠せない。







そしてこの日から、が戻れるまでの間、裂け谷では珍しく騒々しい日々が続いたらしい。





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・・・書き終えてから言うのもアレですが、今回の話なくても良かったような…。

とりあえず、周りの反応とヒロインの心境を書きたかったんですが、
それってその気になれば5、6行で終わるな…。


まぁグロールの寝起き姿かけただけ満足(ぇ

次から話の本題に入ります。
無駄に長いですが、お付き合いくださると嬉しいです。
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